2014年 バングラデシュの労働事情

2014年6月13日 講演録

ITUCバングラデシュ協議会(ITUC―BC)
バングラデシュ・ジャティヤタバティ・スラミク・ダル(BJSD)
ナスリン・アクテル・ディナ(Ms. Nasrin Akter DINA)

BJSD女性委員会事務局長

 

一般的な労働事情

 バングラデシュの労働組合運動は長い歴史を持ち、1921年ごろに運動を開始した。イギリスの植民地統治、その後パキスタンの弾圧的な体制に対する闘争で、また解放戦争で、更にさまざまな民主化運動や母国語を守る運動で大きな役割を果たした。
 バングラデシュの現在の人口は約1億6000万人である。その中で労働力は男性が3950万人、女性が1720万人、合計で5670万人である。15歳から29歳の青年労働力が約2,090万人、15歳から25歳に限ると男性が820万人、女性が500万人の約1320万人である。フォーマルセクターの労働者数は男性が550万人、女性が130万人で合計680万人(12.6%)を占めている。インフォーマルセクターに働く労働者の数は男性が3240万人、女性が1490万人、合計で4730万人(87.4%)という驚くべき数になる。
 現在、労働組合に組織された労働者の総数は約190万人(労働組合組織率:4.44%)、単位組合数は合計で5,242組織、それらのうち全国的な労働組合連盟、いわゆるナショナルセンター(32組織存在)に加盟する単位組合は1352組織、その加盟人員数は約125万人である。
 労働組合の構造は、企業別、産業別、全国レベルの3層構造となっている。
 多くの組織に分裂している労働組合の共同行動の場としていくつかの試みがなされてきた。1つは1980年に14の全国連盟が参加して設立されたSramik Karmachari Oikka Parishad(SKOP)という名称の共闘組織で、現在でもバングラデシュの労働組合の共同行動はこの組織の名称で展開されている。2つ目は、14の全国連盟の支援と積極的な参加の下に1995年に設立されたバングラデシュ労働問題研究所(Bangladesh Institute of Labour Studies:BILS)である。BILSは参加組織に対して教育訓練、調査研究、情報提供などを行なっている。3つ目はILOが仲介した14の全国組織のフォーラムである労働者教育全国調整協議会(NCCWE)であり、ILOの支援の下に労働組合の能力向上のための活動を調整している。4番目がITUCバングラデシュ協議会(ITUC-BC)で、ITUCに加盟する6つの全国連盟が参加している。ITUCがバングラデシュで行なう諸活動を調整している。

労働組合運動の挑戦と課題

 バングラデシュの労働組合運動は多くの挑戦と課題を抱えている。それらの課題は[1]インフォーマルセクターの労働者をどのように組織化するか、[2]財政力を含めて労働組合の力量をどのように向上させるか、[3]業務上の労働者の問題に対してどのように労働組合はカウンセリングや労働者を援助する活動ができるか、[4]国際労働基準に沿った労働法の改正と法の適切な適用と施行、[5]全国最低賃金の確保、[6]社会保障制度確立の求める運動、[7]差別の撤廃と女性労働者の組織化、[8]職場の環境と安全衛生の確保[9]HIV―AIDS問題、[10]ディーセントワークの確立、[11]グリーン・ジョブに向けた運動と気候変動に関する意識向上運動、[12]移民労働者の保護、などの問題である。

バングラデシュの労働法について

 労働者や労働組合の権利としての労働組合運動に対する経営者の抵抗は非常に強く、政府も経営者寄りの政策の面が強いといえる。労働組合法は労働者に不利に、経営者に有利に制定されている側面がある。日本では、労働組合法に則り、労働組合の結成は自由であり、また労働組合が企業に団体交渉を要求すれば、企業は正当な理由なくそれを拒否することはできない。それに対して、バングラデシュでは労働組合の権利が法律上十分保証されていないのか実情である。
 バングラデシュにおいて一番の問題は、法律は制定されているが、それが実際上実行・実施されていない点にある。例えば、女性について、労働法では産前産後の育児休暇が半年間と定められているが、インフォーマルセクターにおいては、実際上それが適用・実施されていない。
 労働組合結成の問題については、すべての部門で現在国際的なプレッシャーを受けている。以前は、労働組合を設立することには非常に困難な環境が存在した。現在は、それが多少緩み、労働者はいかなる企業においても望めば労働組合を設立することができるようになっている。ただ壁となるのは、企業内の30%の労働者を組織しない限り労働組合として認められないという規制である。

女性労働者が抱える問題

 労働組合は、女性労働者のための安全な職場を確保するために様々な要求を行なっている。
 女性に優しい労働法を制定すること、労働法のきちんとした適用、強力な労働監督制度の確立、法律違反に対する罰則の強化、団結権と団体交渉権の確立、社会的安全網の確立、などである。
 しかし、現実には女性の働く場には様々な問題がある。性的なハラスメント、男女差別、雇用の保証の欠如、母性保護の欠如、家庭責任を始めとして過重な負担など、労働組合に参加する余裕がない現状である。
 労働組合は女性労働者のために多くの取り組みを行なっている。縫製関係を始めとしてインフォーマルセクターの女性労働者の組織化と労働組合活動への統合、女性委員会などの設置、労働組合意思決定機関への女性指導者の登用、労働組合の組織力強化への女性の参加促進などである。女性問題についての広報活動についてはいろいろな活動を行なっている。例えば、Lady's DayとかWomen's Day、母の日、メーデーなどを利用して、集会やデモなどを行なっている。

最近の2つの悲惨な事故

 2012年11月24日、ダッカ郊外のアシュリア地区にあるタズリーン・ファッションズの縫製工場で火災が発生し、少なくとも112人が死亡し、200人以上が負傷した。その工場には非常口はなく、正面玄関の鍵はかけられたままで労働者は脱出することができなかった。もう一つの事件は、2013年4月24日に、ダッカの近郊のラナプラザ縫製工場の建物の倒壊事件である。この建物は9階建てで、1階と2階は銀行もあり、3階から9階が縫製工場になっていた。このビルの崩壊で1137人が命を失い、379人が今でも不明のままで、約2500人が負傷した。バングラデシュにとっても、全世界にとっても悲惨な事件であった。
 ラナプラザが崩壊した後、101の労働組合が結成された。崩壊以前は、既存の労働組合はただ看板を背負っていただけの状態であったが、崩壊後設立された101の労働組合はきちんとした組織活動を行なっている。
 しかし依然としてさまざまな課題があり、労働組合を結成し労働組合活動を行なったゆえに解雇された労働者も多く出ている。労働組合を結成できるようになってはきたが、解雇などの問題が依然として存在する。
 現在議会において、縫製業界では必ず労働組合を設立しなければならないと定めた法案が提出されており、今後議会で審議されることになっている。

ITUCバングラデシュ協議会(ITUC―BC)
バングラデシュ自由労働組合連盟(BMSF)
ニュル・ナハール・シュショーマ(Ms. Nur Naher SHUSOMA)

BMSFナオガ地区女性委員会委員長

 

バングラデシュ自由労働組合連盟(BMSF)の組織と活動

 バングラデシュの労働組合運動において大きな問題は、労働組合が多数存在することである。現時点において、32の全国的な労働組合連盟・運動(ナショナルセンター)が存在する。これらのさまざまな全国組織はそれぞれの考え方や歴史を持っており、それを統一するのは極めて困難である。そのような状況の中で14のナショナルセンターによって1980年に創設されたSKOP(Sramik Karmachari Oikya Parishad)がバングラデシュ労働組合運動の共同行動を調整する役割を果たしている。
 第2の問題は、労働組合の政治性である。それぞれの労働組合連盟が政治政党と結びつき、そのため分裂を深めている。
 第3番目の問題は、インフォーマルセクター労働者の組織化である。特にバングラデシュにおいては、フォーマルな組織に属していない日雇い労働者や、茶園などで働く労働者が多く、それらの労働者を組織化し統合するのが大きな課題である。その点でBMSFは積極的な役割を果たしている。
 次の問題は女性労働者の組織化である。縫製工場など衣料品関係に従事する労働者の85%は女性労働者であり、その数は400万人以上と言われている。BMSFは女性労働者の組織化を積極的に働きかけている。

過去2年間のBMSFの成果

 最高裁判所での勝訴により2014年5月10日には、BMSFの会合を開催することができた。またBMSFは、金属、化学、建設セクターにおいて、新たな労働組合を設立することに成功した。そして、2013年には、労働法の改正を目指した運動を開始し、積極的に活動を展開した。

ITUCバングラデシュ協議会(ITUC-BC)
バングラデシュ労働連盟(BLF) シャー クラム ラフル クマル(Mr. Shah Khurram RAHUL KUMAR)

BLF全国運輸労働者連合
副事務局長

 

BLFの組織と活動

 バングラデシュ労働組合連盟(Bangladesh Labor Federation: BLF)は1986年に結成された民主的かついかなる政党にも所属しない労働組合の全国連盟である。現在の組合員数は約10万2000人で、そのうち男性約8万2000人、女性約2万人の構成になっている。
 加盟組合の主な産業は衣料・縫製、銀行・保険、ジュート・茶農園、交通(鉄道・水運)、電気通信、電力・ガス、報道・出版などである。
 BLFの役員の数は約30人である。首都のダッカ以外にも、6つの管区や52の県、その他の地域に支部を広げている。
 BLFの目標の一つが組織拡大にある。2020年までには、組合員を5万人以上増やす活動に取り組んでいる。そのためには労働組合教育が重要である。バングラデシュでは労働組合に対する認識が低い。BLFは、特に女性や若者を中心に、労働組合についての普及活動を優先的に行なっている。 
 もう1つの主な目標は、女性の権利を確保することである。そのためにITUC、ILOあるいはJILAFと一緒になって女性の権利の確立に向けて、様々な運動、ワークショップなどの活動を行なっている。
 ILOの国際労働基準(第182号条約)に沿ってバングラデシュでは児童労働は禁じられているが、残念ながら現実としては、未だ多くの児童労働が存在する。児童労働を撲滅するために、学校教育、職業訓練をどのように行なうかをBLFのプロジェクトとして独自のファンドと企業からの援助を得て実施していく計画である。職業訓練校については、セミナーやシンポジウムの形で定期的に移動しながら行なうことを計画段階である。電気器具の取り扱い方などについて、技術を高められるような訓練をしていくことになる。
 BLFは、更に職場の安全衛生の確立、全国的な社会的安全網の構築に向けた運動も展開している。

ITUCバングラデシュ協議会(ITUC-BC)
バングラデシュ自由労働組合会議(BFTUC)
アリフール・ラーマン(Mr. Md. Arifur RAHMAN)

BFTUC青年部長

 

インフォーマルセクターの労働者の問題

 2012年11月のタズリーン・ファッションズ工場火災事件、また2013年4月のラナプラザ崩壊事件後に、労働環境を改善していこうという運動が活発化している。
 バングラデシュにおいて一番の問題はインフォーマルセクターの労働者の問題である。2010年の労働力調査によると、総労働力人口の実に87.5%がインフォーマル部門で働く労働者であるという。バングラデシュにおいて、インフォーマルセクターの労働者は、非人間的な生活を強いられる。バングラデシュの政府および全ての労働組合は、一体となってインフォーマルセクターの労働者の問題に全力で取り組まなければならない。
 バングラデシュの貧困層の多くは、インフォーマルセクターの労働者で占められている。政府及び労働組合は、インフォーマルセクターの労働者の生活向上、社会参加のために、優先的に活動し、運動を展開しなければならない。インフォーマルセクターの労働者は余りにも貧しく、労働組合の活動家や役員が、労働組合への参加を呼び掛けても、貧困ゆえに参加が難しいのが現状である。

児童労働問題

 バングラデシュ統計局(BBS)は1995年に児童労働に関する調査を実施し、1996年にその結果を公表した。その結果によると、5歳から14歳までの児童労働の総数は630万人に上ることが明らかになった。その後、多くのNGOやITUC-BCを始めとする労働組合などが非公式教育(児童労働学校)の実施やその他の意識向上活動を実施し、児童労働を防止するためにさまざまな活動を実施してきた。児童労働の状況は以前に比べ良くなり数も減ってきている。

EPZにおける労働組合権侵害問題

 1980年代初めから衣料品産業が姿を現し、その雇用が増加してきた。ほとんどが女性であり、使用者側の強い圧力により労働組合の組織化が許されなかった。政府も輸出加工区(EPZ)における労働組合活動を禁じてきた。しかし、バングラデシュ政府は現在、アメリカやILOの指導のもとで、EPZにおける労働組合権を規制しないよう圧力を受け、緩和の方向に向かいつつある。

組織化が最重要

 全ての労働者の生活向上のために何よりも重要なことは労働者の組織化である。しかしバングラデシュの労働組合は、組織化が遅れている。労働者を労働組合に組織化することができなければ、労働者を教育し、労働者に法律上の知識を与えることはできない。

ITUCバングラデシュ協議会(ITUC-BC)
ジャティオ・スラミーク・リーグ(JSL)
シャティ・アクテル・カジ・ラヒマ(Ms. Shathi Akter KAZI RAHIMA)

JSL女性委員会組織担当

ナスリン・ナセル(Ms. Nasrin Naser)
JSL女性委員会ジャトラバリ地区担当

 
 

JSLについて

 ジャティオ・スラミーク・リーグ(JSL)は、建国の父と呼ばれる初代大統領のバンンガバンドウ・シエク・ムジブル・ラーマンによって、1969年10月12日に結成された。現在の組織は323の職場レベルの単位組合を基礎に、12の産業別・職能別組合で構成され、組合員総数は約66万人である。
 JSLは、現政権、つまり与党系の労働組合組織であるが、労働組合として与党系の労働者のためだけではなく、全ての労働者の利益、権利、平等を守ることを目標に活動している。
 JSLのこれまでの業績としては、労働者の労働年齢の引き上げ、労働法の改正、最低賃金の引き上げ、衣料品関係労働者の賃金引上げ、またそのセクターの労使関係改善委員会の発足、建設労働者の団体保険の認可成功などが挙げることができる。
 2012年に設立された労働者福祉基金には労使双方が参加している。JSLを代表してシャティ・アクテル・カジ・ラヒマ(Ms. Shathi Akter KAZI RAHIMA) 女性委員会組織担当
 が参加している。

インフォーマルセクターの労働者問題

 インフォーマルセクターの労働者の状況は、低所得、雇用保障の欠如、高い労働災害率、労働者の権利・福利に関する意識の欠如、安全衛生の不備、社会的保護の欠如、などなど悲惨な状況にある。

労働災害

 既成服衣料品産業(RMG)においては過去12年間に、工場などの建物の倒壊や火災などの事故により、少なくとも1841人が命を失った。負傷者は9595人に達し、その多くは労働能力を失い、負傷者と家族の多くは補償金さえ受け取っていない。最近起こった悲惨な事故は、2013年に起こったラナプラザ倒壊事故と、今年4月のタズリーン・ファッションズの火災事故である。多くの労働者が死亡し負傷した。

労働組合の変化・対応

 ラナプラザの倒壊後に、労働組合運動にも変化があった。労働組合運動は職場における労働者の安全と衛生の確立に最重点課題を置くようになった。災害後の補償についても大きな課題として取り上げている。労働において、そういった事故が起きた後で、労働法に基づいて賠償金が支払われるが、ラナプラザの倒壊後の犠牲者に対しては、加えて首相福祉基金、使用者連盟、ILO、企業などからの寄付や献金が行なわれ犠牲者に支払われた。
 バングラデシュの労働組合は、これらの災害を社会的に阻止する必要があり、その重要性を訴えるために様々な集会やデモ行進などを組織してきた。

将来の取り組み

 JSLの将来の目標として、労働法の改正、女性や若者の組織化の推進、インフォーマルセクターの労働者の組織化、すべての労働者に対する雇用と生活賃金の確保、ディーセントワークの確立、団結権や団体交渉権の確立に向けて運動を展開する。

労働法の改正とEPZの労働基本権

 バングラデシュでは、2006年の労働法を2013年に改正した。労働組合が改正を求めた項目は10項目あったが、2013年に改正出来たのはわずか3~4項目に過ぎなかった。労働組合はSKOPを中心に、新たな改正を求めて運動を展開している。
 2006年の時点では、一般の労働法とは別に輸出加工区労働法EPZ(Export Processing Zone)という独立した法が存在し、その法律によりEPZ内における労働組合の結成は禁止されていた。EPZ以外の縫製企業においては、労働組合の設立は、基本的に自由であった。2013年の改正後は、労働組合は更に改正を行ないEPZにおいても労働組合結成の自由を認めるよう提案を行なっている。法律としてまだ議会を通過していないので、今後も要求を続けていく。現在、EPZを特定する法律は残っていないが、実態上は以前と変わらない。