2011年 インドの労働事情

2011年7月1日 講演録

インド労働者連盟(HMS)
Mr. サントシュクマル・プンドリック・パワール

 

1.労働事情(全般)

 インドの全労働力人口は現在5億人で、毎年2,000万人ずつ増えていると推計されている。全労働力の約92%がインフォーマル部門または未組織部門に属している。未組織労働者の大半は、通年雇用が得られない農業部門または建設部門、人力車・手押し車などを引いて日給ベースで働く労働者である。これらの労働者には、医療、出産休暇、有給休暇、社会保障などの基本的な福利厚生が全く保障されていない。一方、フォーマル部門に属する労働者は主として政府職員、銀行や生命保険会社の従業員、公的部門や独立機関で働く職員であり、社会保障を含む福利厚生は全て付与されている。組織化された労働者は12のナショナルセンターのいずれかに分かれて所属している。ほとんどのナショナルセンターは所属する政党の理念に基づき活動している。HMSは、自由で独立した民主的な労働組合として、どの政党にも属していない。

2.労働組合が現在直面している課題

(i) 未組織労働者の組織化
(ii) 生活必需品の価格上昇
(iii) 失業者の増加
(iv) 基本的な労働法の不履行
(v) 労働組合の乱立
(vi) 業務の外部委託と民営化
(vii) 中核的ILO条約(第87号、第98号、第138号、第182号)の未批准
(viii) 社会保障とディーセント・ワーク

3.課題解決に向けた取り組み

(i) 未組織労働者に自らの権利に関する意識を広めるために様々なセミナー、ワークショップ、教育合宿を開催した。HMSの青年委員会には、未組織労働者を組織化する任務が与えられ、過去5年間で、HMSは幾つかの地区で、建設労働者、人力車や手押し車を引く労働者、農業労働者の組織化に成功した。
(ii) 失業問題に関しては、HMS青年委員会は「働く権利」全国プログラムを展開し、農村部に最低100日間の雇用を保障する制度を打ち出すよう政府に働き掛けた。HMSは現在、365日間の雇用保障の確保に向けて取り組んでいる。
(iii) ILO第87号及び第98号条約の批准については、HMSは2009年に開かれた75周年記念大会において宣言を採択し、インド政府に対して批准の強い要請を行なった。
(iv) 民営化、物価上昇、労働法の効果的な実施などといった他の組織とも共通する問題に対して、それらの組織と共同で全国規模の統一キャンペーンを行なっている。今年2月には100万人以上の労働者がこれらの問題について国会前に集結し、大規模なデモを行なった。

4.ナショナルセンターと政府との関係

 HMSは、自由で独立した民主的な労働組合であり、インドのどの政党からも圧力を受けずに活動している。したがって、我々の政府との関係は、単にそれぞれ独自のアイデンティティを有する二つの機関の関係に過ぎない。HMSは労働者の問題を代弁し、インド政府が設ける様々な話し合いの場を通じてその交渉に携わっている。HMSとインド政府との関係は良好である。

5.多国籍企業の進出状況と労使紛争

  多国籍企業の活動は、1980年代後半に始まった。インドにおける多国籍企業は主に、電子産業、コンピュータ産業、電気通信産業、スポーツ及びレジャー産業、自動車産業、金融サービス業、エネルギー産業、広告産業など多くの分野の産業に見られる。多国籍企業における労働紛争の原因の一部には以下のようなものが挙げられる。(1) 採用・解雇方針、(2) 労働組合を認めないこと、(3) 雇用の保障がないこと、(4) 社会保障がないこと、(5) 各種休暇その他福利厚生がないこと、(6) 相対的に低い賃金なのに仕事量が多いこと(超過労働時間)。

インド全国労働組合会議(INTUC)
Mr. アルムガム・シャンムガム

 

1.労働組合が現在直面している課題

(ⅰ)伝統産業において起こっている企業閉鎖と、それに伴う大量解雇の問題
(ⅱ)多国籍企業及びIT企業が成長し拡大しましたが、これらの企業において、労働組合が機能することを認められていないという問題
(ⅲ)十分な賃上げのないまま、生活必需品の価格、特に食料品の価格が高騰している問題
(ⅳ)組織化されている産業のインフォーマル化および拡大するインフォーマル部門で働く労働者に対する社会保障の未整備
(ⅴ)様々な既存の労働法の実施に政府が積極的でないという問題
(ⅵ)労働市場における最近の傾向(貧富の格差) >

2.課題解決に向けた取り組み

(ⅰ)インドの主要なナショナルセンターは、労働者の利益に反する政府の施策に全国レベルで闘うためにINTUCのリーダーシップのもとで共通の方針を打ち出し、数多くの抗議集会やキャンペーン活動を展開してきた。
(ⅱ)国会議員や州議会議員に選出されている労働組合の指導者を通じて、労働者の利益に反する措置や政策に対して政府に圧力を行使してきた。
(ⅲ)労働者に関わる問題について、労働者を代表して、さまざまな省庁の関係者と会い、話し合いを進めてきた。
(ⅳ)インドにおける労働者の問題に焦点を当てるため、様々な国際的な場を作ってきた。
(ⅴ)労働者の生活水準の改善を目指してILOを活用してきた。

3.ナショナルセンターと政府との関係

 INTUCは、インド独立の3カ月前の1947年5月2日に国父マハトマ・ガンジーの祝福を受けて結成された。結成目的は、国民会議派が独立インドを主導することを快く思わない全インド労働組合会議(AITUC)が率いる共産主義者の攻撃から国の経済を守ろうというものであった。INTUCと国民会議派の間の関係が非常に密接であり、INTUCは、政府との近い関係を利用して、労働者福祉に関する数多くの法律を実現してきた。

4.多国籍企業の進出状況と労使紛争

 インド政府及び州政府は、インド経済の開発を目的に、多国籍企業を誘致するために多国籍企業に対して様々な優遇策を提供してきた。
 グローバル化が始まって以来、各国の間で、多国籍企業の進出競争が激しさを増しており、多国籍企業に対する優遇策は、多くの場合、受け入れ国の国内産業や労働者を犠牲の上にある。残念ながら、ほとんどの多国籍企業は、組合は認めない、結成させないという方針に取っており、受け入れ国の労働法制を尊重していない。受け入れ国の政府も、このような事態を放置し看過してきました。インドも例外ではなく、多国籍企業による労働者の権利の侵害が様々な形で発生してきた。自国においては、優良な問題のない多国籍企業であっても、インドで事業を展開し始めると労働組合を認めないという方針を取っている。INTUCを始めインドのナショナルセンターはそのような多国籍企業に強く抗議してきたが、歴代のインド政府は黙って傍観者を決め込んできた。