2011年 パキスタンの労働事情

2011年9月9日 講演録

パキスタン労働者連盟(PWF)
アブドゥル・ラウフ

 

1.労働事情(全般)

 パキスタンの人口は、2010年6月末現在で1億7,100万人である。国内の労働力人口は5,372万人で、このうち5,079万人が就業者、293万人が失業者で、失業率は5.5%である。経済の主要部門は農業、工業、サービスの3部門であり、サービス部門は国内総生産の53.8%と圧倒的シェアを占め、農業部門が21.8%、工業部門が18.2%である。雇用に関しては、労働力人口の45%が農林水産部門に就労し、13%が製造業、6.6%が建設業、16.5%が卸売り・小売業で、11.2%が地域・社会・対人サービス業に就労している。パキスタンの経済構造はインフォーマル部門に大きく傾いており、雇用の73%がインフォーマル部門となっている。
 パキスタンは低所得国に分類されており、人口の84.6%が1日当たり2USドル未満の収入で暮らしている。2008年の国連アセスメントによると、貧困世帯は収入の最大70%を食料に使っているが、それでも十分な食事をとれていないことがわかっている。
 貧富の格差は急速に拡大している。3年に及ぶ高いインフレ率に起因する貧困の増大と相まって社会の調和を損ねている。パキスタンの賃金構造は最低賃金法が実施されておらず、非常に不規則になっている。社会保障制度は鉄道員、地方公務員、自治体職員、駐屯地職員をはじめ、公共サービスに従事する者を除外している。また、老齢年金法を実施しようとする政治的意志が欠けており、一部の者のみを対象としており、全体的に排他的・差別的な法律になっている。女性労働に関しては相変わらず遅れたままになっている。

2.労働組合が現在直面している課題

 団体及び労働組合を結成する権利は、パキスタン国民の基本的権利の一つである。1973年のパキスタン憲法で結社の自由をうたった第17条は、「すべての国民は、パキスタンの主権、保全または公序良俗のために法律によって課せられた合理的な制限の下で、団体または組合を結成する権利を有する」と定めている。また、パキスタン政府はILO条約第87号及び第98号を50年前に批准している。しかし、パキスタンにおける労働者の権利侵害は今なお組織的に行われ蔓延している。結社と団体交渉の権利は、限られた少数のパキスタン人労働者にしか与えられていない。労働力人口の大部分は、労働組合への加入や団体交渉への参加を禁じられている。
 労使関係条例(Industrial Relations Ordinance: IRO)は、農業部門と教育部門の労働者には適用されていない。両部門が法的に独立した産業とみなされていないことがその理由となっている。また、その他の様々な就労形態の労働者も、この条例で定義された権利から除外されている。具体的には、合計約2,942万人の就業者が労使関係条例の制限を受けている。
 公益事業と認定された産業で働く労働者は、ESMA(1952年に制定された基本サービス法)の制限対象となっている。例えば、電力、ガス、石油または水の生成、生産、製造部門、さらに病院及び救急・公衆衛生サービス、消防、郵便、電気通信、電話サービス、鉄道、航空、港湾、セキュリティー・サービスなども労働組合権の制限対象となっている。また、ある部門が国営になると、通常の労働組合活動が厳しく制限される。
また、IROはストライキが地域社会に重大な困難を引き起こすか、または国益を損なう可能性がある場合は、政府はいつでもこれを禁ずることができると定めている。15日を過ぎれば、政府は書面による命令を通じて、ストライキを禁ずることができる。ストライキ権に対する過度な制限について、ILOは繰り返し苦情を訴え、裁定してきた。
 労働組合は、ストライキ権があまりに制約されているため、ほぼ存在しないに等しいと訴えている。組合は、調停その他の訴訟手続に参加することを義務づけられている。1952年の基本サービス法、ESMAの規定を用いることにより、パキスタン鉄鋼所、スイ北部ガス、パキスタン・テレコミュニケーションズ、郵便局、資本開発局におけるストライキ活動はすべて阻止されてきた。
 ストライキやデモは警察によって中止させられるのが常であり、目的を達成することはほとんどない。ストライキは使用者に一時解雇の口実を与えることにもなる。使用者のロックアウト権には制限があるが、使用者がこうした制限の規制をすり抜けようとしており、従業員の不当解雇やロックアウトは珍しくない。
 ILO、国際労働運動による圧力と広報活動の結果、債務奴隷労働問題に取り組む新たな法令が定められた。1992年債務奴隷労働制度法、1992年3月に採択された法律であり、パキスタンにおける債務奴隷労働の存在を初めて公式に認めた法律である。
 ILOは強制労働カテゴリーから特定の種類の囚人労働を除外しておりますが、パキスタンでは、犯罪者に対して強制労働に相当するたぐいの義務的労働を伴う刑罰を言い渡す幅広い裁量権を当局に与えているような現行法が幾つかある。例えば、1952年パキスタン安全保障法の第10条~13条、1963年の西パキスタン報道・出版令(第12、23、24、27、28、30、36、56、59条)、1962年政党法の第2条、第7条などである。パキスタン政府は、これまでこうした法律の修正または廃止を試みていない。

3.課題解決に向けた取り組み

 PWFはパキスタン最大の労働組合であり、労働協約を通じて加入する組織労働者の生活と労働条件の改善に向けて努力している。また、未組織労働者の組織化にも必死に取り組んでおり、未組織のインフォーマル部門の労働者の代弁者となっている。

4.ナショナルセンターと政府との関係

 PWFと政権との関係は、友好的関係が持続したことがない。PWFは幾つかの三者構成機関に代表として参加し、労働権の問題について闘うという自らの役割を果たしている。

5.多国籍企業の進出状況と労使紛争

 1980年輸出加工区域当局令(EPZAO1980)及び1982年輸出加工区域(雇用制限)法は、輸出加工区域(EPZ)内の労働者のストライキ、遅延、就業拒否またはこれらの他人への扇動、強制を禁止している。EPZ輸出加工区域内のIEPZ輸出加工区域は、労働組合結成加入権を与えるILOも含めたすべての労働関係法令から除外されている。さらに、EPZAO1980(第25条)は特に以下の法令の適用を除外している。1923年労働者補償法、1934年工場法、1936年賃金支払法、1961年最低賃金令、1965年州職員社会保障令、1968年西パキスタン商工業雇用令、1969年西パキスタン商店施設令、1976年従業員老齢年金法、これらの法令もEPZAOはその適用を除外している。この政策は、労働者を自国と外資系とを問わず雇用主の言いなりになるものである。