2013年 エジプトの労働事情
独立エジプト労働組合総連盟(EFITU)
アラー イブラヒーム アフマド(Mr. Alaa Ibrahim Ahmed)
独立エジプト労働組合総連盟(EFITU)書記長
1.独立エジプト労働組合総連盟(EFITU)について
エジプトの労働者にとっては過去40年以上もの間、真の意味での労働組合活動はなかった。労働者に対する保護や、労働条件および労働環境の改善が行なわれてこなかった。本来その役割を担うべき「エジプト労働組合総連合(ETUF)」は、その設立当初から事実上、旧政権傘下の組織に等しいものであり、旧政権が推進していた不当な民営化政策を支持し、労働者を早期退職に追い込んでいた。こうしたことが、独立エジプト労働組合総連盟(EFITU)を設立する背景となった。ETUFは組織も縮小し、民主主義的な価値観に欠け、幹部の人選や組織運営に関する独立性も決定権もなく、多くのエジプトの労働者にとって暗黒の歴史を象徴する存在となっている。
2011年1月25日にあの運命の革命が起きたことにより、エジプト国民、特に労働者は失われていた尊厳を取り戻すことができた。独自に労働組合を組織し、自由に労働組合としての活動に取り組むことができるようになった。そして2011年10月13日、エジプトにおいて真に民主的で独立した労働組合組織であるEFITUが設立された。組織幹部は、司法機関を始め45の連合組織および国際機関による立会の下で適切な手続きを踏んで選出された。
2.ムスリム同胞団政権時代の経済状況
エジプトの労働者は、今なお不当な労働法制に苦しめられているのが現状である。現在の労働法制の下では、労働関係における労働者側の立場は弱く、2011年1月25日の革命以来、政治・経済および治安情勢が一段と不安定化している。特にムスリム同胞団が政権を担っていた時期にはそうした傾向が顕著であった。ムスリム同胞団の政権がどれほどふさわしいものではなかったかについて、ぜひ知っておいて欲しい。
ムスリム同胞団時代の影響を受けた、厳しい経済状況を次の統計を示しておく。これらの数値は、ムスリム同胞団が支持しているムハンマド・モルシ前大統領時代の数字である。
こうした統計上のデータは、賃金労働者、ひいてはエジプト国民全体が直面している困難を示すものと言える。
3.独立エジプト労働組合総連盟(EFITU)が直面する課題
EFITUが直面する重要課題は次のとおりである。
第1の課題は、2013年に制定される予定の憲法改正案に、すべての賃金労働者の社会的・経済的権利を保障する条項を加えるための努力である。エジプト全土で国民的なキャンペーン・広報活動を実施しており、憲法改正作業を進めてきた50人委員会への働きかけを強化している。同委員会メンバーにEFITUからの候補者が選出されなかったため、委員会への働きかけおよび理解を示す委員の確保に努めている。
第2の課題は、労働組合の結成および活動の自由が保障されるための努力である。エジプトの労働者は、現在のマンスール暫定大統領によって労働組合の結成および活動の自由を保障する大統領令が公布されることを期待している。2011年1月25日の革命勃発以来、歴代の労働力・移民問題担当大臣が行なってきたすべての社会的対話に、EFITUは参加してきた。直近では、カマール・アブイータ現大臣の主催による対話にその機会があった。その他、EFITU は、国際的な労働基準に適合するような労働組合の自由を保障する法律の制定に向けて、積極的な広報キャンペーンを続けている。
第3の課題は、最低賃金および報酬の上限を定める法律の制定に向けた取り組みである。EFITUはそのための広報キャンペーンを実施している。また、いかにして最低賃金の財源を確保していくべきかについての見解も、前述の社会的対話の場で政府側に表明した。
第4の課題は、組織化である。すべての賃金労働者はもちろん、広く国民を対象に組織化を強化していく。非正規雇用の労働者に対しても、包括的な社会保障制度が適用されるように活動していく。
第5の課題は、2003年『労働法』第12号の改正である。労働関係において弱い立場にある労働者を支援するため、社会対話の場で団体交渉に関する条項について改正が必要との意見を表明している。
以上の他、EFITUはすべての国民が平和的に意見を表明する権利を有していること、解雇された労働者の職場復帰、閉鎖された工場の再開などについてもさまざまな場で要求している。司法部門からは、閉鎖された工場を再開させる判決もすでに出ており、EFITUとしては、それが履行されるよう、活動を強化していく。
4.世界の労働組合への訴え
エジプトの労働者は、世界各国の労働者に対して、現在エジプト政府が取り組んでいるテロとの戦いに対する連帯の支援を訴える。2013年6月30日にエジプトの歴史上かつてない大規模な抗議行動が行なわれた結果、当時のムスリム同胞団を中心とする前政権が崩壊した。それ以来、ムスリム同胞団による計画的・組織的テロ活動がエジプト国内で起きている。
5.国際労働組合総連合(ITUC)傘下の新しいアラブ地域組織の設立に向けて
最後に、アラブ地域労働組合の新しい地域組織結成に向けての動きに触れておきたい。今年1月29日、エジプト・カイロで、アラブ諸国の労働組合関係者が一堂に会し、これまでの国際アラブ労働組合連盟(ICATU)に代わって、アラブの労働組合の地域機構を作ろうではないかと申し合わせを行なった。その後、5月31日にヨルダンで再度会議を開催し、この新たな組織設立について、基本的な組織構成や幹部の人選などについて、ある程度の合意があった。組織の暫定代表としてチュニジア労働組合総同盟(UGTT)のウサーン・アッバーシ(Mr. Houcine Abbasi)事務局長が選ばれ、その他の役員ポストについても各組織からの指名があった。この新たな組織は2013年10月に開催されるITUC執行委員会で承認される予定である。
注:2013年10月11日にブリュッセルで開催されたITUC執行委員会でアラブ諸国のナショナルセンターの新機構設立が承認された。正式には2014年にベルリンで開催される第3回ITUC世界大会で決定される。