2016年 ネパールの労働事情

2016年7月29日 講演録

ネパール労働組合会議(NTUC)
アサ・シン・ラソール
副事務局長
ラックシマン・プラサド・クルミ
パルサ郡支部長

ビシュヌ・カドカ
バクタプール支部長

バグワティ・クマリ・カドカ
ネパール美容労働組合連盟会長

 

1. 経済状況

 1人当たりの年間所得は735USドル、経済成長率は4.9%で、その内、成長貢献率は農業が38.1%、製造業が15.3%、サービス業が46.6%となっている。ネパールの家庭の30%が外国へ出稼ぎをしている家族からの送金を受けている。その平均額は年間80,446ルピーとなり世界で5番目に多い。
 不安定な政治状況と昨年の大地震の影響もあって、外資系企業は非常に少ない。政府は農業と観光業にさらに力を入れる方針である。また、成長の可能性が高いのは水力発電であり、外国からの投資があれば有望な産業になるものと考えられている。

2. 労働市場の現状

圧倒的インフォーマルセクター

 総人口の54%である1,180万人が労働力人口(15~64歳)で、インフォーマルセクターがその内の90%を占めており、児童労働も存在している。インフォーマルセクターは以前94%であり、NTUCやJILAFの支援で減少傾向が見られる。また、新規労働市場参入者は毎年45万人おり、フォーマルセクター労働者は約200万人、自営業者が約180万人となっている。
 雇用に関しては、多くの労働者が3K(危険・キツイ・汚い)職場で働いている。製造業からサービス業への産業転換も見られ、多くの非熟練労働者が存在する。主な雇用分野は、農業や観光、製造業、インフラ事業である。
 労働市場の問題としては、労働力が効果的に活用されていないことが挙げられる。また、投資面でも雇用を促進するための投資が不足している。さらに、建設的労使関係の欠如や労働者の技能不足、低賃金と低生産性、労働市場関連情報の不足、労働行政の脆弱さなどが挙げられる。

外国へ出稼ぎに出る若者

 外国への出稼ぎ依存(毎日約1,500人の若者が出国)も大きな問題である。2015年には52万人が外国で就労している。地方から首都カトマンズへ、カトマンズから外国へと労働者が移動しており、高学歴労働者の頭脳流出問題も顕在化している。

最低賃金

 国レベルの三者協議機関において、2年に一度、全てのフォーマルセクター労働者の最低賃金が決定される。その後、地方機関(郡役場)において、農業や建設労働者を含めたインフォーマルセクターの賃金が設定される。現在の最低賃金は月額9,700ルピー(約90USドル)となっており、その内訳は6,205ルピーが最低賃金で、物価手当が3,495ルピーである。茶畑労働者の最低賃金は日額253ルピー(約2USドル)に軽食手当の30ルピー(約0.3USドル)が加算される。その他の労働者の最低賃金は日額395ルピー(約3.6USドル)となっている。最低賃金が適用される労働者は42%のみである。
 法律では、1日8時間以上の労働は禁止され、5時間連続勤務の後は30分以上の休憩が義務づけられ、1日4時間、週20時間以上の時間外労働が禁止されている。時間外労働の割り増し率は50%となっている。しかし、8時間勤務制度を持つのは全事業所の63%のみで、時間外労働手当が支給されている労働者は全体の44%にすぎない。

3. 労働組合の課題

 共通の課題としては、憲法で決められた基本的権利としての労働者の基本的人権を保障すること、非正規労働者の把握のための登録制度を整備すること、労働者に関わる法律・規則の制定に労働者の代表が参加すること、ILOの中核的労働基準である第87号条約の批准促進、安全な職場環境の確保、すべての労働者を対象とした社会保障制度、労働協約の締結、共同組合設立に向けた共同作業、生活できる最低賃金の設定などが挙げられる。

4. 課題解決のための取組み

 課題解決での優先分野は、まず労働組合の専門能力強化と労働組合の経済的自立である。労働協約締結のために団体交渉できる労働組合は1つであり、複数労働組合がある場合には団体交渉担当者を選挙で選ぶため、NTUC組合の役員が選出され交渉力を強化できるよう、組合役員の専門能力強化が重要である。また、インフォーマルセクターや自営業者の相互扶助や組織化などを目的として、NTUCは各郡に必ず1つ協働組合を作ることを目標にしている。組合員から会費を集め、組合員に低金利で貸し出すことを主な活動の1つとしている。バクタプール郡では、毎月組合員から100ルピー集めることから始め、現在は毎月200ルピー集めており、将来は社会保障や保険、年金、医療などのサービス提供も考えている。
 次に、労働者の出稼ぎ先は中東と東アジアが多く、NTUCと出稼ぎ労働者が協力して「ルーツフォーラム」という労働者が労働相談できる窓口組織を作った。出稼ぎで問題となるのは、ネパール側の派遣エージェントが事前に約束した労働条件と、外国での実際の労働条件との違いが大きく、この問題解決のためにNTUCとルーツフォーラムが協力をしている。また、海外へ出稼ぎに行く予定の労働者を対象に、事前に出稼ぎ先の情報を提供するサービスも行なっている。
 最後に、労働者の共通課題を解決するために、2007年に複数のナショナルセンターが参加する共闘組織である協働調整委員会JTUCC(Joint Trade Union Coordination Committee)が設立されており、NTUCはリーダーシップを発揮し、共闘の基盤を整備している。また、NTUCは、国の法律制定過程における労働組合の役割・関与を強め、労働法の改正や適用強化に取り組んでいる。