1999年 ヨルダンの労働事情

1999年11月10日 講演録

ハイダル・ラシード・トゥーラン
金融・保険・会計監査労働組合 委員長

 

 ヨルダンは大シリアに属する地域でしたが、かつての植民地勢力によって、現在はシリア・レバノン・ヨルダン・パレスチナに分割されています。ヨルダンの人口は約450万人、労働力人口は約100万人です。人口増加率は約3.7%です。
 1996年に改正されたヨルダン労働法が基本的な労働法規で、労使関係を規定している最初の法律が1955年に制定された労働組合法です。労働法は1960年に制定されました。
 1950年以降にヨルダンで労働組合活動が始まり、その当時制定された法律の改正、その法律の実施における変更・改正によって集合・離散を繰り返しました。最新のデータによれば、ヨルダンには17の産業別組合があり、すべての産業別組合は、ヨルダン労働組合総同盟に加盟していますので、ヨルダンには複数のナショナルセンターは存在しません。

ヨルダン労働組合総同盟について

 ヨルダン労働組合総同盟は、アラブ労働組合連合に加盟していて、その設立時には中心的役割を果たしました。産別は各産別のアラブ及び世界の組織にそれぞれが加盟しています。例えば銀行組合について言えば、アラブの金融組合連合に参加していますし、また世界的な同盟であるFIETのメンバーでもあります。このように、それ以外の産別についても同様です。
 現在、1994年の第4回総同盟大会での決定に従い、各組合で行われている活動の内容は統一されています。そして、ヨルダン労働組合総同盟の内規についても、1994年の第4回大会での決定に基づいています。総同盟大会は4年に1回開かれ、私たちは今度、5回目を迎えます。各産別の総会が4年に1回開かれ、そこで総同盟の役員を選出するための役員が選ばれます。
 この総同盟の立法機関は中央評議会で、各産別から6人の代表者が選ばれこれを構成します。中央評議会は3週間に1回開かれ、すべての活動について変更等があった場合に、それを議論しています。
 この総同盟の執行機関は、執行委員会で、基本的には、各産別一名の17名で構成されますが、必ずしも各産別から一名出さなければならないわけではなく、欠員が生じた場合に、中央評議会で選出されますので、1つの産別から2人出て、出していない産別ができるということもあります。執行委員会は、通常2週間に1回開かれますが、その他に必要が生じた場合にも開かれます。
 書記局は、書記長あるいは委員長が主催していて、その他の書記局のメンバーは副委員長、国際担当、アラブ担当、内部問題担当、文化広報担当、それから財政担当となります。この書記局は、執行委員会が成立した後、その中の選挙で選ばれます。
 ヨルダン労働組合総同盟は、ヨルダンにおける非政府組織としては最も重要な組織であると言えます。なぜかというと、大部分の一般国民、大衆を指導する立場にあるからです。そして、総同盟は、労働者の権利保護、社会経済情勢の変化に伴う労働者の生活水準の確保・向上、常に使用者からの攻撃にさらされることのある既に獲得した労働諸権利の防衛、そして労働関係法例のよりよい改正のために働いています。そして、私たちは、常に労働法を基礎として、それらの権利を獲得するための活動をしています。
 労働法は、公共部門に働く者についての労働活動を認めていません。しかし、公務員の中で、3つの部門については、組合の結成が認められていて、労働組合活動が認められています。その1つは、アフマドさんが代表している地方公共職員団体、航空運輸職員組合、それから鉄道組合であります。スト権は法制上存在しますが、現実的には非常に制限されています。1つの法律ではスト権を認めているのに、別の法律でそれを非合法化する権利を大臣が有しているのです。
時々、ストが発生することはありますが、そのストをおさめて解決するためにも、総同盟は重要な役割を果たしています。その解決のために私たちが依拠するのは、使用者と労働組合との間の団体交渉によって制定されている労働協約です。
 私たちの労働運動は、完全に民主的な基本に基づいており、決して政党の支配、影響を受けるということはなく、また、特定の政党の綱領に支配されるということはありません。むしろ、幾つかの重要な産別組合や総同盟の指導部というのは、ヨルダンの1つの大きな政治勢力を代表していると言えます。このことは、私たちの活動が力を持ち、大きな能力を持っているということの証明なのです。

ヨルダンの労働市場について

 ヨルダンの労働市場については、次のような特色があります。
 1つは、その他の国々でも見られるように、労働力の輸入と輸出があるということです。労働市場が外国の政治的な情勢、問題に大きく影響を受けているので、それらにより失業率が非常に大きく変動します。
 67年にあった大規模なパレスチナ人の流出、数回にわたるパレスチナからヨルダンに対する労働者の輸入や、73年の石油危機の際の湾岸における大変な石油ブームに、ヨルダンは大きく影響されました。例えば、73年ごろから80年までの間というのは、ヨルダンにおいては、完全雇用が達成されました。それは、湾岸に働きに出ているヨルダン労働者からの国内に対する送金が多額に上り、その送金が国内の投資に向けられ、国内総生産が大幅に増加したためです。しかし、世界的な石油価格の下落傾向とともに、ヨルダンの経済も、またマイナスの影響を受け始めました。そして、湾岸危機の際には、大変に悪い影響を受けて、数十万人単位の労働者が、湾岸からヨルダンに帰還しました。その上、イラクに対して課された経済封鎖の悪影響も強く受け、結果的にはこの経済封鎖は、ヨルダンに対して課されたのと同様の効果をもたらしました。
 今の労働法では、外国人労働者の労働について、大変に柔軟な適用がされているため、外国人労働者がヨルダン国内で比較的自由に働ける環境をつくり出しています。そして、ヨルダン・ディナールの対ドル交換制が確保されているので、外国人労働者、特に非ヨルダンアラブ人の定着と、その就労を助けています。例えば、エジプト人労働者が100ディナールの月給で働き、エジプトにその一部を送金すると、エジプトの通貨交換率では十分な金額を送れますが、ヨルダン人にとっては、この金額で生活するのは無理です。そのためヨルダンでは、自由経済の原則で外国人と自国民労働者間の競争が常態化しており、常に外国人労働者が勝つようになっています。非常に奇妙な現象ですが、外国人労働者の数のほうがヨルダン人失業者より多いのです。すなわち、外国人労働者を自国民労働者に変えてしまえば、完全雇用が達成されるばかりでなく、さらに、それ以上の雇用機会が存在しているということです。しかし、このような現象が長年続いた結果、ヨルダン人は徐々に、きつい仕事を嫌う傾向にあり、逆に事務所での仕事を好む、転作業を好むというような状態が出現しています。

ヨルダン労働組合総同盟の活動について

 私ども総同盟が25年間、叫び続けていることは、最低賃金を確立するということです。労働法第52条は、労働大臣は委員会を設置して、そこで最低賃金を決定し、その決定を首相にアドバイスすることができるようになっています。
 私どもの組合活動の歴史的な勝利と言えるのが、今年10月、労働大臣のもとに最低賃金決定のための委員会が設定されたことです。私も大変光栄なことにメンバーの1人になりました。この委員会の設置は、私どもの失業追放の活動の大変重要な第一歩となると思います。失業率は、現在約15%と言われていますが、実のところ、完全な統計をとるような状態ではありません。
 そして、今月11月にヨルダン労働組合総同盟は、2つ目の歴史的な勝利をおさめました。それは、定年退職後の年金についてです。その結果として年金額が約25%増加することになりました。50ディナールに対して1ディナールというふうな計算方式だったのが、40ディナールに対して1ディナールという方式に改められ、これが実行されるのは、来年の1月からです。
 現在のヨルダン労働組合総同盟の活動の中心は、第1に失業対策、もう1つは、リストラという名目のもとに解雇が行われているという現実に対する挑戦です。私たちは、これらの問題についても、近く大きな成功をおさめることを確信しています。
 最後に、社会保障の面では、社会保障機関という独立機関があり、そのシステムに従っています。このシステムは、1979年に始まりました。この社会保障機関は、その理事会が15名の理事によって構成されていて、総同盟は4人の理事を送っています。
 例えば職業訓練機関など、これ以外にもいろいろな機関がありますが、そういった機関にも、ヨルダン労働組合総同盟の人間が影響力を持っており、我々はもっとほかの機関についても影響力を行使したいと思っています。