2013年 オランダの労働事情

2014年2月19日 講演録
 国際労働財団は平成26年2月19日、フィンランドとオランダの労働組合リーダーを招き、「働き方を含めたこれからの生活モデルとそれを支えるセーフティネット」をテーマに国際シンポジウムを開催した。このシンポジウムに参加した2ヵ国の報告についてその概要を紹介する。

オランダ労働組合連盟(FNV)
ヨシー・ドゥ・ラング(Ms. Joosje de Lang)

執行委員

 

マクロ経済から見たオランダの状況

 オランダの経済は、激しい変動の中にあり、2013年は、国民の消費マインドは非常に低いものであった。しかし、オランダは、高い労働力率、低い失業率、質の高い労働、良好な労使関係といった基盤が堅固であるため、あまり大きな問題にはならなかった。
 経済危機の只中にあるオランダにおいて、大きな問題のひとつに、住宅価格の下落がある。住宅価格は2010年から50%近く下がり、この結果、家計の債務が大幅に上昇してしまった。もうひとつの問題は、経済危機が年金基金にも影響を与えていることで、年金基金は不足気味になっている。

オランダの労働市場

 オランダの人口は1670万人。就労人口は840万人、労働力率は77%と高い水準にある。労働組合の組織率は、日本と似ていて下降傾向にあり、数年のうちに日本と同程度になると見られているが、最大限の努力をして、高い組織率を維持していきたいと考えている。生産性は非常に高い。また、パートタイムの比率も非常に高くなっている。かつてオランダは、ヨーロッパの中でも失業率の低い国のひとつであったが、経済危機の影響もあり、最近の状況は少し変わり、失業率は上昇傾向にある。最近の統計では8.2%(2013年12月)となっている。
 また、オランダも高齢化社会となっており、そのことが就業人口にも影響を与えている。子どもの数が減り、多くの人が年金生活となり、労働人口が減少している状況にある。50歳から60歳の層の労働力率は、60%を超えていることからも、就労人口の多くが高齢者であると言える。

オランダのライフスタイルとパートタイム労働

 オランダのライフスタイルを見ると、パートタイム労働が男女性ともに多くなってきている。夫婦二人で週4日、女性も男性も4日ずつ働くというのが理想だと言われている。また、同一労働同一賃金の条件が法律あるいは労働協約で保障されている。すなわち、女性でも男性でも、28歳でも60歳でも、同一労働は同一賃金ということになる。
 社会保障の給付も、平等な権利が保障されている。年金についても、男女平等である。また、労働時間を増減できる法的な権利も労働者にある。フルタイムで働きたいと思えばそのようにできるし、パートタイムで働きたいと思えばそれも可能である。フルタイムであってもパートタイムであっても、キャリアアップをめざすことが可能であるし、キャリア選択は幅広くできるようになっている。
 パートタイムについてもう少し詳しく紹介する。パートタイムには多くのメリットがあり、パートタイムで働いている人の生産性は非常に高く、効率的な分業体制であると言える。これは失業を減らすことにつながっている。
 そして、仕事と家庭、つまり育児や高齢者の介護をする人にとっては、より良い組み合わせとなる。週4日の労働であれば、土曜日と日曜日以外にもう1日、育児や介護に費やすことができる。また、土曜日と日曜日以外にもう1日休日があると、休養がとれ、高齢になっても健康を維持できる。
 2011年のOECDのデータによれば、全就労者に占めるパートタイム労働者の比率は、オランダが37.18%、日本は20.57%となっている。同じOECDのデータで平均実労働時間(2010年)を見ると、OECD諸国の中でオランダは最も短く、1377時間で、日本は1733時間となっている。オランダで労働時間が短いのはパートタイム労働によるものである。また日本で労働時間が長いのは、時間外労働が多いためではないか。

オランダモデル誕生の経緯

 オランダモデルのいったい何が特別なのか。1950年代から1960年代には、オランダでも一家の大黒柱がひとりで働くというモデルが主流であった。男性が働き、女性は家庭にいる、というモデルである。やがて経済状況が変わり、農業、工業からサービス業へと産業構造が変化してきた。これに伴い、より弾力的な労働時間の需要が高まった結果、フルタイムの男性が仕事を失い、女性がパートタイムに進出したという経緯がある。また文化的な変化もあり、女性の解放、女性の教育水準の向上、子どもの数の減少なども影響した。当時は、まだ賃金労働と家庭の義務の双方を果たすためのフレームワークは欠如していた。そして1980年代に入り、女性が労働市場に進出するのに伴って、仕事と家庭を両立させるための妥協の戦略となったのがパートタイム労働である。
 1980年代末まで、女性労働者のほとんどはパートタイムであった。しかし、『労働法』、社会保障、労働協約などにおいて、均等待遇は不十分であった。そこで労働組合として、パートタイム労働に反対するべきか賛成するべきか、という議論になった。労働組合としては、最初は労働協約が失われていくことや労働組合の力が失われていくことを懸念した。労働組合内部でもさまざまな意見があったが、単にパートタイムに反対するのではなく、より良い労働条件のパートタイム労働、すなわち家庭と職場における平等な分業体制を求めていく方が良いのではないかという議論に変わってきた。それによって、労働組合の立場をより強化していこう、という方向に転換した。
 政府も、このようなパートタイム労働を促進していくことを支援し、こうしてパートタイム労働は、雇用の高いレベルでも可能となった。パートタイム労働は、柔軟性を増す手段として、そして女性の能力を活用する手段として、使用者も促進していくこととした。

1990年代の政策

 1993年に政労使の三者間でひとつの合意が形成された。その内容は、[1]フルタイムとパートタイムの同一労働同一賃金と均等待遇について、法律および労働協約において整備する[2]社会保障びその給付についての機会を均等とする[3]フルタイム労働とパートタイム労働間の転換を相互に可能とする[4]より高い役職においてもパートタイムの選択肢を与える[5]男性のパートタイムの機会を促進する――などであった。
 オランダでは、このように社会的パートナーとの間で合意されたということは、すなわち、次の段階で立法化されるということである。 
 1996年の政労使間の合意は、派遣労働の規制緩和に関するものであった。その内容は、[1]派遣労働者についても、派遣契約を雇用契約として認め、労働法上の地位を保障する[2]有期契約の場合、期間を最長で3年間(更新は3回まで)とし、それを超えた場合は無期契約とする[3]ゼロ時間契約(雇用主の求めがあった場合のみ働き、労働時間が未定の契約)の濫用防止の措置をとる[4]名ばかり自営業の防止のための措置をとる――などであった。
 以上のように、1990年代のオランダでは、柔軟性と保障を組み合わせたいわゆるフレクシキュリティーからのアプローチによる政策がとられた。

フレクシキュリティー政策の効果

 以上のような背景から、オランダでは男性女性を問わず、仕事と家庭を両立させるようになった。オランダにおける賃金労働者の家事、育児、介護に費やした時間を見ると、以下の表のようになっている。

〔賃金労働者の労働時間と家事、育児、介護時間〕

 左側が男性、右側が女性で、色の濃い部分が労働時間で、色の薄い部分が家事、育児、介護に費やした時間である。「子どものいる夫婦」のところでは、男女に差があり、子どもの世話をしているのは、やはり女性が多いということがわかる。
 次に、希望する労働時間と実労働時間を表したものが以下の表である。

〔希望する労働時間と実労働時間〕

 女性の場合、0~16時間のグループで、実際は「もっと長く働きたい」と思っている人が多いということがわかる。

オランダにおける不安定労働問題

 経済危機以降、オランダでも不安定労働が増加している。若者たちの多くが有期契約労働か派遣労働にしか就けない状況となっている。特に、ケアサービス部門、タクシー、小売、公共交通部門などでは、ゼロ時間契約が増えている。また、高齢者にとっても、経済危機以降、有期契約労働や名ばかり自営業の仕事しか見つけられなくなった。さらに、移民労働者(特に東欧諸国の出身者)については、法定基準や労働協約で合意された基準を下回る労働条件で働いている。
 オランダのパートタイム労働は2種類に大別される。ひとつは、無期契約のパートタイム労働で、全パートタイム労働の65%を占めている。これは、不安定な労働ではない。もうひとつは、それ以外のパートタイム労働で、短時間のパートタイム労働で、合計労働時間が12時間未満となる。こちらのパートタイムは、大半が有期契約、派遣労働、ゼロ時間契約となっていて、仕事と収入は非常に不安定なものである。こうした短時間のパートタイム労働に就いている人たちは、もっと長く働きたいと希望している。そして、教育も受けて仕事と収入を安定させたいと思っている人たちである。なお、この短時間のパートタイム労働に就いている人たちのほとんどは女性や移民で、そのほかは学生である。
 2013年4月に社会的パートナーとの合意がされた。それは、労働法に関して、長期的な改革に取組んでいくための合意である。柔軟な雇用契約への依存度を下げて、法定基準あるいは労働協約で定められた基準に違反する契約や過重な労働への対策に取り組んでいくというものである。また同時に、解雇保護の改革への取り組みについても合意された。2016年1月1日までに解雇保護の改正をめざしている。
 さらには、失業保険に関する合意もされた。失業保険の給付期間は、法律上はそれまで最長3年間であったが、これを2年間とする。3年目以降の給付は労使間の協約によって変わってくる。これは、労働組合の力が強化されるという側面もあるが、無期契約の労働者のみにそのメリットがもたらされるのではなく、有期契約等の労働者にもそのメリットが行きわたるように変えていく必要があると考えている。
 その他、各産業別において、それぞれの社会的パートナーとの協力により、積極的な労働市場政策を実施し、さまざまな雇用が創出されるよう、政府の補助金による支援を求めていくことと、失業率の上昇(現在8.2%)対策のための政労使タスクフォースを立ち上げることについても合意がされた。今後の結果を注視していく必要がある。

労働組合の課題

 有期契約労働、派遣労働といったフレキシブルな労働を、私たち労働組合は、不安定労働と呼んでいる。労働組合としては、これらを安定的な無期契約による労働に変えたいと考えている。すなわち均等な待遇をめざしていくことである。以前は、有期契約の最長期間は3年間であったが、この度、これが制限されて最長2年間となり、これは大きな変化である。また、ゼロ時間契約の問題も解決していかなければならないと考えている。介護サービス部門では2016年からゼロ時間契約が全面禁止となる予定である。
 フレキシブルな労働契約をより高コストにつながるものとするようにしていき、最終的に無期契約にシフトしていくことを促すことが重要である。加えて、労働力の需給を仲介する業者とは、労働者をより創造的な仕事に活用するように取り決めをすることも必要である。そして、労働協約で合意された賃金を支払うよう責任を持たせることが必要である。
 オランダにおけるパートタイム労働は、政府の政策によって創出されたものではなく、オランダの社会、経済、文化の発展段階の中で出てきたひとつの特徴である。それが、政労使の行動によって、全国レベル、団体交渉レベルで今日まで支えられてきた。社会的パートナーの合意が大変重要な役割を果たしてきたことになる。
 オランダのパートタイム労働は、女性男性を問わず、ほとんどの人にとって質の高い自発的な選択肢となっている。一方、企業から見ても、労働者の高い生産性と適応性が提供されることになる。法律、労働協約そして社会保障における均等待遇政策があってこその存在であり、無期(終身)雇用契約のパートタイム、さらにはキャリアアップにつなげることも可能である。
 パートタイム労働者は、週20時間労働で雇用保障(無期雇用契約)と完全な社会保障、年金、労働組合の権利を得る。全パートタイムのうち65%がこうしたパートタイムである。したがって、こういうパートタイムは肯定的に捉えられている。しかしながら、パートタイム労働の中でも、不安定な形態のものがある。この働き方は、低収入で低スキルのパートタイム労働であり、このようなパートタイム労働が昨今、増えている。そこでは、団体交渉の慣行さえ損なわれつつある。今後は、団体交渉では、その分野に対する配慮が必要である。
 今、オランダでは、緊縮財政計画により、育児、高齢者介護、その他の公共サービスの切り下げが行なわれている。労働組合はそれに対して、デモなどによる反対運動を行なっている。公共サービスの切り下げにより、家事、育児、介護などにおいて、男女分業が固定化されていくことを防がなければならない。夫婦二人が週4日働くという望ましい状況を確保していくべきである。今後10年以内に、オランダは高齢化という深刻な課題に直面することになり、働く夫婦のために、種々の便宜を拡充していくことが必要であると考えている。
 

労働事情を聴く会