2012年 アメリカの労働事情

2012年2月20日 講演録

アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)
セレスティ・エイリーン・ドレイク

貿易・グローバル化政策専門家

 

大不況から回復途上のアメリカ経済

 失業率は7.9%とまだ高く、若者の失業率が23.4%、55歳以上の失業率が6%で、『年齢差別禁止法』はあるが、55歳以上の就職は難しく、賃金も抑えられている。住宅市場も弱く、担保割れ住宅ローンが多い。このような経済の弱体化は、すでに40年前には始まっており、新自由主義経済政策によりさらに悪化した。
 1948~2007年までの労働組合の組織率は、1976年頃にピークを迎え、その後低下を続けてきた。組織率低下は住宅バブルやブッシュ大統領の政策だけが原因ではない。2012年商務省が発表した現在の組織率は11.3%。公務部門が36%なのに対して、民間部門は6.6%となっている点に目を向けるべきである。
 組織率の低下につれ中産階級の収入が減少したことで、AFL-CIOが主張しているように、反労働組合の法律ができれば、世帯の収入が減少していくという明らかな相関関係が見られる。

最大の課題は貧富の格差

 アメリカの抱える最大の問題は「1%対99%」といわれる不公平さにある。これは組合員だけでなく、すべての人がこのような不平等は公正ではないことを理解することが重要である。これは大きな問題であるが、解決の可能性もあると考えている。
昨年、アメリカでは大統領選挙が行なわれた。AFL-CIOの選挙運動は失敗だったという人もいるが、私は成功だと思っている。なぜならば、現在不平等である「1%対99%」について、多くの人が話し始めているからである。
 アメリカの極端な格差に注目して欲しい。実質家計所得の増加を1947~1973年の期間と1973~2009年の期間とで比較すると、1947~73年には、最下位5分の1の層が一番所得を増やしており、かなり均衡がとれ、現在と比較すれば非常に平等だったと言える。しかし1973~2009年には、最下位層の所得が減少している。他の層はある程度増加しているものの、前の期間ほどではない。そして、上位富裕層0.1%を見ると、454%の所得増加、さらに最富裕層0.01%は645%と同じグラフには入りきらないほどの増加となっている。

 次に、1940年から2012年までの製造業の雇用を見ると、1967~2001年までは平均1800万人程度で安定した産業となっていた。しかし2001年以降、大きな低下が見られる。新自由主義政策の最初の10年で、貿易、税金、トラスト反対運動、規制緩和、労働政策に影響が出始めたころ である。製造業は一挙に600万人の雇用を失った。失われた職はすべて賃金の高い中間層の雇用だった。アメリカ政府はまだ何も対応策を持っていない。新自由主義政策が悲劇的な結果を生んだといえる。

貿易による雇用減少

 アメリカ経済政策研究所が、新自由主義貿易政策のもたらしたコスト計算を行なった。その結果、NAFTAによって70万の雇用が失われたことが明らかになった。また、対中貿易では270万人以上の雇用が失われたが、そのうちの210万は製造業だった。実行しているのはアメリカベースの多国籍企業であり、雇用を簡単に外国に移転することができるよう、このような貿易協定を結んでいる。ゼネラル・エレクトリック社(GE)ジャック・ウェルチ会長は、「理想的には、為替や景気変動があれば、いつでも移転できるように工場を船に乗せておけば良い」と語っている。これが多国籍企業の考え方である。このような多国籍企業の考え方に対抗するためには、国際的なソリダリティーセンターをつくり、労働運動の国際連帯をより意味のあるものにしなくてはならない。

生産性向上に連動しない賃金

 アメリカでは、1950年以前から2010年まで、一貫して生産性が上昇している。労働者は一生懸命に仕事をし、時間給もそれに伴い伸びてきた。しかし1970年頃、新自由主義的経済政策が始まった時を境に、生産性と労働者の報酬が連動しなくなる。家計収入不足を補うために女性が働きに出なければならなくなり、安易な借り入れに走るようになった。会社側は時間給を低く抑え続けたため、派遣や契約労働が増えてきた。また法的に被雇用者、労働者としての権利のない個人事業主という形態も増えた。こういう働き方をさせることによって社会保険負担や時間外労働経費を抑えることができるようになった。
もう一つ、別の見方でいかに賃金が抑制されてきたかを示すと、もし1973年までの賃金増加傾向が その後も続いていたとしたら、今日のアメリカ男性の平均賃金は年間3万6000ドルではなく、6万5000ドルになっていただろうという研究結果がある。

高騰する医療コスト

 次に、アメリカの経済を悪くしている原因の一つに医療コストがある。民間も公共もすべての医療コストが増えている。もし1945年以降、他の物価が医療コストと同じように上昇していたとしたら、卵1ダースが55ドル、牛乳1ガロンが48ドル、オレンジ1カゴが134ドルになる。これは、アメリカの医療費コストがいかにインフレを起こしていて、国民は医療費の高負担を強制されているかを示している。GDPの17.4%が医療費に使われている。イギリスは9.8%、ドイツは11.6%である。この原因は30年以上に及ぶ不適切な政治の選択である。金融業界の規制緩和、不適切な貿易政策、年金の破綻とヘルスケアの崩壊、労働組合たたき、労働者の保護の弱体化である。2008年の金融危機以降、これがさらに悪化した。政治家が目を向けたのは、雇用ではなく財政赤字であった。金融危機の際に、銀行だけは救済されたが、住宅所有者は救済されなかった。連邦、州、地方レベルで緊縮政策がとられ、さらに多くの雇用が失われた。

悪循環を好循環に

 失業が増え賃金が低下すると、消費者は消費を控え、それによりビジネスでも顧客が失われ、投資資金が不足する。税金を負担しない国民が増え、州や市などが歳入減に陥り、解雇される公的部門の労働者が出る。これにより、さらに失業、賃金低下といった悪循環になる。一旦この悪循環に陥ると、そこから抜け出すのは容易ではない。
 AFL-CIOは、これらの問題を解決するための幾つかのアイディアを出し、国民全体の繁栄を推進しようとしている。まずは公平な累進課税制度、次に全国民対象のヘルスケアである。退職後の保障、労働者の結社の自由も含まれている。製造業の国内回帰、99%の国民にとって有利な貿易協定を求めていく。
 悪循環を反転させるためには、好循環につながる要素が必要である。生産性に見合った賃金引き上げがあれば、それによって消費が生まれる。実際に企業の収益も増え、投資が可能になり、歳入も増加することになる。公共投資も可能になり、銀行もさらに融資ができるようになる。

AFL-CIOの挑戦課題

 このような転換をするためには多くの課題がある。
アメリカに拠点を置く企業は、反労働組合戦術・戦略を他国に輸出している。例えばコロンビアでは、多国籍企業がゲリラに資金提供して、組合員、労働者たちを抑圧している。反労働組合コンサルタントが、労働組合員を雇わないよう、あるいは労働組合員を追い出すよう進言している。私たちはアメリカに仕事を戻すことをしていかなくてはならないし、アメリカでのビジネスが労働組合権を尊重するかどうかを重視しなければならない。
 新自由主義的な考え方が明らかに誤りであることを、一般の国民や政策立案者に理解させなくてはいけない。私たちは、より高い賃金が必要だ、それによって初めて持続可能な社会が生まれるということを主張し続ける。
 反労働者政策と闘うためには、世界中あらゆる場所で連帯していかなくてはいけない。WTOやTPP、欧米自由貿易協定など、貿易の領域に労働者の声を反映させられるよう、国際連携して働きかけを行なっていく。
 組合員一人一人が労働運動の意義を理解し、声を上げ、他の人に伝えて行けるよう「労働運動は大事だ」という考え方を再構築していきたい。