1998年 インドネシアの労働事情

1998年7月8日 講演録

ハルジョノ
インドネシア・東ジャカルタ地区、金属、電機・機械労働者組合(LEM) 議長

 

労働者団体の現状とインドネシア情勢

 インドネシアではスハルト大統領が政権を取って以来、特に70年代、労働運動の自由はありませんでした。労働問題に対する政府の干渉はあまりに行き過きたものでした。経営者を保護するため、工場に軍人を配置して直接的に労働者団体をコントロールしたり、基本的人権や民主主義の権利に背く、経営者や権力者に有利な法令を作成しました。それが労働者団体の秩序を乱したり、指導部の分裂をもたらしたり、政府に対する不信感をも生み出しました。
 しかしながら、インドネシアでは労働者の闘争はおさまることはありませんでした。FSPSIは各産別を通じて、最下層の組織、すなわち闘争の最前線に立っている事業所レベルの組織の弁護や保護、教育を行うことにより、組織強化に努めてきました。
 5月には学生が先頭に立って、全面的改革を要求する労働者や国民の運動が起こり、その結果スハルト大統領が失脚しましたが、運動が起こった背景には次のような多くの要因がありました。(1)国軍の役割を利用したスハルト大統領の政治独裁。(2)KKNと呼ばれる汚職、癒着、ネポテイズムの横行。(3)それまで政権に失望し続けてきた政治団体、大衆団体、労働者団体を含む職能団体、活動家たちの恨みの爆発。(4)国民生活を不安に陥れた経済危機。(5)インドネシア国民の多くが苦渋を強いられている中でのスハルト一族のビジネスに対するねたみ。
 労働法の改正をめぐる労働者と労働組合の要求は、1997年7月既に始まっていました。その内容は法的決定力に欠け、労働運動の自由も保障されず、労働者社会保険の資金運営を政府が代行するというものでした。そのように基本的人権を無視した動きに対し、労働者は国会で4日間デモを繰り広げました。
 インドネシアは今、政治危機と経済危機の真っただ中にあります。スハルト大統領が失脚して副大統領のハビビが取ってかわりましたが、依然として経済復興の兆しはありません。その結果、この危険な状況の中で庶民は一層生活苦を迫られています。
 通貨ルピアの対ドル為替レートは、1997年末には1ドル3,200ルピアであうたのが、現在は1万5,000ルピアで、4月、5月には1ドル1万7,000ルピアに達したことさえありました。このことが原材料の80%を輸入に依存しているインドネシアの産業界を苦境に陥れています。多くの工場が閉鎖され、大量解雇の結果、多くの失業者が出ています。この状態がいつ終息するのか、答えられる専門家は1人もいません。
 インドネシアの政治の安定は、政府が経済危機を克服できるか否かにかかっています。もしハビビ政権が早急に国民の経済的困難を克服できなければ、近い将来、また政治的混乱が生じる可能性があります。IMF(国際通貨基金)はインドネシア政府の財政困難を克服するために支援することを約束しましたが、いまだに実現していません。むしろ日本政府がこれまでよく援助してくださいました。そのご配慮とご支援に対し、インドネシア民族として感謝申し上げます。日本政府は、現在みずからが財政問題を抱え、政治活動があるにもかかわらず私たちの国の困難な状況に配慮してくださっています。
 先ほど皆さんが写真でごらんになったデモの様子は、去年の話でありますが、その当時インドネシア政府は労働法を改正しようとしていました。その内容は、労働者に対し、不利益をもたらすものでした。したがって、そういった政府の動きに対し、私たち労働組合では、1年間通してデモ活動を行ってきました。その後改革の運動の高まりとともに、私たちの運動は次第に高まりを帯びてきました。私たち労働組合は、インドネシアの労働者や国民の生活苦を改善するために、このような活動を行っております。私たちのこのようなデモ活動は常に続いています。しかし中心となっているのは各産別組合です。FSPSIの中で今、現在活発に活動を行っているのは各産別です。皆さんご存じのとおり、13の産別が存在します。

労使紛争の解決

 DAERAHとは地方労働委員会です。地方労働委員会の構成部分の一部は、労働者の代表ということになっていますが、その人事の決定権も政府側にあります。したがって、労働組合の推薦を受けた代表ではないわけです。PUSATとは中央労働委員会ですが、中央労働委員会の場合も同様です。PTUNと呼ばれる行政裁判所というものが存在しています。それは本来不正を働いた政府関係者を裁く裁判所でありますが、その存在がたとえ労働者のために有益な決定が出ても、そこに訴えることによって、その中央労働委員会などで出た決定がかえって覆されてしまうような結果になる場合もあります。そして今、FSPSIは各産別を通じて、最下層の労働組合の組織強化に努めています。最下層の労働組合、すなわち事業所レベルの労働組合が強化されてこそ、各現場で起こる労使紛争の解決も、よりスムーズになると考えています。
 現在インドネシアの労働者は、残念ながらFSPSIの中央執行部を信用していません。したがって、私たち産別が労働方面の改革のイニシアチブをとっていきたいという決意を持っています。私たちの国についての問題とりわけ労働者団体や、現在の経済、工場の状況について、誤った解釈のないよう、相互意見交換が大切です。