2020年 バングラデシュの労働事情

2021/1/22 報告

 国際労働財団(JILAF)は、2021年1月18日~22日、バングラデシュの労働組合活動家に日本の労働事情などについての知見を深めてもらうためのプログラムを実施した。プログラムはCOVID-19パンデミック禍にあって、オンラインにより実施されたもので、以下は、参加したITUC-BC(ITUCバングラデシュ協議会)を構成する6つのナショナルセンターの報告資料等の概要を参考にまとめたものである。

<オンライン・プログラム参加者>

バングラデシュ自由労働組合連盟(BMSF)
ラシェドゥル イスラム(Mr. Rashedul Islam)

教育・研究担当次長

バングラデシュ民族主義労働組合連合(BJSD)
タマンナ ビンテ アラムギル(Ms. Tamanna Binta Alamgir)

青年委員

バングラデシュ労働連盟(BLF)
ムクティ アクター アスマ(Ms. Mukti Akter Asma)

全国女性家内労働者組合委員長

バングラデシュ自由労働組合会議(BFTUC)
タマンナ ビンテ アザド(Ms. Tamanna Binte Azad)

バングラデシュ鉄道労働者連盟書記次長

労働組合連盟(JSL)
ムサマット ジャキア ベグム(Ms. Musammat Jhakia Begum)

女性委員会委員

バングラデシュ・サンジュクタ組合連盟(BSSF)
ジャヒド ハサン ショボン(Mr. Jahid Hasan Shovon)

青年委員

 

1.基本情報

 面積は約14万7千平方キロ、人口は約1億6,760万人、政治体制は共和制をとっている。
経済成長率(実質)は2016年が7.11%、2017年が7.28%、2018年が7.86%、2019年が8.15%(IMF)と高成長を維持してきたが、新型コロナウイルス感染症の影響下にあった2020年についてはIMF推計(2020年10月)で3.80%となっている。主要産業は衣料品・縫製品産業と農業で、衣料産業は世界のアパレル大手からの委託生産を担っている。また、輸出品の約8割は衣料品が占めている。
 消費者物価上昇率は2016年が5.92%、2017年は5.44%、2018年5.78%、2019年5.48%であった(IMF)。また、一人当たりGDP(名目)は2016年が1,371米ドル、2017年が1,530ドル、2018年は1,662ドル、2019年1,816ドルであった(IMF)。バングラデシュ統計局が2020年8月に発表した1人当たりGDP(2019年7月~20年6月)は2,000ドル間近の1,970ドルで、順調な伸びを見せている。
 こうした順調な経済成長を背景に、2018年3月には国連のLDC(後発開発途上国)卒業基準3項目を全て達成した。今後の実績評価において問題がなければ、2024年にLDCを卒業する見込みとなっている。
 最低賃金は、産業別に設定されているが、一般的には主要産業である衣料産業に適用される最賃額で表わされる。縫製工の場合、技術レベルにより金額が異なるが、初級レベルに適用される最低賃金月額は、2010年に3,000タカであったものが2013年に5,300タカに、2018年には8,000タカ(2020年12月25日付為替レートで約9800円)に改定された。
 失業率は2019年が4.19%、2020年が4.15%(バングラデシュ統計局)であった。
 法定労働時間は1日当たり8時間、週48時間で、時間外労働を入れた場合の1日当たりの上限は10時間、週60時間となっている。なお、時間外労働に対する割増率は10割となっている。
 労働組合のナショナルセンターはバングラデシュ自由労働組合会議(BFTUC)、バングラデシュ労働連盟(BLF)、労働組合連盟(JSL)、バングラデシュ民族主義労働組合連合(BJSD)、バングラデシュ自由労働組合連盟(BMSF)、バングラデシュ・サンジュクタ組合連盟(BSSF)など、大小を含め30程度の組織があると言われているが、記載の6組織がITUC(国際労働組合総連合)に加盟し、「ITUCバングラデシュ協議会(ITUC-BC)」を結成している。

2.労働を取り巻く現状と課題

(1)労働法(2006年制定、2018年に最終改定)をめぐる課題

  • 労働法は、労働組合は登録・認可をもって正式に認められることを謳い、登録にあたっては手続きが複雑なだけでなく、当該企業の事業所(複数の事業所を有する場合にはその全て)の全従業員の20%以上を組織することを組合成立要件としている。一方、労働法が対象としている産業は一定の範囲にとどまっており、労働力人口の87%(2016年労働力調査)を占めるインフォーマル経済については、その諸産業の大半が対象外となっている。こうしたことが労働組合組織化の障害になっている。

(2)労働運動が直面する課題

  • 労働運動にとっての最優先課題は未組織労働者の組織化である。と同時に、劣悪な労働安全衛生や不安定雇用の問題、インフォーマルセクター労働者の処遇改善、労働組合の能力向上などが重要課題になっている。
  • 組織化においては、使用者による妨害が多発している。その例として、組合結成メンバーへの脅し(解雇警告など)や、従業員に対する採用通知や身分証明書の発行拒否(組合員登録には当該企業の労働者であることの証明が必要)などがある。また、労働組合側に専従のオルガナイザーがいないなど、労働組合の資源や力量の乏しさにも大きな課題がある。
  • インフォーマル経済は、建設、船舶解体、行商、零細産業、家内労働、宿泊・飲食業、漁業、農業、人力車業、運輸など、幅広い分野にわたっている。社会保障もなく、低賃金、長時間労働、劣悪な労働環境、不安定雇用などの問題を抱えている。そうしたインフォーマルセクター労働者の処遇改善に向けては均等待遇や法改正などを政府に要求している。同時に、労働力人口の90%近くにもおよぶインフォーマルセクター労働者の組織化が大きな課題であるが、そのためにも労働法を改正し彼らが法の対象となるようにしていくことが重要になっている。
  • ジェンダーに基づく暴力や差別も大きな問題であり、ILO第190号条約(暴力及びハラスメント条約)の批准に向けた取り組みの重要性が高まっている。

(3)COVID-19をめぐる政府への要請

  • 現下の重点課題として、新型コロナウイルス感染症の影響から労働者を守ることが挙げられる。労働組合としての統一的な取り組みが必要であり、ITUC-BC(ITUCバングラデシュ協議会)として、政府への要請活動を行っている。具体的な要請内容は、コロナ禍における労働者の解雇の回避に向けた補償、未払い賃金の支払い促進への政府の関与、解雇された労働者の再就業のための対策、コロナ禍により海外から帰国した労働者への支援などである。