2015年 南アフリカの労働事情

2015年10月23日 講演録

南アフリカ組合連盟(FRDUSA)
ブレンダ・マリリン・モディセ

社会政策担当役員

 

1.南アフリカの労働情勢(全般)

 南アフリカ統計局の発表によると、国内総生産(GDP)は、2015年の第2四半期において前年同期比で1.20%の伸びであった。これは2009年の景気後退以降、最悪の数字である。GDP年成長率は、2004年から2015年まで平均3.03%で、2006年の第4四半期には史上最高の7.10%を記録している。
 南アフリカでは、アパルトヘイトから民主主義体制への移行により、国内経済がグローバルな勢力に解放されることになった。技術の大幅な進歩と相まって、大きな変化が見られた分野のひとつが労働市場であった。使用者は、仕事内容の急速な変化やグローバル化に伴うニーズに対応するため、非定型労働、契約労働、非正規雇用、労働のインフォーマル化など、労働の柔軟性に解決の道を求めた。失業と雇用の緩衝帯の役割を果たすインフォーマル経済は、現在GDPの7%を占め、国の大きな部門を形成している。インフォーマル経済の労働者は、不安定な雇用を強いられており、労働条件の改善に取り組まなければならない。
 労働時間を規制する法律である『雇用基本条件法(BCEA)』第9条によれば、所定労働時間は週45時間以内となっている。週労働日が5日以下の場合は、1日の労働時間は最長9時間、週労働日が5日を超える場合は1日の労働時間は8時間となる。この限度を超える場合は、1日または1週間の所定労働時間を労使で交渉しなければならない。時間外労働は、週に10時間を超えてはならない。日曜祝日の労働には、割増率を通常の倍額を支払う。
 最低賃金は産業部門毎に労働省と労使の参加する審議会により決められている。

2.労働組合の直面する課題

 最大の課題は、雇用創出が進まないことである。特に、鉱業における人員整理と雇用の削減が大きな問題となっている。
 若年層の失業も大きな課題である。若者の学校教育から労働市場への移行にさまざまな阻害要因がある。
 職場におけるジェンダー不平等問題は、労働組合の重要な問題であるにもかかわらず、これまで女性のみの問題としてあまり焦点化されてこなかった。女性があらゆる分野において指導的なポジションに就くことができるか、男性の同志がジェンダー平等の取り組みを支える役割を果たせるかどうかが課題である。
 労働組合は、国民全般に関わる諸問題について政府を監視するなど、社会的な役割を果たしている。富める者がますます富み、貧しい者がますます貧しくなるような不平等な所得分配の下では持続的な経済成長は望めない。

3.課題解決への取り組み

 団体交渉は、労使関係を調整し、労働者の賃金・手当を決定する重要な手段であり、その団体交渉を実効的なものにするためには、強い労働組合が必要である。労働組合は憲法で認められている。憲法は、労働者が労働組合に加入する権利や労働組合が団体交渉やストライキを行う権利を規定している。
 『労働関係法』は一番重要な法律で、労働者の団結権、団体交渉権が保障されている。労働者とその労働組合に対して、介入・調停・仲裁による救済を認めている。この法律に基づき、全国経済開発労働審議会(NEDLAC)が設立された。これは3プラス1の社会対話のプラットフォームで、政労使の3団体とコミュニティーになっている。また、この関係法により、全国能開発委員会(National Skills Authority)という組織もつくられた。これらの組織はすべて労働省の下の審議会で、労働組合は審議会においてさまざまな意見を出せる立場を確保している。南アフリカの3つのナショナルセンターは協力する形で、労働者代表として参加している。
 また、労働者のためのさまざまな教育プログラムを運営している。労働組合教育を、労働研究や職場の諸問題に結びつけ、広範な労働者にとって有効なものとし、教育実務者を養成することが、労働運動が今後の課題に取り組む上で、必要な新しい知識を創造する上でも有益となる。
 ジェンダー問題に対しては、女性がどの程度、意思決定機関に参画しているか、参加率を報告する義務を負っている。

4.その他の特記事項

 労働組合は政府との間で、次の6つの約束からなる「若年雇用協定」に署名した。
 ● 約束1: 教育・訓練
 ● 約束2:労働体験
 ● 約束3:公共部門の対策
 ● 約束4:若年雇用率の目標
 ● 約束5:若年層の起業家精神と青年協同組合
 ● 約束 6:民間部門の対策
 現在、最低賃金と国民健康保険についての交渉が行われている。最低賃金については、部門別となっているが、家事労働と農業部門においては適用が非常に難しいとされている。
 法律の遵守監督の部門として、労働省の中に監督部門があり、監督官は通告なしに職場を訪問し、改善命令を出すことができる。