2008年 インドの労働事情

2008年10月21日 講演録

インド労働者連盟(HMS)
アルン・グプタ(Mr. Arun Gupta)

ノースウェスタン鉄道労働組合ラジャスタン州アジメール地区長補佐

インド全国労働組合会議(INTUC)
スブラマニアム・シヴァガナ・プラカサム(Mr. Subramaniam Sivagana Prakasam)

INTUCカルナタカ州副会長

 

雇用情勢

 インドの労働組合運動は岐路に立っている。組織労働者は国内労働人口の20%にすぎない。都市労働者は13%しか組合に加入していない。鉄鋼などの主要産業ですら、組合に加入している労働者は10%である。若い世代の労働者は学歴が高く、キャリア志向で個人主義的傾向が強いが、階級的利害や連帯に突き動かされることは少ない。生活スタイルの変化に促され、若いインド人は共通の目標よりも個人の目標に合わせるようにしている。若い労働者は自分の個人的利益を満たす程度にしか組合活動に関わらない傾向がある。技能格差の拡大によって、労働組合の連帯の基盤が弱まっている。さらに見境のない経済の自由化、グローバル化、民営化の弊害が雇用に出ている。

労働運動の課題

 小売店やショッピングモールの商業従業員、警備員、建設労働者、葉巻タバコやお香労働者、衣服・織物労働者などの組織化が遅れているためこの未組織労働者の声が取り上げられることはない。警察や使用者団体による労働者や組合に対する人権侵害もある。生活スタイルの変化に伴い働く若い女性も増えているが、差別に直面している。派遣労働、臨時雇いや契約労働を選ばざるを得ない労働者が増大している。情報技術、ビジネス・プロセス・アウトソーシング、ニューエイジ・プライベートバンクの従業員は、組合に加入すれば職を失うことになることを公然と告げられている。児童労働は政府、労働組合運動が啓発活動をしているが今なお存在している。

組織化の推進

 労働組合運動の指導者は団結し、若者には先頭に立つよう促している。若い世代の労働者に対し、労働運動とその歴史、社会への貢献について教育し、あわせて未組織労働者の組織化を積極的に進めていかなければならない。特に建築労働者、荷運び人足、農業労働者、荷積み人などの組織化。職業訓練ではIT訓練を行うことによって技能格差の拡大を抑え、労働組合の連帯の基盤を創り出していかなければならない。インド大衆の真の利益に応え、労働者階級の福祉を追求する者に不可欠な義務を果たすべく、協調的な行動をとって労働者の利益を保護し促進する活動を行っていかなければならない。分裂した国内の労働組合運動の統合にも努めていかなければならない。

多国籍企業

 カルナタカ州(人口約5586万人、公用語カンナダ語)の州都バンガロールは「インドのガーデン・シティ」といわれ人口約600万人。標高920mの高原にあり気候も穏やか。バンガロールを州政府はカンナダ語の「ベンガルール」に改名している。インドの独立後、宇宙産業や防衛産業の工場がおかれた。経済の自由化以降IT産業の中心となり「インドのシリコンバレー」といわれるまでに成長した。多くの外国企業が進出している。

 インドで活動する多国籍企業上位20社の売上高の約37%を米国企業が占めている。英国、イタリア、フランス、ドイツ、オランダ、フィンランド、ベルギーなどのEU諸国の企業が、次々とインドで労働力をアウトソーシングしている。フィンランドの大手携帯電話機メーカー・ノキアは、インドに世界で2番目に大きい拠点を置いている。ブリティッシュ・ペトロリアムとボーダフォンは英国を代表している。イタリアからはフィアット、フォード・モーターズ、プジョーなど多くの自動車メーカーが、研究開発部門を持つ工場をでオープンしている。フランスの重電大手アルストムと製薬大手サノフィ・アベンティスは初期の進出組であり現在急速に拡大を遂げている。中東の石油会社やインフラ建設業者も、ブームを捉えようとインドに押し寄せている。韓国の電子工業大手サムスンとLGエレクトロニクス、そして小・中型車の大手メーカーヒュンダイ・モーターズは優れた事業を展開し、全世界への物流拠点としてインドを利用している。日本も負けず劣らず電子や自動車工場を多数展開している。シンガポールのシングテルやマレーシアの大企業セーラム・グループなどの企業も、莫大な投資を行っている。インドの労働運動は多国籍企業が事業経営においてディーセント・ワークやILOの国際基準を誠実に守ることを求めている。

2008年5月21日 講演録

インド全国労働組合会議(INTUC)
モハメッド・サミール・カーン

 

 インドの総人口約10億7,000万人のうち3億9,000万人が労働人口とされている。この3億9,000万人の労働人口のうち約2,700万人が組化され、残りがインフォーマルセクターである。後者は農業、林業、漁業、プランテーションなどの製造部門と、建設、貿易、輸送、通信サービスなど自営を含むサービス部門の両方から成る。インフォーマルセクターは、インドの総労働人口の約92%に雇用を提供している。
構造調整と国際競争の影響を受け、主要産業は縮小し、雇用は思ったほど拡大していない。雇用は重要な問題の1つであり、政府は特にグローバリゼーション後の時代における雇用関連問題を最優先事項として、全力をあげて取り組んでいる。計画プロセスを通じた雇用創出戦略では、雇用の可能性が高い部門の成長促進に主に重点が置かれてきた。職業安定所(947カ所)に登録している求職者数は約4,000万人で、そのうち30%が女性である。
 成長する経済に失業者が吸収されるように、雇用創出ペースを加速化するためにさまざまなアプローチや戦略が実施されている。雇用の可能性が高い部門の活動を支援する財政・金融政策は、常に政府の経済政策の不可欠な一部となっている。
 国際化の時代において、労働力は国際競争力を追求する産業にとって余剰な資源であった。その結果、色々もっともらしい理由がつけられて失職者の数が増大している。こうした失職者の労働はほとんどがインフォーマルセクターに吸収され、永久雇用はアウトソーシングを含めた臨時・一時・契約雇用に取って代わられている。この部門はきわめて脆弱化しており、この部門の労働者を組織化して適切な労働条件と社会保障措置を確保するための適切かつ時宜に適った措置が講じられなければ、これらの労働者は置き去りにされてしまう。
 政府は「全国共通最小限綱領」(NCMP: National Common Minimum Programme)において、公共事業プログラムを創出し、あらゆる農村・都市部の貧困層および中流下層家庭の健常者を対象に、最低賃金以上を提供する雇用を毎年最低100日間法的に保証する法律を制定している。この法律の目標は第一に雇用保障であり、農村家庭を貧困と飢餓から救い、また特に女性に経済的自立を与えることに大きな役割を果たしている。
 小規模産業部門(SSI)はインド経済にとって不可欠な役割を担っており、国内工業生産高の40%、産業関連雇用の80%、全輸出高の約35%を占めている。
 雇用分野では、農業を除けばSSI部門が最大の雇用機会を提供している。提供する雇用の大きい順に食品産業、非金属鉱物品、金属製品、飲料、たばこ製品、綿織物産業と続く。
 INTUCは政府と誠意ある関係を維持しており、同時に政府もINTUCの提案を考慮に入れている。
 不況産業の育成、改革、再建と組織/未組織部門の労働者に社会保障を提供するために政府が講じる対策は、協議プロセスを通じて決定されている。ほとんどの場合、INTUCは主導的労働組合としてその協議に参加している。
 ただし、労働法改革、失業問題、および組織労働者と未組織労働者に関する問題について、INTUCが妥協することはない。
 産業、サービス部門、通信部門、国産品および農産物の貿易を確立させるために、多国籍企業が誘致されている。
 州内での経済特別区の設置は中央政府によって許可されている。多国籍企業に最も人気があるのは、電子部門およびソフトウェア部門である。インドはこの好機をとらえ、インドのソフトウェアおよびサービス産業は他のあらゆる部門をしのいで成長している。
 経済特別区(SEZ)はインフラと生産工業に対する国内外の投資を引きつけ、新規雇用の創出につなげる目的で認められている。法律によってSEZおよびSEZ開発業者に対する所得税の免税が認められ、新たなSEZユニットについては5年間100%非課税で次の5年間50%免税、さらに次の5年間は再投資した輸出利益の50%が免税となる。輸出・輸入(EXIM)政策で発表された経済特別区政策の狙いは、国際競争力をつけ、輸出に関する煩わしい手続のない環境を提供することだった。経済特別区(SEZ)には、モノならびにサービスの輸出のために産業ユニットを設立することができる。

インド労働者連盟(HMS)
ジャスミン・ローレンス

 

 インドでは、多くの経営者は利潤を最優先し、従業員の削減、未組織労働者の労働条件引き下げなどが行われ、労働者に不安を巻き起こしている。このような状況において、労働組合は、労働者を搾取や虐待から救うために重要な役割を果たさなければならない。
未組織労働者は、最低賃金法は適用されていないかまたは限定的にしか実施されていない。未組織労働者には組合がないので、団体交渉の機会もない。インフォーマルセクター労働者の70%強は読み書きができない。その原因は、彼らが小学校にも行けなかったからである。
 労働者が抱える主な問題は、退職給付、医療便益、低賃金等に関する請求にかかわるものである。従業員が死亡した場合、遺族は、同情を頼りに代わりの職を見付けなければならないが、それには多大の時間がかかり、あちこち職を求めて動き回っても成果がまったくないこともしばしばである。インフォーマルセクター労働者は、医療を十分に得られず、職場の安全や雇用安定も欠如しており、これもインドにおいて改善するべき点である。
 HMSとその加盟組合は、これらの問題について適切なレベルで交渉を行っており、その結果問題は徐々に減少しているが、組合の大半は政党と関係があり、そのため、政党の支配の下で活動している。このことは、場合によって、労働者に有利な決定を行う上での障害になっている。労働組合は、経営側と討議を行っているが、世界銀行やIMFからの圧力のため、労働組合の要求が実施されることは少ない。
また、インフレ問題、食糧、住宅、医療など国民生活と結びついているこの労働問題について友好関係にある政党と共に解決へと取り組んでいる。特にわれわれの組合では、青年・女性活動家たちが問題解決のための学習・集会などへ積極的に参加している。
 HMSは、インドで最大の組織である。また、2008年に行われた最近の調査によると、5部門、すなわち鉄鋼、鉄道、セメント、民間航空および港湾・ドックの分野で第1位である。HMSと政府との間には良好な協力関係があり、中央および州政府と協力して活動している。
 インドにおいては、過去20年間に多国籍企業が進出してきており、これは、グローバリゼーションと自由化の政策に基づくものである。このシステムにおいて、外国投資家はインドに投資することや企業を設立することができる。現在、飲料水から輸送、重工業に至るまで、多国籍企業が参入しているあらゆる分野で商業的利益が生み出されている。欧米と比較すると、原料は容易に入手でき、労働力は非常に安価である。したがって、多国籍企業の成長率は非常に高い。