2004年 ハンガリーの労働事情

2004年10月12日 講演録

ハンガリー自由労働組合民主同盟(LIGA)
ラヨシュ・ホルヴァート

LIGA副会長

 

 ハンガリーからは3つの異なる組織から参加しておりますので、先ず最初にそれぞれの組織の紹介を書く参加者から行いたいと思います。

ナショナルセンターの組織概要

 ハンガリーでは現在6つのナショナルセンターが活動しています。それぞれ別々に機能してはいますが、イデオロギー的な観点から分かれているのではなく、歴史的な流れでこういう状況になっていると申し上げて良いと思います。
 1989年に社会主義体制が変わった後に、これらの6つのナショナルセンターが現在の形で設立されました。全国レベルで労働組合および労働者の利益を代表しているのは、これらの6つのナショナルセンターです。

LIGAについて

 まずLIGAについてお話しします。LIGAは、旧体制の中央集権的な労働組合と対立して設立された組織であります。LIGAは旧体制のナショナルセンターに対して、労働者に新しい選択肢を提供しようと、すべての部門の労働組合を受け入れました。規模では、LIGAは6つの組織の中で4番目に大きい組織です。加盟組織は民間部門が大半です。電機産業、鉄道関連、鉄鋼関係の労働者を代表しています。公務部門の労働組合もLIGAの加盟組織の中にあります。例えば教育部門などです。
 LIGAは国際的にはICFTUに加盟し、またヨーロッパ労連(ETUC)とOECD-TUACにも加盟しております。

ハンガリー自主労働組合総連盟(ATUC)
スザンナ・ヴァルナイ

ATUC会長代行

 

 ハンガリー自主労働組合全国連盟(ATUC)を代表して報告を行います。ATUCは民間部門を主として組織する第2番目に大きい組織です。産業別で見ますと、加盟組織は主に電機関連、電気工業関連、鉄道や運搬全体の産業が含まれております。さらに観光業やケータリング部門、団地に暖房を提供する産業というのが結構発達しているので、その産業や水道局関連の組織です。航空会社の労働組合や郵便部門の一部もATUCの加盟組織です。
 ATUCもICFTU、ETUC、OECD-TUACに加盟しています。

ハンガリー労働組合全国連盟(MSZOSZ)
ティボール・ヴォイテーラ

MSZOSZ最高幹部会委員

 

 ハンガリー労働組合全国総連盟(MSZOSZ)を代表して報告します。現在、私どもの連盟がハンガリーで一番大きなナショナルセンターです。現役労働者の加盟人員数は25万4千名です。それに約17万人ほどの退職者も組合員として加盟しております。MSZOSZもさまざまな産業の労働者を代表しております。民間部門では、サービス産業、鉱山関連や繊維産業、福祉サービスや郵便の一部、情報、化学関連産業、建設業、商業や貿易関連、鉄道の一部、石油関連部門、そして食料関連産業、ほぼ国民経済の全体を代表しております。つい2週間ほど前には新しい加盟組織として、金銭運搬などに当たる警備関係の企業の労働組合が加盟しました。ヨーロッパでも大きな警備関係企業の労働組合です。
 MSZOSZもICFTU、ETUC、OECD-TUACに加盟しております。MSZOSZに加盟する産業別組織もそれに対応する国際組織にそれぞれ加盟しております。

(ホルヴァート:ハンガリーLIGA)

ハンガリーの改革の歴史

 今回の講演会のテーマとして「EU加盟、と労働組合の対応」が掲げられてますが、労働組合が直面してきた問題を少し歴史的な観点から説明する必要があると思います。と言いますのは、ハンガリーで労働者が直面してきた問題は、EU加盟に関連して起きたことではなくて、大体15年ほど前から起きてきたことが現在でもそのまま継続しているからです。
 1989年の旧体制の破壊、その後の変革は労働者に大きな衝撃を与えました。例えば農業部門では、体制変革は農業共同体として動いていた経済に大きな衝撃を与えました。企業レベルで見ますと、それまで市場は主にロシアでしたが、その市場がほぼ完全になくなりました。破産に破産が続きました。大企業は破産しなかったまでも、解体を余儀なくされました。結果として150万人ほどの労働者が雇用を失いました。ハンガリーの全人口は1,000万人ですから、この数字が以下に大きいものであるかお分かりいただけると思います。その当時に職を失った人で、いまだに新しい職が見つかっていない人も数多く存在します。
 中東欧諸国の中でハンガリー特有のものとしては、ハンガリーは海外に対する債務が非常に大きかったことが挙げられます。したがってハンガリーが生き残るたった一つの方法は、国有企業を全部民営化することでした。当然、国内の資本はほぼゼロに等しいので、外国の投資家に頼るしかありません。そのことは労働組合も認めざるを得なかったわけです。労働組合側では、労働者が所有者になるという意見も出ましたが、それはマクロ経済レベルではうまく機能しないだろうということで、外資系の企業がどんどん入ってくることになりました。
 法制面では、自由市場経済の条件はすぐに整えられました。民営化も大半が結構速いスピードで進展しました。体制が変わった後の最初の数年間は、中東欧諸国でハンガリーが外国の投資の的になっておりました。
 ハンガリーにも、国レベルの三者構成の利害調整機関があります。そこで民営化に関する話し合いが何度か行われました。その話し合いの中で労働組合は、労働条件と雇用の確保を前面に掲げ、そのテーマに集中しました。その点についてはある程度確保できたかもしれませんが、結局は国の経済の構造改革についていっただけで、自ら進みたい方向に進んだわけではありませんでした。
 速いスピードで進んだ民営化のために、現在のハンガリーは、ヨーロッパ全体で見ても国営企業や公営企業などをあまり持たない国に変わってしまいました。労働組合がうまく機能していなかった理由としては、やはり労働組合の細分化し、お互いとの競合関係で、一つにまとまった意見を出せなかったこともあると思います。
 組織率もだんだん下がってきています。ハンガリーでも、企業レベルの労働組合が労働運動の基本になっておりますが、民営化とか解体とか破産が絡み、それに労働組合が変化についていけなくなってしまいました。新企業に労働組合を結成することにはほとんど成功していません。現在のハンガリーの労働組合がどこで機能しているかといいますと、公共部門か、あるいは民営化の段階で昔から存在した労働組合を守ることのできた企業の中だけであります。

雇用の動向

 現在の状況に移りたいと思います。完全失業率はハンガリーではわりと低く5.9%です。しかし就業率は非常に低い。57%です。それに関連してさまざまな問題が発生しています。ハンガリーでも社会保険制度が破綻寸前という状況にあります。確かに年金保険制度の改革も行われました。現在、医療保険部門の改革が、大きな課題となっております。
 就業率が低いことの原因として1つ挙げられるのは、税金が非常に高いということです。ハンガリーでは消費税は全般的に25%です。そして就業率が低い1つの具体的な理由は、活動年齢にいながら活動していない層が相当存在するということです。さまざまな改革が国のレベルでは必要ですが、政府にはその意思があまりなさそうです。
 悪い影響はほかにもあります。ハンガリー社会の中で格差が非常に広がってきています。格差の境目はどこにあるかというと、職を持つ人と職を持てない人の間に引かれています。さらに、体制が変わってからの15年間で地域間の格差も広がっています。
 ハンガリーでは全国レベルの、先ほど言いました三者構成の利害調整評議会というのが機能しておりました。ハンガリーの労働組合の特徴としては、労働組合があるところでは組合が強い、労働協約もいい協約が結ばれるというケースが多いです。しかし労働組合がない企業も結構ありますので、そういった企業の労働者の条件は非常に厳しい。

EU加盟後の展望

 EU加盟が具体的にどのような影響をハンガリーに及ぼすと予想されるかについて触れたいと思います。それはもちろん大半が予測に過ぎません。ハンガリーでは1年ぐらい前から、第2の経済構造の変化が始まっているように見えます。外資系の企業がハンガリーに入ってきて、税制の面で優遇されていたのですが、優遇措置の期限が切れ、企業の一部にはハンガリーから撤退しようとしているのもあります。EU加盟国として、そのような優遇措置をもはや維持できないことも理由です。主にどういう企業が撤退しようとしているかと申しますと、安い賃金で労働者を雇う、しかもかなりの数の労働者を雇うような企業です。繊維産業や靴製造業は、ほぼその産業全体がなくなってしまっています。電子機器産業のIBMやフィリップスもこれまで、安い低加工レベルの製品を製造していましたが、段々と撤退しようとしています。
 しかし高度な技術、高い労働資格を必要とする企業の数がそれと同時に増えてきています。しかしそのような技術と資格に見合うような労働力がハンガリーには十分に見出せないのが現状です。そのような労働力がハンガリーでは決定的に不足しています。
 最後に、EUとハンガリーの色々なデータを比較してみたいと思います。ハンガリーではこの10年間、生産性の面では大きく向上したと思います。ハンガリーの生産性は、これまでのEU加盟国に比べて、既にその70%に達しております。しかし、これらの高い生産性を有する企業は、ほとんどが多国籍企業で、それらの多国籍企業が雇用している労働者の数はそれほど多いとは言えないのが現状です。
 ちょっとマルクス主義の言い方になってしまいますが、生産性が大きく向上させながら、賃金の上昇はそれに伴わせず、極めて低いレベルに抑えて労働力を搾取するという雇用者の考え方、そういう立場がだんだん強くなってきていると思います。その立場、考え方に対抗することがハンガリーの労働組合の一番大きな課題だと思います。具体的に言いますと賃金レベルを他のEU加盟国のレベルにまで上げるということです。
 ハンガリー人は、外国人から物事を暗く見すぎるとよく言われますが、私が申し上げたことも暗い印象を与えるかもしれません。後に2人の話がありますので、もうちょっと明るい話も出てくるかもしれません。

(ヴァルナイ:ハンガリーATUC)

欧州レベルでの労使対話

 ハンガリーからの報告を聞いてお分かりの通り、ハンガリーはEU加盟に至るまで15年間かかりました。このEU加盟が労働組合にどういう新しい挑戦を突きつけいるかお話ししたいと思います。
 EUレベルの産業別労使対話の場にハンガリーの関係労組も参加すること、これはハンガリーにとりEUレベルにおいての新しい挑戦であります。EUの労使対話委員会では、労働者側と使用者側が対話・協議を行っております。そしてその産業についての法案を欧州委員会に提案する制度になっております。そして当然EU全体のレベルで、その産業の労働者の利益を代表して発言する場も提供されています。
 当然この新しい挑戦の中で、成功した部分と成功していない部分もあります。成功しないことがあっても、やはりEUレベルで労働者の利益を代表する場があることは大変重要なことだと思います。例えばこれらの場で、さまざまな問題のある多国籍企業の戦略とかいろいろなデータが入手できます。
 ハンガリーの労働組合としては、このような場に有効に参加するために2つの条件を満たさなければいけません。先ずコミュニケーションがうまくできる人材を送り込むことです。さまざまな言葉でコミュニケーションができ、ヨーロッパのさまざまな国との情報交換ができる人材を育成するという課題があります。EUレベルで入手した情報などをハンガリーに帰って、有効に活用するためには、そういう条件を満たさないとできないと思います。
 ハンガリー国内においても、労使間の協議の場が新しく作られましたが、その目的は、ハンガリー国内でも産業全体の労働協約を結ぶことができるようにすることです。そこでの対話がうまくいくかどうかは労働組合側と使用者側の努力次第であります。この労使間の対話の場は、まだ新しい組織のせいもあり、まだきちんと機能しているわけではなく、具体的成果はまだ挙がっていませんが、これから大きな可能性が見込まれると思います。
 ハンガリーでの機会均等の問題についてお話ししたいと思います。当然ハンガリーでも、雇用機会の均等は法律で保障されています。しかしそれが実際にうまくいっているかといいますと、そうではないのが実情です。雇用における男女間の差別などが存在しているということです。

(ヴォイテーラ:ハンガリーMSZOSZ)

 労働組合の現状と、皆様も興味があると思いますが、ハンガリーの日本企業における労働組合の状況について話したいと思います。EUに加盟しましたので、その中における労働者の移動の問題も取り上げたいのですが、先ほどお話しのありましたポーランドの状況と、ほぼハンガリーも同じような状況ですので、ここでは割愛します。
 世論調査によりますと、ハンガリーでの労働組合の認知の程度は、非常に低いと。大きな理由の1つは、労働組合がうまく機能し成功した例が極めて少ないということと、もう1つは、マス・メディアで労働組合がニュースになる時には大体が何か悪いニュースである場合が多いからです。
 ハンガリーは体制が変わって自由主義市場経済に移行しましたが、その移行によって労働者は、それまでの安定した雇用など、いろいろな面で安定していた生活が急に変わってしまい、自分のことを自分で決められない状況になってしまいました。それにどう対応していいのか。労働者の利益をどう代表していくのか。そのやり方をハンガリーの労働者は、まだ学んでいません。学校を卒業して社会人になった人たちは、自分を守る組織や自分を守ってくれる制度としてどのようなものがあるのか、全くわかっていません。そのようなこともあって、若年層の組織化は非常に難しくなっています。
 民営化されたハンガリー企業の中では、外国投資家が投資した企業の労働組合よりも、何らかの形でハンガリー国内の投資家の手に残った企業の労働組合の方が、状況は厳しいものがあります。外国の投資家が民営化の段階でハンガリーの企業を手に入れた場合は、もしその企業で最初から労働組合がうまく機能していればそれを認め、しかも労働協約があればそれもそのまま存続させて認めるというケースが多い。
 先ほどの話にもありましたように、新しい企業で新しい労働組合をつくることは、現在のハンガリーでは極めて困難であります。具体例を申し上げますと、2つの民営化されたハンガリーの工場を所有しているドイツの企業の話ですが、既に所有していた2つの工場では労働組合がうまく機能し、経営側もそれを認めました。しかしこの同じ企業が新しい工場をハンガリー国内の別の場所に作ったところ、そこでは新しい労働組合をつくるのに4年もかかりました。それは日本企業においても同じです。したがいまして連合にまず何かお願いができることがあるとしたら、少なくとも日本企業におけるこういう状況に影響力を発揮していただきたいと言うことです。
 労働組合を新しく結成することが非常に難しいということもあり、法律面で何かを進めようということになりました。具体的には、経営者にいろいろな優遇措置を与える条件として、労働組合を認めること、さらに労働協約を認めることを条件にしていろいろな優遇措置を与えるなどの対策をとったことがあります。もちろんこれは、さまざまな労働条件にも関連する問題です。まだこの対策の具体的な成果はみられませんが、ハンガリーの企業レベルの労使協議会の選挙が1カ月後に行われますので、それが終わって大体2週間たったら、また新しい状況が生まれると思います。そして先ほどお話のあった、EUレベルでの労使協議会に派遣するメンバーを今、選出しているところですので、彼らもEUレベルでのハンガリーの労働者・労働組合の利益を代表するだろうと期待しております。

労働事情を聴く会