2004年 ロシアの労働事情

2004年2月4日 講演録

ロシア独立労働組合連盟(FNPR)
マリア ミハイロフナ キリロワ

ロシアエンジニア労働組合(重機械製造) 労働調査官
モスクワ州中央委員会 青年評議会議長

 

FNPRの活動方針及び具体的な活動

 ロシア連邦機械製作技師労働組合のモスクワ州地方組織の代表として今回参加させていただいております。この産別組織であります機械製作技師労働組合のモスクワ州地方組織には、単位組織といたしまして36の組織が加盟しております。この36の加盟組織は、単位組織でございますので、モスクワ州の中にある様々な機械製造関係の企業でつくられている組織であります。全組合員数は約3万2,000人です。
 この組合員の中には、直接こういった企業で働いている労働者の他に学生も入っておりますし、年金生活者も含まれております。全体の数から考えますと、モスクワ州において機械製造部門で雇用されております雇用労働者の86%が、この地方組織の中に入っております。
 ということで私どもの組織は、モスクワ州にある機械製造工場の労働者や技師などの組合員の社会的な権利、働く権利、また利益を守り、それらを代表する役割を果たしております。また、全国産別組織であるロシア連邦機械製作技師労働組合の中でも、モスクワ州の組織が一番大きな地方組織になっております。ロシア連邦機械製作技師労働組合は産別組織として、ナショナルセンターのロシア独立労働組合連盟(FNPR)に加盟しております。
 限られた時間でモスクワ州全体の状況、またロシア国内全体の社会的、経済的情勢をお話しするというのは無理だと思います。そこで労働組合が直接関係し、また各単位組織や労働組合員一人一人に直接影響を与えるような政治的、社会的、経済的な状況に関して、問題点に関してお話ししたいと思います。
 基本的には労働組合の権利というのは、法律もしくはそのほかの基準等の中で定められているわけですが、近年、この労働組合の権利や権限が制限されていくような傾向が見られます。その一例として挙げられるのが、最近採択されました新労働法です。
 私どもの労働組合は、中央政府、地方政府およびそれらの関係機関との協力関係も積極的に構築をし、協力関係を図るように努めております。具体的にどのような協力形態があるかと申しますと、例えば文化、スポーツ行事などの共同開催があります。またいろいろな法案の審議の場で、労働組合は直接的にはその審議の場そのものに参加はしていませんが、間接的な形で、つまり他の話し合いの場等で参加する形態をとっておりますが、労働組合側が提案した内容が簡単に達成されるわけではありません。
 経営者団体、特にモスクワ州の経営者団体との関係について申し上げますと、基本的にはソーシャル・パートナーシップの原則に基づいて関係を構築していくように、労働組合側としては努力しておりますが、必ずしも経営者団体がそれを歓迎しているわけではありません。経営者側の労働者や単位組織に対する義務、責任がきちんと果たされていないケースがしばしば見られます。また、労働協約を守らないケース、また法律にきちんと明記されている義務や責任を果たさないケースがしばしばみられます。
 具体的には、個々の労働者に対する経営者側からの不当労働行為が挙げられます。また賃金の未払い問題があり、定められた時期に定められた額の賃金がきちんと支払われないという問題があります。個別の企業を見ますと、賃金未払いが数カ月に及ぶ場合があります。また労働基準に定められた労働時間が守られていないケースもあります。
 個々の労働者に対してだけでなく、労働組合に対する経営者側の法律違反のケースもあります。私どもの組織では、組合費はチェックオフにより支払われておりますが、経営者側がそれをきちんと振り込まないケースがあります。また、団体交渉に必要な情報をきちんと労働組合側に提示しないとか、また団体交渉を拒否するケースもあります。労働協約の締結を拒否するケースも見られます。
 次に、社会経済情勢に関しては、機械製造部門ではモスクワ州内で全体的には生産高が減少しています。もっとも個別の部門では伸びている産業もあり、例えば金属部門ですとか、鉄道産業などの産業部門では生産が伸びています。機械製造部門では企業の倒産が見られます。
 次の問題として申し上げておきたいことは、賃金の水準が十分ではない、そのために労働者とその家族の生活が十分保障されないという問題があります。また、政府が社会保障予算を削減している問題、更に最近の教育問題があります。教育問題として、中等教育の部門の中に職業専門高校がありますが、そこで職業能力、専門能力を身につけて卒業していく学生の数が減っていく傾向があります。
 モスクワ州の機械製造業関係の企業が抱えている問題というのは、おそらくロシア全体の機械製造部門の企業が抱えている問題と同じ現状を反映していると思います。そうは言ってもモスクワ州は、他のロシアの地域と比べますと、まだまだ恵まれた状況に置かれていると思います。
 次に、2004年度私たちの組織の掲げました主な活動分野について申し上げます。1点目に、組合員の社会的な権利、労働する権利、その利益を守り、組合員を代表していくことであります。その一環といたしまして、組織の中で常時無料の法律相談を行っております。
 次は、単位組織への支援活動の強化です。具体的にいえば、2003年に幾つかの単位組織に対して支援を行いました。例えばエゴロフスク工作機械工場と、コムソモーレツという工場です。単位組織としてのこれらの労働組合が、組合費が経営者側からチェックオフできちんと振り込まれていないということで調停裁判所に訴訟を起こしました。その裁判へ産別組織およびその地方組織が支援を行いました。
 3点目の主な活動は労働に関係する法律がきちんと遵守されているかどうかを監視していく活動です。これには労働基準法や労働安全衛生法が関係しております。2003年にも、数件の企業に対し、労働組合として調査を実施しました。
 調査を実施する際に、特に私たちが注目をするのが、労使関係がきちんと築かれているかどうか、また労働者の勤務日誌が経営者側で正しく記入されているかどうかなどです。勤務日誌は、いつ勤務したのかなどの勤務状況が記され、それをもとに賃金が支払われています。我々は、その日誌が正しく記入されているかどうかをチェックしています。、また有害で、かつ危険な作業を伴う工場で働く労働者に対しては、きちんとした優遇措置もしくは何らかの保障がなされなければならないということになっているのですが、それが守れているかどうかも立ち入り調査しています。
 4点目としてソーシャル・パートナーシップの発展と強化を掲げています。具体例を申し上げますと、2003年には、産業別協定が締結されました。この協定は機械製作技師労働組合のモスクワ州地方組織、モスクワ州機械製造業経営者団体、国の関係省庁との三者の間で締結された文書であります。
 次の方向性としては、青年問題の対策です。さまざまな青年問題への解決策を練り、それらを具体的に実施していくということです。初めに、青年が置かれている社会的、経済的な状況を把握するということで、情報の収集及び分析を行っております。私自身はロシア機械製造業労働組合連盟の青年委員会の委員長に任命をされました。
 次は、青少年のために夏の時期を利用したさまざまな健康増進のための行事の開催、健康増進キャンペーンの実施であります。2003年においても、各単位組織が行うこのような行事に私たちも積極的に参加しました。
 最後は、さまざまな集団活動への参加です。2003年のメーデーの際にも、モスクワ州の組織を挙げて参加しました。

ロシア独立労働組合連盟(FNPR)
レオニード ガリエヴィッチ ヨルキン-シネ

ノヴォモスコフスクブイトヒム企業労働組合(化学) 委員長
FNPRトゥーラ州 青年委員長

 

国内の状況

 全般的なことにつきましては、前の方から説明がありましたので、私はそれを補足する形で申し上げます。私が住んでいるトゥーラ州はモスクワから200キロほど離れた場所に位置し、その地域について説明する形にさせていただきたいと思います。
 トゥーラ州は、かなり豊かな地域であり、様々な産業が発達しております。しかし深刻な経済問題を抱え、そのためトゥーラ州は国全体の生活水準において最後のあたりに位置しております。
 その最大の理由は、トゥーラ地方で発展している産業は軍事産業であるからです。新しい時代に合わせて軍事産業は再編成を余儀なくされています。

FNPRの具体的な活動

 トゥーラ州労働組合連合が全体的にどういう活動を行っているかについてをお話ししたいと思います。トゥーラ州労働組合連合、以下TFPと略させていただきますけれども、その中には33の組織が加盟しています。単位労働組合数は30万、そして総組合員数は35万人です。35歳までの若者の占める割合は約28%です。先ほど申し上げました事情により、1990年代の初めからTFPは新しい環境の中で労働組合運動を調整しなければならない状況になっております。
 労働組合を取り巻く新しい状況には、労働組合を廃止してしまおうという動きもありますし、人口上の問題、労働賃金の未払い、新たな環境の中での労働組合の再編、また、企業の再編、企業の倒産というようなものが挙げられます。
 トゥーラ州の1人当たりの賃金は1カ月当たり約100ドルになっています。失業率は1.05%です。人口問題で極めて厳しい状況がありますが、例えば死亡率がロシア全体の中でも一番高く、かつ出生率が一番低いという状況があります。2003年では死亡率は出生率の2.8倍でした。
 現在大きな問題になっていることは、労働組合員の権利の保護の問題です。現在、私有財産の再分配が行われておりますけれども、それに当たって、企業主のほうは、労働組合の活動をいろいろな形で妨害してきております。2003年でどういう動きがあったかといいますと、例えばアウトソーシングを推進するような動きがありましたし、また、工場の閉鎖ないしは再編ということが行われました。
 しばしば起こっていることですが、新しい企業主が新たに工場なり企業に入ってくるときに、労働組合の排除を最初の目標にしてくる場合がよくあります。賃金の未払いないしは遅配という問題も同じように社会の緊張を高めております。そのために労働組合が打ち出している大きな方針の1つは、いろいろな支援を労働組合員に対して行い、その権利を守るということです。その目的のために、いろいろな活動を展開しております。様々な反対集会を主催する、ないしはピケを張る、そしてストライキを組織する、時には労働を一時的に停止するというような活動も行っております。
 昨年1年間に、トゥーラ州では5つのストライキが行われました。賃金の未払い、ないしは遅配の関係で、様々な企業で大きな規模の労働一時停止が行われました。問題解決のためには、行政ないしは司法、立法の機関に支援を求めることもよくあります。そうした機関と一緒に、裁判所などが出した指示を遂行するための仕事、すなわち裁判所が出した指示がちゃんと守られているか、そして労働者の安全が守られているかというような監督を実施しております。
 昨年1年間で、不法に解雇された人たちが数多く出ました。TFPは、そのような労働者の権利を国の労働監督局と一緒になって元に戻すような活動も行っています。TFPとしては、少なくとも最低限の労働条件を確保するために、団体協約をすべての企業において締結させる運動を展開しています。
 現在のところ、団体協約が結ばれているのは、州の中の企業のうちの約70%です。
 TFPは、企業との関係を正常に行うために、三者間の合意を締結しております。三者というのは、雇用者側、政府側、そして労働組合側です。
 昨年、トゥーラ州において青年会議という組織が結成され、活発に活動を開始しました。この青年会議はトゥーラ州においての青年に関する新しい法律をつくるための作業を現在行っています。
 現在までに成功している面もありますが、もちろんそうでない面もあります。いろいろな試行錯誤を経て実現していかなければなりません。
 端的に言いまして、社会的、経済的な状況には極めて厳しいものがあり、そこでもう一度ペレストロイカ、つまり、改革を行なう必要があると考えています。また新しい方法を見つけるとともに、見つけたものを他の人たちにも教えないといけないと考えております。
 外国との関係では協力関係をベトナムの労働組合と持っております。スウェーデンの労働組合とは、セミナーを3つ開催することで合意しております。また、ノルウェー、ドイツの労働組合、ICFTUとも常に協力して活動を行っております。
 今回の招待プログラムを含め日本から現在いただいております支援については、今後とも我々の協力関係が続いていくために非常に役立つものと考えております。

全ロシア労働総連盟(VKT)
アントン ヴァレリエヴィチ セルゲーフ

モスクワメトロポリタン労働組合(地下鉄) 副委員長

 

国内の状況及びVKTの活動方針

 現在、ロシア国内においては、非常に複雑な状況があります。労働組合としても、非常に困難な状況の中で活動しています。私は、全ロシア労働総連盟(VKT)を代表して来ておりますが、VKTはロシアの労働組合の中でも、労働者の権利を守る活動を行っている組織の1つです。
 VKTがどのような形で結成されるようになったのかについて少々触れさせていただきます。
 新しく独立した労働組合の組織が出現し始めたのは、ペレストロイカの時代です。ペレストロイカの時代には、労働者の不満が非常に高まり、国内でその不満を解決するためにストライキが各地で発生しました。それと同時に、新しい労働組合が結成され、お互いに協力し合うようになりました。その結果、これらの労働組合が連合を組むようになり、最終的に1995年に現在のVKTが結成されるまでに至ったわけであります。
 同じ時期に、ベラルーシにおきましては、自由な労働組合に対する弾圧が起きております。VKTは、ベラルーシの大統領に対して労働組合の弾圧を中止するよう強い要請を行っております。VKTは、ベラルーシの労働組合運動を一貫して支持しており、その結果我々の間には強い協力関係ができております。
 その後、今度は炭鉱夫の強力な労働組合活動が始まり、VKTはその活動も活発に支持してきました。炭鉱労働者は、生活水準が低下したために、生活水準を向上させるための活動を展開し、また炭鉱の閉鎖に対しても強力な反対運動を展開しました。そのような労働運動の中で、約2,000件の裁判問題が起きました。VKTは、そうした動きも支持しております。また、人権侵害に関しては、VKTに加盟する労働者の権利を守るための運動を展開しています。
 1996年には、VKTは司法省に登録され、ロシアの50の地域でも、VKTに加盟する組織が登録されています。VKTは、ロシア労働総連盟(KTR)と共同して国内の各地域で起きている様々な反対運動のイニシアチブを発揮してきております。
 1998年には、VKTは賃金未払い問題に関連して国際的なキャンペーンを展開しました。この問題を解決するための国際会議の開催についてもイニシアチブをとりました。賃金の未払い問題を巡って、鉄道や幹線道路の封鎖をも決行しました。
 炭鉱労働者は、VKTと一緒に国会に対してピケを張ったりしました。その結果、多くの指導者が法律違反で逮捕されています。VKTの元の議長であったセルゲフもその関連で逮捕されています。
 1999年には、VKTは社会的な労働を調整するための三者会議に参加しました。VKTは、労働組合、政府、雇用者側との間の一般協定(ジェネラル・アグリーメント)の策定および、その締結にも参加してきています。
 さらに、最近行われた国会議員選挙におきまして、トリアッチ市のバス工場のイワノフ氏がVKT推薦の労働組合の代表として議員に選ばれてきております。
 2000年にVKTはICFTUに加盟しました。VKTとKTRは共同で連絡協議会を結成しております。共同で新聞も発行しております。
 2001年には、新しい労働法の採択に反対して、VKTとKTRは共同行動として議会でピケを張りました。VKTに加盟している労働者数は、現在のところ公式には130万人です。VKTに加盟している労働組合の分野としては、鉱工業、運輸業、鉄鋼業、予算部門の機関が含まれております。VKTの議長には、3年の任期でブガイフが選ばれています。
 最近のVKTの活動をあげますと、2003年にノリリスクという町のノリリスクニッケル工場でストライキを組織しました。VKTからは、議長をはじめとする活動家を送って地元の労働組合の運動を指示しました。賃金引き上げを始めとする労働条件の改善を求めてノリリスクニッケルの労働組合と一緒になってVKTは地元の行政府の建物にピケを張りました。
 現在、VKTは労働組合として大きな組織の1つですが、ストライキのような行動では、まず一番先頭を走っている組織だと思います。
 ロシアの労働組合は、ロシアの現在の法律で約束されているところの労働運動を盛り上げるために各種の活動を行っております。それは、労働者の欠くことのできない人権としての権利を擁護する活動であります。

全ロシア労働総連盟(KTR)
マキシム グリゴリエヴィチ ヒスラフスキー

ロシア一般産業労働組合 副委員長
ロシア労働総連盟(KTR)顧問

 

国内の状況及びKTRの活動方針

 ロシア労働総連盟(KTR)傘下の地域組織として、ロストエンストフ地方組織を代表して、日本の皆様にご挨拶申し上げます。KTRが、JILAFのプログラムに参加するようになってから3年目になります。
 ロシアにおいてはこの1年、労働組合にとって試練の年だったと言えます。今回のこの労働事情を聴く会におきまして、事前にJILAFの方からいろいろと文書が送られてきて、内容について指示がありました。それに合わせて報告しようと準備を始めたのですが、日本への出発が近づくにつれ、国内でさまざまな問題が起こりました。時間の関係上、それを全てお話することはできません。
 1年前にもKTRの代表が招待プログラムに参加しましたが、その報告以降、この1年間で何があったのか、もしご関心のある方がありましたらモスクワに戻り次第、Eメール等で資料を送りたいと思います。今回は私自身が非常に重要だと思うテーマについて集中的にお話をしたいと思います。
 おそらくここにお集まりの皆様方に対しまして、労働組合というのが、その国の政治、経済体制と密接なつながりがあり、労働組合の性格ですとか、成り立ち、仕組みが、国の体制に大きく依存しているというようなことは説明するまでもないと思います。現在のロシアの労働組合もロシアの歴史とどのような関係があり、現在どのような形態になっているのかということに関しては省略をさせていただきます。
 ただ、今後のロシアの労働組合がどう発展していくかということに関しましては、まず、ロシア国内での政治的、また経済的などのような出来事が起きているのか、そしてまた、現在、どのような労働組合が存在をしているのか、そしてまた、今後のそういった労働組合がどのような発展の可能性があるのかというようなことを検討していく必要があると思います。また、そういった問題を踏まえた上で、発展のために何ができるのかということを考えていかなければいけないと思います。この件に関しまして、順番に検討していきたいと思います。
 おそらく各国どこの国民も、自分の国の国力が強化され、そして安定と秩序が図られ、経済の発展の可能性が達成されていけば、非常に幸せになると考えると思います。しかし、国内の組織というのは、何も憲法に定められた政府機関、公の機関だけではありません。市民社会の中でしかるべき自分たちの規律をつくりながら活動をしていくような、いわゆる市民団体、社会団体というのが存在するわけであります。そのような団体の存在価値も無視することはできないわけです。具体的には、独立した報道機関、また労働組合などが挙げられます。どのような機関があるかということで、名前を列挙するということ自体が大事というよりは、そういうきちんとした自分たちの独自の活動を市民社会の中で、社会団体として行っている存在があるということが大事なのだと思います。
 ロシアでは近年、報道機関など本来独立していなければならないはずの機関の独立性が崩れてきております。特に、テレビ局の独立性というのが破壊されているように思います。つまり、国の規制を受けているということです。社会団体の中には、国民の権利を守っていくような団体もあるのですが、このような団体が政府にきちんと影響を与えられるかどうかは、ロシアの場合は西側の力を借りたときに、初めて影響が与えられるような現状だと思います。しかし、たとえ影響を与えられたとしても、例えてみれば、まるで蚊が象を刺すような状況だと思います。つまり、国という象に対して社会団体という蚊が刺すという、その程度だと思っております。西側諸国もロシア国内に政治的な安定が図られると、経済的に進出していこうと計画を立てるわけですが、その際に、社会団体が何かしようとしても、社会の外に追いやられてしまうという現状だと思います。
 現在、事実上、独立した司法権は存在していないと言えます。当然、ロシアの法律や憲法の中では、司法権は独立した機関として、その独立性は保障されているわけですが、実際のところ独立した形で機能しておりません。例えば、裁判所にいたしましても、政府の上部からの指示が電話で来て、電話の指示を待って判決が言いわたされているのが現状です。電話による指示を無視するような勇気を持つ裁判官は、司法機関からは姿を消えざるを得ないのが現状です。このような行為をとろうとするような裁判官は、そもそも司法機関に入ろうと思っても入れないのが現状です。
 このような現状に関しては、この3年間でどのような法律が採択されたかを見れば、一目瞭然ではないかと思います。私の前の労働組合の代表からも法律に関して発言がありましたが、ここで私のほうから総括という意味も込めまして、具体的な個々の法律の名称を挙げておきます。それらは新労働法、年金改革に関する法律、社会保障に関する法律、社会保障制度の改革、住宅公共事業の改革に関する法律で、住宅公共事業の改革に関する法律は、実際施行されて直ぐに撤回されてしまいました。その他、選挙に関する新しい法律、新たな民法、刑法が制定されました。
 実は、こうした一連の新しい法律の制定は、独裁政治がロシアで始まろうとしている、もしくは既に始まっているということを直接的、間接的に物語るものだと思います。現在、権力が1つのグループの中に集中してきているというのが現状です。この権力は、2004年4月末頃までには、ロシアの近代史の中でも最も巨大なものになるのではないかと見られております。なぜ2004年4月末かと申しますと、3月に大統領選が予定されており、その後新たな政権が成立するのがおそらく4月の末頃ということです。新政権が成立した暁には、1つのグループに集中した権力が、近代史の中で最大になるであろうと見られています。
 私が申し上げている権力というのは、これまでロシア史の中でも、法律的には認められていないにもかかわらず実権を持って存在してきた影の権力というものです。しかし、今後は合法的な権力として立ち現れてくると思います。
 このような状況下で、ロシアの労働組合はどのようになっていくんでしょうか。今後の政権は、労使関係に関する問題をすべて政権の管理下に置くことを目指していくと思います。その理由は、ロシアへの海外からの投資促進のために魅力的な環境を積極的に作っていこうとすることは間違いないからです。投資環境が労使関係の悪化により壊されては困るからです。政権は、将来期待されるパイの分配を、自分たちの管理下に置きたいと考えると思います。政府が抱いているシナリオでは、自由な労働組合というのは邪魔な存在なわけです。
 ここで一番大きな問題は、FNPRの指導部が完全に独立性を失ってしまっているということだと思います。端的に申し上げてFNPRの指導部は政権と癒着しています。この件に関しては、各単位組織レベルでは、そうでないケースがあるかもしれませんが、しかし、いくつかの単位組織レベルでも、指導部が徐々に政権寄りになってきている状況が見られます。
 新しい政権は、次の手段として、労働組合を縦割りでコントロールできる、また政治的に自分たちに服従するような縦割り組織に編成していこうとするのではないかと思います。そのための法案がどんどん整備されていくのではないかと思います。
 従って、今後はそのような法律の整備がされていき、労働問題に関する単位組織への国からの監視が非常に厳しくなっていくのでは18ないかと思います。このような法律が制定される場合には、既に上部のほうで話が済んでいるケースが多いわけです。労働組合の上層部と国レベルでは話がまとまった上で、法律が制定されます。その結果、単位組織への管理が厳しくなるということです。
 2003年12月にロシアでは下院選挙が行われました。それ以降、国会での法案審議で外から、第三者が合法的にきちんと意見を述べていくことはできなくなりました。また、国の今後の労働組合構想の枠組みに入らないようなナショナルセンターは、まず、情報封鎖が行なわれ、その上で、分解され粉砕されていくと思います情報封鎖をされますとナショ。、ナルセンターは財政的にも情報的にも政権に立ち向かっていくことができないからです。
 今後1年半から2年の間に、政権から独立して活動しているナショナルセンターが、政権のこうした動きに対して抜本的な対抗策をとるのが大変厳しい状況にあるのが現状です。労働組合運動を全国レベルで行うのはできなくなっており、活動がおこなえるのは単位組織レベルのみになっていると思います。
 労働組合法をはじめとする一連の労働に関する法律に修正が加えられていく可能性が極めて大きいことを考えると、ロシアの労働組合を維持していくために残された時間は非常に少ないのではないかと思います。
 では、ロシアの労働組合が今後も存在を継続し、活動を続けていくためにはどのような道があるのでしょうか。おそらく、痛みを伴う大規模な改革を行われなければいけないと思います。
 そこで、どのような改革を行っていくかということですが、まず第1に、力には力を持って対抗するということです。つまり何を申し上げたいかというと、労働組合同士が今までのように互いにライバル意識を持って、自分たちのほうが力があるとか、あるいは独自性があるというような、自分たちのことのみを主張し合うような時代はもう去ったのではないかということです。国から独立性を守っている自由なナショナルセンターは、今後団結し統合していかなければいけないのではないかと思います。そして、国に対して立ち向かっていかなければいけないと思います。さもなければ、いくら色々なことを討論し合ってみても時間の無駄になってしまうと思います。この統合に対象となる組織というのは、FNPRに加盟する単位組織も含めて、あらゆる労働組合の組織が対象になると思います。
 先ほど司会者の方のほうから、VKTとKTRが今後統合はどうするのかというご質問でありましたけれども、おそらく統合をしなければ存続していけないのではないか、統合していかなければいけない段階に入っていると思います。
 この統合の際には、職能別の基準で統合を図っていくことを提案したいと思っています。いわゆるクラフトユニオンの形で職能別の組織をつくっていくということです。企業別組織に関しましては、ある程度大きな単位での労働組合の団体が力をつけるようになってから開始すべきではないかと思っています。といいますのは、昔のソ連邦の時代から、労働者は必ず労働組合に強制的に加盟させられていましたので、今でもその体制が残っており、新しい単位組織を企業別につくろうと思っても、そこに入り込む余地がまだないのが現状であるからです。今の段階では、別の形での統合が必要だと思います。
 ここで大事なことは、国際労働組合組織に対しましても、今のロシアの現状を正しく速やかに理解してもらうことが大事だと思います。そして、統合に対する理解を図っていきたいと思います。
 特にきちんと全体的に統合していかなければいけない産業部門は、金融資源と情報資源が集中する産業部門においてであり、これらの部門は1つの組織として統合していくべきだと思います。また可能性としては、独自の情報インフラの整備もできるのではないかと思います。
 そして、第2段階目の改革でありますけれども、統合ができた暁には、理念的な考え方、つまり社会労働マニフェストというようなものを作成をして、その中でロシアにおける社会労働関係の理念を網羅していくということであります。
 改革には、第3段目、それから第4、第5段階目の筋書きもできていますが、おそらくこれらの発展段階については申し上げなくてもおわかりになると思いますので、省略したいと思います。
 いずれにしても、いかにロシアは大きな改革を必要としているかについてご理解いただけたのではないかと思います。このような改革を推進するためには、やはり国際的な協力が不可欠だと思います。ロシアの労働組合運動を救うために私どもが考えております対策を実現するためには国際的な協力が何よりも必要であります。
 私は、何も最終的な結論を見出すためにこの報告を行ったわけではありません。今後のロシアの労働組合の運命がどのようになっていくのかということを対話していきたいと思ったわけです。皆様のほうから疑問を提示していただきたいと思います。

労働事情を聴く会