2014年 ルーマニアの労働事情

2014年7月11日 講演録

ルーマニア自由労働組合同盟(CNSLR-FRATIA)
エウゲニア・ラクラマ

財務省・財政関連国家機関労働組合 副委員長

ルーマニア自由労働組合同盟(CNSLR-FRATIA)
アドリアン・ペトラリウ

公務員労働組合 副会長

 

1.ルーマニアの労働情勢(全般)

 ルーマニアの労働市場は、IMF、世界銀行、欧州委員会によって課せられた経済措置がもたらす困難に、今なお直面している。経済の安定を揺るぎないものにするために、欧州資金提供プロジェクトや国内イニシアティブを通じて、いくつかの対策が講じられてきたが、まだ十分ではない。最低賃金および中間賃金がそれぞれ約180ユーロ(約2万4815円)と500ユーロ(約6万8930円)にとどまる中、平均的労働者の購買力はかなり低い。2019年にはユーロが導入される予定である。
 ルーマニアの人口は1990年代の2400万人から減少傾向にあり、現在1960万人となっている。登録労働者は570万人で、年金受給者が530万人、失業率は7%となっている。登録労働者とは税金を納めている労働者のことで、外国への出稼ぎ労働者や自営農業者は含まれない。年金受給者が多いので、年金制度は厳しい状況にあり、年金額は低く、この20年間借款で年金の支払いをしている。失業率が比較的低いのは出稼ぎ労働の結果であり、約300万人のルーマニア人が外国で合法的に働いている。
 若年者失業率は、仕事不足の影響を受け23%にのぼっている。ルーマニアでは「ジェネレーションY」(Y世代)という言葉がある。Yとは英語でいうとheavy(重い)という意味合いで、高学歴で実務経験はないが学歴に見合う高賃金と柔軟な働き方を求める若者のことである。連日200社にのぼる中小企業が倒産に追い込まれている状況の中で、雇用の確保は非常に厳しい。そのような中で、親が定年になるまで子供が経済的に依存する例は少なくない。
 欧州資金提供プロジェクトは、中規模以上の企業にとっては新たな経済活力と雇用創出の源泉となっている。しかし、申請したプロジェクトのうち、資金提供を受けられるのは34%程度である。労働組合もこの資金を通じていくつかのプロジェクトを実施している。

2.労働組合の直面する課題

 最近、組織率が急激に低下している。前回、組合員数についての統計が発表されたのは数年前になるが、その時点では就労者数の50%程度が組合員という統計結果が出ていた。しかし、現在では組合指導者ですら、組合員数の正確な数値を把握できていない状況である。
 政治状況は右寄りで、労働関連法や社会対話に関する法律などが労働組合に不利になる傾向がある。また、労働組合員や役員の権限が縮小されている。そのため、経営者はストライキが違法であると宣言しやすくなり、労働組合がストライキを行なうのは難しくなっている。法律面でも、組合員や役員が組合活動をするために休暇をとることが出来ない状況にある。
 以前は、団体交渉はあらゆるレベルで可能であったが、現在は全国レベルではできなくなっている。さらに、政治家だけでなく、組合指導者の間にも幅広く汚職が見受けられる。労働組合が政治に関わることは法律で禁止されているので、このような状況は労働運動に対する信頼を失わせることになる。また、ビジネスの場では、企業家精神、個人主義的な風潮が強まってきており、労働組合を結成し一緒に行動し、何かを獲得することを好まない風潮が強くなってきている。

3.課題解決に向けた取り組み

 政府との交渉プロセスを強化し、交渉を進める努力をしている。ただし、政権が頻繁に交代するため、このような交渉プロセスが非常に困難になっている。前の政権と交渉して決まったものは、政権が変わると再度新政府と交渉をやり直さなければいけないといった状況にある。
 ナショナルセンターレベルでは、組合員とコミュニケーションをさらに活発にしようと考えている。欧州資金提供プロジェクトから供給された資金を使い、専門教育、職業教育に焦点を当てた幾つかのプロジェクトを計画中である。
 他にも加盟する国際組織(欧州労連、ITUC)との連携も模索している。まだ具体的な結果は出ていないが、将来に対して希望も持っている。社会対話担当の大臣が、集団的労使紛争の解決成功例を、法制面に取り込むことを宣言した。また、全国雇用職業庁は、2014年に34万人余りを新規雇用する国家計画を発表した。

4.政府との関係

 ルーマニア自由労働組合同盟(CNSLR-FRATIA)は、全国三者構成協議会の枠組みの中で、政府との関係を制度化してきた。三者とは労使プラス政府で、この三者構成の中では、労働法制、賃金政策、社会政策などが話し合われる。しかし、政治的な戦略もあり、政府からこのような社会対話の場に代表を送ってもらえないという問題も残っている。

5.多国籍企業の進出状況

 多国籍企業の進出が目立つ分野は、自動車製造、金属加工、エネルギー、顧客サービス、衣服関係である。一般的にこのような企業は、少ない支出で最大利益を追求するため、必然的に労働者に対して望ましくない行動をとる。経済危機により、労働者は仕事を失うのではないかという不安から、不利な労働条件を受け入れざるを得ない場合が多い。多国籍企業における労働組合の活動は、ほぼゼロという状況である。

6.その他

 国家公務員に関しては、最近新たな方向が明らかになっている。SED LEXという労働組合が結成され、行政職国家公務員、財務、労働関係、社会的保護、地方行政、統計関係、さらに警察官も労働組合に参加できることになった。民間企業では、労働組合には反対、また労働法の適用も思わしくない状況にあるが、国家公務員主体の労働組合は、比較的労働関連法が遵守されやすい環境にある。
 ルーマニアは歴史的に、労働志向の社会といわれてきた。これは、労働を尊ぶキリスト教の価値観が基になっていた。しかし、その後、共産主義、ソ連の影響で、労働と富の関係性が破壊されてしまった。さらに、地方の農業従事者が都市部に流入する中で、教会が力を失ってしまったということもある。歴史的に我々の社会が尊んできた労働志向社会が、現在では非常に変わってしまったといえる。

*1ユーロ=137.86 円(2014年8月22日現在)

労働事情を聴く会