2017年フィリピンの労働事情

2017年9月8日 講演録

フィリピン労働組合会議(TUCP)
アイリーン オリバー モンタルバン氏(Ms.Ailene Olivar Montalban)

TUPCフィリピン教職員組合 女性委員会委員長

ジェネシス ドリオ カポシャン氏(Mr. Genesis Dorio Capocyan)
オブレロ ピリピーノ労働連合 法務局長

 

【概要】

 国土は7千を超える島々からなり、その広さは日本の約80%(30万平方キロ)である。人口は約1億人である。政治体制は立憲共和制である。農林水産業従事者が全就業者人口の約30%を占めるが、近年はコールセンター事業等のビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業を含むサービス産業従事者が増大(全就業者の50~60%)している。また、インフォーマルセクター労働者の割合は全雇用者の約40%とみられ、社会問題として浮上している。経済成長率はおおよそ5~6%台、物価は1%台であるが、2017年7月時点では2.8%とやや高めに推移している。失業率は6%台(2016年6.5%)となっている。最低賃金は日額491ペソ(2016年→日本円換算約1070円/2017年6月5日TUPCは新たに259ペソの賃上げ請求を行う)である。ナショナルセンターは複数存在するが、労組組織率は約10%と低位にある。

1.3年連続して改正された労働法令-問題大きい労働契約化省令

 フィリピンの労働法典は労働関連問題に適用される主要な法律であり、5巻から構成されている。(①雇用前②人材開発③雇用条件④安全衛生および社会福祉給付⑤労使関係)最近は3年連続で改正が行われている。2015年には、全国労働連盟による組合の設立が認められ、公認された組合が過半数の組合員を提示できる場合、労働雇用省による「唯一かつ排他的な交渉代表権者」の証明書の交付が認められた。また2016年には、労働監督において、職場環境評価に労働側代表を含める改正が行われた。さらに2017年、許容可能な契約及び下請に関係する実施規則が定められた。しかし、これは組合にとって非常に問題な改正であった。この省令の内容は、労働の契約化、労働力として下請けを使うことに関するもので、不安定雇用を公認するようなものである。当初、フィリピン大統領が労働の契約化に終止符を打つとしていたにもかかわらず、結局、その労働の契約化を定めた省令に署名したのは大統領自身であった。

2.主要な社会保障制度は異なる4つの取り扱いで構成

 フィリピンの主要な社会保障制度は、①公共セクター対象の公務員保険機構(GSIS)、②民間セクター対象の社会保障機構(SSS)、③官民両セクター対象の労働災害補償プログラム(ECP)、④フィリピン健康保険公社(フィルヘルス)の4つからなっている。GSISとSSSは労使双方の負担する保険料が財源となっている。フィルヘルスの財源も同様だが、貧困者に対しては政府補助金がある。ECPは使用者の負担する保険料のみを財源としている。これらの制度により、医療、疾病、老齢、労働災害、出産、傷病手当金、遺族給付金の基本7分野がカバーされている。

3.蔓延する非正規雇用と増え続けるインフォーマル雇用

 非正規雇用(または不安定雇用)が蔓延している。非正規雇用とは「短期的、季節的、臨時的雇用」であり、一般に「労働の契約化」「5-5-5」(5カ月ごとに契約更改をし、正規に雇い入れなければならない期間を回避)などと呼ばれている。フォーマル雇用が増える一方でこうした非正規雇用も増えているのが今日的特徴である。これらの多くは不安定雇用であり、組合は深刻な脅威として、契約形態の雇用協定に反対してきている。
 一方、インフォーマルな雇用も依然増え続けている。自営業者や無給労働者を含むこの層は、2015年には就労者全体の約38%、3874万人余りを占めるまでになっている。このうち無給労働者は就労者全体の約10%、390万人とみられている。労働基準や社会的保護もなく、労働者の中で最も貧しく取り残された層である。TUCPはインフォーマル経済セクター労働者同盟を通じ、この層に対する保護を強化し、その権利と福祉を促進するための立法を求めてきた。現在議会では、「インフォーマル経済からフォーマル経済への移行法」と題する改正案が審理されている。

4.変わらず続く使用者・政府当局者の組合活動への強い抵抗

 使用者は相も変わらず積極的かつ強硬に組合への抵抗を続けている。組合排除を目的として会社閉鎖を行い新会社を設立したり、会社の国外移転、反組合色の強いところでの企業立地、組合指導者に対するあらゆる種類のでっち上げ訴訟や、契約労働者の大量利用、組合阻止を狙いに協同組合の乱用など、例を挙げれば枚挙にいとまがない。

5.組織化と団体交渉-優先プログラムで対抗するTUPC

 こうした問題に対処するため、TUCPは組織化と団体交渉を重視して取り組んでいく。組織化は引き続きTUCPの優先プログラムとなっている。また、社会的保護の観点からのアドボカシー(政策提言)として、社会保障などを受けられずにいる多数の恵まれない労働者(その多くはインフォーマルセクターだが)が、そうしたサービスを享受できるようより良い政策、プログラム作りに取り組んでいく。 さらに、より強力な身分保障政策を求めるアドボカシー(政策提言)として、フォーマルセクターにあっても事実上保護されていない契約雇用体制下で働く労働者の保護に取り組んでいく。この他、労働教育や訓練として、中核的労働基準、組織化、団体交渉、労働監督、建設的労使関係に関連する情報や訓練を継続して提供していく。加えて、法的支援などのサービスを提供していくことは言うまでもない。

 
2017年6月9日 講演録

 7千を超える島々からなり、人口は1億人余りである。農林水産業従事者が全就業者人口の約3割を占めるが、近年はコールセンター事業等のビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業を含むサービス産業従事者が増大(全就業者の5~6割)している。また、インフォーマルセクター労働者の割合は全雇用者の約4割とみられ、社会問題として浮上している。経済成長率はおおよそ5~6%台、失業率は6%強となっている。労組組織率は約10%である。

フィリピン労働組合会議(TUCP)
コニー ラモス タグル

アットマーク労働組合 副委員長

 

1. 厳しく苦労した組合結成後の取り組み

 2015年7月に組合登録をしたが、当初、組合活動そのものができるかどうかという問題に直面した。会社閉鎖や解雇の脅威にさらされたり、組合の幹部や組合員へのハラスメントが行われ、委員長は一時停職にまで追い込まれる事態も発生した。また、会社側は一流弁護士(例えば元労働雇用省の役人)を雇い、組合との対峙を深めた。このように厳しく苦労した会社との闘争は1年間にわたったが、ようやく2016年6月に労働協約締結の運びとなった。

2. 粘り強い交渉で労使協調できる関係にまで進展

 労働協約締結後は、会社側の対応も一変し、働く人の保護と尊重の対応姿勢へと改善が図られた。企業理念としてある、「最高の人材を採用し、最新の資本集約的で高技術な機械類のトレーニングを通じて、持続的な拡大と発展のために人材育成を図る」ということが現実のものとなってきている。労働基準の順守はもとより、有給休暇の追加付与、会社主催のピクニック、各種福利厚生策の展開、誕生日の現金ボーナスの給付など、労使関係は良好な関係を続けている。粘り強い交渉努力の賜であり、今後も組合は初心を忘れず活動を展開していく。

 

フィリピン労働組合会議(TUCP)
エメリタ バリディオ ロンサム

ラグナ・オートパーツ労働組合 委員長

 

1. 組合結成を巡り最高裁までもつれ込む

 ラグナ・オートパーツ労働組合は、オブレロ・ピリピーノ傘下の支部組合である。1998年までラグナ自動車部品製造会社には労働組合はなかった。この年から組合設立に向けた取り組みが始まったが、実に結成までに10年の歳月を要することとなった。会社は2008年の最高裁判断で認可投票の許可が示されるまで組合結成に異議を唱え続け、これが組合結成側には大きな問題・桎梏となってきた。オブレロ・ピリピーノはこうした重圧に屈することなく、キャンペーンを展開、意識向上活動や労働者教育を行い、ついには組合結成にこぎつけるところとなった。

2. 定着している良好な労使関係

 組合結成、組織化には大変な苦労を要したが、今日では会社の理解を得ることもでき、良好な労使関係のもとで組合活動が展開できている。会社業績も超高品質製品と優れた従業員作業により25年間拡張を続ける成功に恵まれており、こうした環境の下で交渉でも幾つかの労働協約締結や組合員全員への年末一時金(2016年12月)の獲得を実現している。組合はこうした好環境を追い風に、組合員の結束強化や意識向上のための教育プログラムを展開するほか、組合員のための福利厚生プログラム-アマチュアマラソン、ピクニック、ローン提供、経済的支援など-の取り組みを進めていく。