2015年 中国の労働事情

2015年10月15日 講演録

中華全国総工会(ACFTU)
ホワン ロン (黄 龍)

法律工作部労働争議処理処処長
チョウ シン (趙 欣)
国際連絡部訓練処副処長

 

I 中国の社会・経済・雇用情勢

1.経済発展著しい中国・GDP世界第2位へ

 中国では1978年より改革・開放が進められ、GDPの規模は右肩上がりに推移を続け、2014年にはその規模が10兆ドル(約1189兆円)を突破し、ついに世界第2位の地位にまで上りつめた。
 こうした経済発展に伴い、さまざまな成果がもたらされた。その主な内容は、国民の生活水準の向上、都市化の進展、貧困率の大幅な低下、ならびに高等(ハイレベルな)教育の普及率の高まりなどである。

 

2.経済発展に伴い様々な問題も浮上

(1) 経済発展の構造的矛盾・社会発展の不均衡・経済成長の減速

 経済発展という輝かしい成果の一方で、様々な問題も浮上している。なによりも国全体としてGDPが10兆ドル(約1189兆円)を超えたとはいえ、13億人という大人口であり、その1人当たりの換算でみればいまだ所得水準に課題があり、発展途上国としての位置づけの認識を持たなければならない。
 また、2008年にはリーマンショックがあり、世界が不況に見舞われる中、中国経済もその例外ではなかったことや、それにもまして、構造的な矛盾や、発展のアンバランス問題が顕在化してきていることが指摘できる。例えばその主要な内容は、中国の東部、西部、ならびに都市部、農村部での地域間の格差問題の浮上だといえる。こうした問題をはらみながら、2008年以降、経済成長率は下落傾向にあり、直近の2010年から2014年の間のGDP成長率は、2桁成長から1桁成長へと右肩下がりに推移している。昨年(2014年)には成長率は実に7.4%にまで下落し、この傾向は依然続いている。
 小売り消費の状況も、固定資産投資の状況も、グラフにあるように下落傾向にある。(2010~2014年)また、輸入および輸出の伸び率も下落傾向にあることに変わりはない。

(2)経済発展に対応しきれぬ労働情勢

 著しい経済発展の流れは、否応なく労働市場、雇用市場にも影響を及ぼしてきた。毎年、大学を卒業するなどして新たな労働者が供給されているものの、80年代からとられた人口抑制策の影響などもあり、日本のみならず中国でも高齢化の進展がみられ、その結果求人ニーズが供給を上回り、求人倍率1.1倍という数字となって現われている。また、経済発展に対応しきれぬ労働情勢の中、雇用の多様化が進み、非正規労働者の増加など新たな状況が生まれている。こうした情勢の中で各産業への影響も懸念される。例えば、各産業に必要とされている人材は、単に人数の供給にとどまらず、その産業のレベルアップに資する能力も求められている。しかし、現状でそうした要求に応えられるスキルを持った人材の供給体制はできていない。
 さらに、非正規労働者との間での労働争議が増加しているという新たな課題も抱えながら、紛争解決への努力と労使関係の良好な関係を築いていくことも喫緊の課題である。現状、中国における労働争議の多い分野は、建設業、サービス業、製造業などであり、また、労働争議が発生する要因は、給与面の問題、社会保障面の問題、あるいは労災への賠償などが挙げられる。
 中国が経済発展に伴って直面する、こうしたさまざまな問題課題に真摯に取り組んでいくことが、労働分野の各セクターに求められている。

(3)中華全国総工会(ACFTU)の最優先課題は「労働者の権利保護」

 ナショナルセンターである中華総工会(ACFTU)は、こうした問題課題に対する責任セクターのひとつとして、2つの点に注力していくつもりである。ひとつは、新たな形態の労働者を労働組合のメンバーとするべく、その加入推進を図ることにある。もうひとつは、企業労組や地方の末端にある労組の、新たな状況下で直面する課題への対応策を指導することにある。
 こうした2つの取り組みを通じて成し遂げようとする狙いは、「労働者の権利の保護が最優先」ということである。しかも、最も権利を守らなければならない対象として、いわゆる農民工および派遣労働者など非正規労働者をそのターゲットと考えている。具体的な対応策は以下のキャンペーンなど諸策である。

[1]「思いやり」キャンペーン ~生活困難者を支援~
 「思いやり」キャンペーンは、総工会として最も重視しているキャンペーンである。これが生まれる背景として、中国で90年代から大幅に進められた国有企業改革で行われたレイオフがある。仕事を失い生活が困難になる労働者が多く生まれ、その対応として、94年からキャンペーンをスタートし、支援を行っている。
 具体的な内容としては、資金面でのバックアップもあるが、それ以外にも雇用支援や職業訓練を実施し、再雇用を推進するというものである。1994年から20年余りこのキャンペーンを展開し、これを通じて再就職した労働者はすでに100万人以上となっている。現在では、中国社会全体として救済する体制、システムの一環となって機能している。

[2]「ゴールデンオータム」キャンペーン ~生活資金援助が主軸~
 「ゴールデンオータム」キャンペーンは、あまり裕福ではない家庭の子供の大学進学などに際し、経済的負担の軽減策として生活資金援助を行うものである。これには無償のもの、ならびに有償ながら極めて低い金利で奨学金として出す形がとられている。このキャンペーンは2005年からスタートし、すでに10年ほど行われている。

[3]「サンシャインエンプロイメント」キャンペーン ~大卒者への事前の就労支援~
 「サンシャインエンプロイメント」キャンペーンは、2009年からスタートしたもので、国の教育部と共同で実施している。大学卒業予定者を対象に、厳しい労働市場への対応力を養うことを狙いに、トレーニングや労働政策面でのレクチャー、法律面のカリキュラムの提供を行っている。これにより、大学の果たす役割と人材を必要とする社会とをうまく結びつける役割を果たすものとなっている。

[4] 「女性保護」キャンペーン ~産後の授乳部屋確保などを実現~
 中国における男女平等の取り組みは比較的評価の高い状況にあるが、「女性保護」キャンペーンは、2012年に施行された「女性労働者特殊保護条例」などにより、より一層の女性労働者の権利保護を実現している。また、地方においては、女性労働者委員会の設置が義務付けられ、この委員会によって女性労働者の権利をさらに適切に保護できるようになってきている。例えば、このキャンペーンの活動を通じ、女性労働者で出産したばかりの母親の授乳部屋の確保や、適切な休みをとることができるスペースの確保が図られている。

[5] 法的支援サービス ~生活困難な労働者への法的バックアップ~
 総工会は、各地、省、市などに、生活困難な労働者に対する支援センターを設置し、労働者への法的支援を行っている。例えば、労働者が法律に関する問題や労働法に関連する問題に直面した場合や、労働争議の調停の道を考えている場合などに、このサービスの提供を行うことで大いなる役割を果たしている。

I 中国の労働争議の現状と中華全国総工会(ACFTU)としての対応策

1.中国の労働争議の現状とその特徴 ~高止まりの様相を呈する労働紛争~

 近年、中国では、市場経済体制の発展に伴い労働環境も多元的で複雑化の様相を呈している。労使関係は不安定な状態に陥り、労働紛争、特に集団的な労働紛争が増加の一途をたどっており、社会の調和や安定に非常に悪い影響を及ぼしている。
 その全体的な状況・特徴は以下の4点に示す通りである。
 まず、最初の特徴は、労働争議の案件数が高い水準で推移しているということである。この状況は、今後も依然として続発し顕在的になることが予想される。現に2012年から2014年まで、全国各レベルの労働紛争仲裁機構などでの紛争処理件数は、約151万件(2012年)、約150万件(2013年)、そして約156万件(2014年)となっており、高止まりの確かな証拠を示しているといえる。
 第2の特徴は、紛争が東部の沿岸部に比較的集中していること、また、経済が非常に進んでいる地域に集中していること、さらには、民営企業に比較的集中しているということなどである。
 第3の特徴は、経済的利益(賃金の問題あるいは賠償金あるいは社会保険)が主要な問題点となり、これに関する争議が多いということである。
 第4の特徴は、集団紛争、集団化の様相を呈しているということである。経済の構造調整の過程の中で、多くの企業が組織の再編を行ってきているが、そうした経過に伴い、たびたび労働者の利益が侵害され、労使間の対立が激化し紛争へと発展・多発という結果に至っている。

2.労働組合が直面する問題・課題 ~求められる労働組合自身の解決能力の向上~

 労働争議のハンドリングをその役割とする労働組合の目線から、いまどのような問題、課題に直面しているのか、改めて以下4点に整理する。
 まず第1に、雇用者側(経営者側)が労働法規を遵守せず、労働者の合法的権利を侵害することによって、大量の労働争議が発生しているという点である。
 第2に、政府の関係部門による法律の執行能力が十分ではなく、労働争議の解決にかかるコストが非常に高い点である。労働争議の解決手続は非常に煩雑であり、周期も非常に長く、弱い立場の労働者にとって大いなるデメリットとなっている。
 第3に、労働者自身が理性的に自分自身の権利を守る遵法意識や、できるだけ労働争議を解決していこうとする意識があまり高くないという点である。こうした意識の改善・改革に向けた取り組みが急がれる。
 第4に、労働組合自身が法の考え方、法治の方法を用いて労働争議を解決していく上で、いささか能力が不足している点である。また、一部の企業、とりわけ民間企業の中に、いまだ労働組合が組織されていない場合や、組織されたが経験が十分ではない労働組合の場合、適切に労働者の権利を守れていない実態がある。こうしたグレーゾーンの解消を目指さなければならない。

3.労働争議対策の具体例と予防システムの構築 ~紛争解決に欠かせない法への意識強化~

 中国で発生した労働争議の具体例を紹介し、そこから導き出される解決策について触れておきたい。
 昨年の3月、ある大手多国籍小売企業は、1カ月前に通知しなければならないというルールがあるにもかかわらず、これを無視して中国にある支店店舗の突然の閉店を通知してきた。これに対し労働組合は、組合員・従業員の知る権利を侵害した違法な閉鎖だとして、団体交渉による経済的な賠償の支払いを求めた。しかし、経営者側(支店側)は、労働組合の要求を真っ向から拒否する対応に出た。そこで組合員・従業員は、労働組合のもとで権利の保護を主張し、一方で労働組合は紛争解決を図るため、地元の省や市への積極的な働きかけを敢行した。その結果、最終的には法の枠組みの中で双方の合意が成立し、紛争は解決されるところとなった。
 こうした紛争解決の経験を活かす観点から、取り組み対策として以下3点のシステム化・制度化を提起しておきたい。こうしたシステムを通じ、労働者の合法的権利を適切に守り、バランスのとれた労使関係の醸成を促していきたいと考えている。
 第1に、労働争議を予防する健全な制度・システムを構築することである。これにより、労使の対立を芽の段階で摘むことを目指している。そして、積極的に法への知識の啓発活動や教育活動を行い、予防制度の整備も図り、当事者(企業経営者や労働者自身)に法への意識強化を促していきたい。また、企業側には社会的責任の認識を持たせるよう促していきたい。さらに、重大な労働違反等が発生した場合、直ちにそのことが公表され、社会的非難にさらされるような仕組みを制度の中に反映させていきたい。
 第2に、調和のとれた安定的な労使関係の確保に向け、労働法のエンフォースメント(執行)を高めるとともに、労働争議に対する協議や調停といったシステムの強化・整備を推進していきたい。
 第3に、労働者に対するタイムリーで効果的な法的支援システムの確立を図っていきたい。

III 中国における派遣労働者のおかれた状況と労働組合の取り組み

1.派遣労働者にかかわる法整備の状況 ~法整備に伴い総数が減少へ~

 まず、派遣労働者にまつわる法律の規範化の進捗状況にふれておきたい。中国もこの間、派遣労働とは何かということを明確にするための立法化に力を入れてきた。2007年には『労働契約法』が公布され、その中には派遣労働に関する各章が特別に設けられた。2012年には『労働契約法』の改正が打ち出され、新たに派遣労働者に関する法整備が一段と進められた。そして、直近の2013年12月には、人的資源社会保障省が派遣労働者、労務派遣の暫定的な規定という法律条例を公布し、かなり法的な整備が進んできたといえる。
 こうした法整備により、大きな成果・効果が出てきていることは間違いない。例えば、派遣労働者の全体の人数は、減少のトレンドが続いている。とりわけ、金融、IT、通信などの分野に働く派遣労働者の人数、あるいはその企業における従業員全体の中の派遣労働者の比率が下がっている状況にある。
 また、大多数の企業は非常に協力的で、進んで雇用のあり方(形態)を自ら調整している。規定の中に、企業で雇われている派遣労働者の比率が10%以下でなくてはならないとされており、これを遵守するべく、さまざまに派遣労働者を減らす工夫がなされている。

2.派遣労働に関する現状の問題点 ~法逃れや差別待遇などが浮上~

 一方、法整備などの努力にもかかわらず、派遣労働に関する多くの問題が存在するのもまた事実である。その主要なものは以下の3点である。
 第1に、一部の企業においては、派遣労働者の雇用率を下げるため、外部への業務委託に切り替えて法的責任の回避を図っている。こうした対応は、法から逃れる隠れ蓑として拡大基調にあるが、いわば偽装派遣といえるものであり、派遣労働者への新たな権利の侵害を生み出している。
 第2に、同一労働にもかかわらず同一ではない賃金が依然として見られる。一部の企業において、派遣労働者と正規雇用者間の労働報酬、労働安全衛生、保険、あるいは社会保険、福祉などにおいて差別的な待遇を行っている。
 第3に、こうした中で派遣労働に関する紛争、紛糾、争議が日増しに増えている。賃金の問題ばかりか、休憩のとり方、あるいは休暇の許可の仕方、福利厚生などに起因した問題にまで及んでいる。

3.派遣労働に関わる現状問題への労働組合の取り組み ~重要な派遣先労組の役割発揮~

 労働組合は、派遣労働者のおかれた問題を解決すべく、いくつかの対策を講じてきている。 
 第1に、派遣労働者の労働組合に参加する権利を守る取り組みの実行を図りたいと考えている。多くの派遣労働者が労働組合員になることで、彼らの権利がよりよく保護されるようになることは言うまでもないことである。
 第2に、派遣先企業の労働組合を、問題の解決に最大限活用させることである。例えば、雇用の調整案の制定に雇用側と連携してさまざまな協力をする、あるいは仕事、職場についてどれが派遣労働者のものであるか、そうした定義づけの作業にも企業の労働組合が積極的に関与させることである。
 第3に、もう一つの派遣先労働組合の役割として、派遣労働者にかわって企業と団体交渉を行うことの認識を持ってもらうことである。その結果として、賃金の引き上げ、福利厚生の充実、労働条件の改善など、労働者保護の強化に結びつけていくことが重要である。ナショナルセンターとして、こうした合理的な権利の獲得を支援し、派遣労働者と正規労働者との間の差別の解消に努めたいと考えている。そして、最終的な目標のひとつである、同一労働同一賃金の目標を達成していきたいと考えている。
 第4に、雇用に関して違法な行為があれば速やかにそれを是正し、労働者の権利を守っていくことである。例えば、一部の派遣労働者の派遣元では彼らの社会保険料を十分に納付しない、時間どおりに納付されない、十分な額を納付されていないという問題がある。あるいは、給料自体も支給されない、あるいは十分な金額が支給されていないなどの違法行為がある。こうした場合、労働組合として直ちに企業側に異議を申し立て、是正要求の取り組みを図らなければならない。もし、企業が取り合わないような場合には、法律に基づき労働保障監察部門等に告発し、派遣労働者を代表して労働争議の仲裁あるいは訴訟を請求していくなどの取り組みが図られなければならない。こうした一連の対応がさらに速やかに図られるよう活動を推進していきたい。

*1元=18.72円(2015年10月15日現在)

2015年5月22日 講演録

中華全国総工会(ACFTU)
チャン・ピンチャオ

中華全国総工会(ACFTU) 研究室副主任
ヤン・シーリン
中華全国総工会(ACFTU) 女性職工部副処長
ゾウ・リーミン
中国教科文衛体工会副処長
ドゥ・シン
中華全国総工会(ACFTU) 末端組織建設部幹部
シュ・ル
中華全国総工会(ACFTU) 国際連絡部幹部

 

 中国の労働環境を2014年の統計で示すと、国内総生産(GDP)は63兆6千億人民元(約1278兆9960億円)に達し、GDP成長率は7.4%になった。また都市部の新規就業者数は1322万人で、前年より増加している。国民消費物価(CPI)は2%上昇したが、2013年の2.6%より下がっている。全体的に見れば経済は安定した成長を見せている。また、1人当たりの可処分所得は8%の伸びで、GDPの成長率より上回っており、所得分配は成果を上げている。また、定年退職者の年金水準も10%ほど増加していることや、都市部および農村部の最低生活保障基準もそれぞれ9.97%、14.1%と上昇している。さらに全国19の省と区、市の最低賃金もそれぞれ引き上げられて、社会保障の面でも内容の改善が図られている。例えば、北京市の2014年最低賃金は、月額1560人民元(約3万1372円)で、時給に換算すると1時間16.9人民元(約340円)になる。今年4月1日からは、月額1720人民元(約3万4589円)に引き上げられ、時給に換算すると1時間18.7人民元(約376円)となった。
 次に、今日の就業状況についていくつかの特徴を紹介する。ひとつ目に、都市部の新規就業者数は引き続き増えており、1300万人前後で推移している、これは昨年2014年度とほぼ同じ水準を維持している。2つ目に、労働市場は全体的に需要が供給を上回っており、求人倍率は1.1倍前後で推移している。3つ目には生産年齢人口の比率が下がっていることがあげられる、長期的な人口抑制政策の影響を受けて、労働力の供給は減少傾向にあるためである。4つ目として、解決しなければならない就業問題として、例えば大学を卒業した人や、産業構造の転換によってレイオフになった人たち、農民工の就業状況は切羽詰まった問題となっている。そして5番目の特徴は、就業の質の向上である。古い世代が定年退職し新しい人たちが仕事に就くが、この若い人たちの教育レベルは上がってきている。そしてもう一つは、労働法や『労働契約法』などの法整備が進められてきたことから、労働力の就業の質が高まっているということである。
 次に、労働組合が直面している問題としては、新たな経済情勢と新たな労働状況のもとで、労働者および労使関係に新しい変化が起きている。具体的には、労働者の労働年齢人口が減少し続けていることである。また労働者のスキルを産業構造の調整によって転換しなければならないが、労働者との間にはギャップがあることである。また、異なる労働者グループの間には大きな差が存在しているのも特徴の1つである。さらに、労働者の考え方が多種多様でひとつにまとめることが難しくなっている。
 次に、労使関係については、今のところ全体的には安定している。一方で労使関係の対立や矛盾は依然として際立っており、労働争議も多発し、時には集団争議も発生している。特に、製造業、建築業、サービス業での労働争議発生率が高くなっており、往々にして農民工や派遣労働者の間で発生している。労働者が求めているものは、主に賃金や社会保険料、経済的な保障などであり、労働組合として深く研究・把握し、対応しなければならない問題と考えている。
 また、労働組合の取り組みでは、末端組合の結成について、手がつかないところもある。例えば多くの零細企業や新しいタイプの社会組織、民間の非企業団体などでは、労働組合に加入していないところが多数存在している。また、単組の活動に対する上級労働組合の指導も、まだ不十分である。例えば上級の指導機関として、集団契約や賃金集団交渉、また、企業の民主的管理などに関する立法や制度の構築において、単組の切迫したニーズを十分に満たしていない状況にある。
 労働組合の取り組みで最も重要なことは、労働者の権益保護に力点を置くことである。目標としては、憲法と労働法などの法律法規を根拠に、フロントラインの労働者、農民工、派遣労働者、困窮労働者などを中心に、就業労働、技能訓練、所得分配、社会保障、安全衛生、女性労働者の特殊権益などを重点に活動していくことである。また、政府と組合の連絡会議や労働関係協調のための三者協議体制、集団協議制度、労働者代表大会などのチャンネルやルートを通じて、労働者の声を集め、改善意見を提出し、問題の解決につなげていくことである。2つ目に、労働者のためのサービスをより改善していくことである。政府が進めている公共サービスの一部の機能移管や、外部委託なども積極的に生かして、労働者のためにサービスを提供していくことである。そして、貧困労働者(課題を持っている労働者)の支援活動を国全体の社会支援体制に組み入れていくことである。3点目は、農民工、いわゆる出稼ぎ労働者の権益保護である。同一労働同一賃金、さらに同一権利を基本とする公共サービスを普及していくことである。4番目は、調和のとれた労使関係の構築であり、法律に基づいた賃金の団体交渉を普及していくことである。また労働者代表大会を企業の中に定着させ、民主的管理制度を作っていくことである。さらに政労使の三者協議体制に積極的に参加して、政府と労働組合の連絡会議制度もどんどん活用していくことが課題解決の対策となる。
 最後に非正規労働者と派遣労働者の問題と労働組合の対策についてである。中国では、前世紀末から21世紀の初めにかけて、国有企業の改革が行われ、多くの労働者がレイオフされた。彼らの再就職や農村から都市に流入した労働者の就職、また企業がより柔軟に労働者を採用したいというニーズもあって、派遣労働者の数が急速に拡大している。しかし、派遣労働者の合法的な権利はなかなか守られない状況が続く中で、正規労働者との間で格差が広がっている。当然、社会各方面から関心が集まり、労働組合も重視している。ACFTUが2012年に実施した全国規模調査の中で、その1つの重要項目が派遣労働者の状況であった。ACFTU研究室が2011年に実施した調査の結果では、派遣労働者の数は約4207万人で、企業で働いている派遣労働者が約3659万人となった。最近改定した『労働契約法』、さらに派遣労働者に関する規定などの実施に伴って、派遣労働者が少し減っていると思われているが、まだ最新の統計データは出ていない。
20の産業分野の内、派遣労働者を雇用している産業は16あり、さらに11の産業では2割以上の企業が派遣労働者を雇用している。例えば金融業、水のインフラ施設、さらに環境・公共施設の管理、情報産業、コンピューター関連、ソフトウエア産業では非常に高い割合で雇用されている。また、電力、ガス、水道関連の産業でも多くの派遣労働者が働いている。
 派遣労働者の構成は非常に複雑になっている。農村から都市部に出稼ぎに来た農民工や、もともと都市で働いていた人、そしてなかなか仕事が見つからない大学の新卒者もいる。派遣労働者の共通の特徴として年齢が若く、教育水準と技術能力が比較的低い人たちであり、そのレベルは正規労働者に比べ大きく下回っている。
 派遣労働者が直面している主な問題として、安定した仕事に就けないことは共通している。また契約の短期化が進んでおり、雇用側は、いつでも勝手に労働契約を解除することである。2番目は派遣労働者の賃金が低いことである。賃金の上昇ペースも非常に遅い。さらに残業代についても、満額受け取れない問題が多発している。3番目は、労働安全衛生の面でも権益が保障されていないことである。派遣労働者が就く仕事は、非常にきつい肉体労働、汚い仕事、危険な仕事が多く、安全面の保護措置も十分にとられていない。4番目は、派遣労働者の組織化の問題である。多くの派遣労働者は労働組合に加入していないために、労働組合からの支援を受けるのが難しい状況にある。そして、企業内部においても経営などの管理に参加できることはほとんどない。5番目の問題は、派遣労働者のキャリアアップの機会がほとんどないことである。
 この派遣労働者の問題を解決するための労働組合の課題は、労働組合の役員と派遣労働者の連絡、意思疎通が十分に図られていないことである。2番目に、労働組合の加入についても、派遣元と派遣先のお互いの職責と役割がはっきりしないため、どちらの労働組合に加入してもらうか、責任を押しつけあっている状況にある。また、派遣労働者自身も労働組合に加入すれば自分たちの権利が守られるという認識が不十分である。3番目は、現在の規定の中で派遣労働者を使える業種としては、補助的な仕事、また臨時的な仕事、代替できる仕事となっているが、規定は非常にあいまいでこのルールは守られていない。派遣先の企業も規定がわかっていながら、その隙間を利用して派遣労働者を雇用している。4番目は法律をかいくぐって派遣労働者を雇用している問題である。例えばアウトソーシングで下請させる形で、企業の責任を下請企業に転嫁するような問題も起きている。そして、規定では長期に雇用する場合は、半分正規にすることとなっているが、派遣元の会社は定期的に派遣先の間で異動させることで、長期にならないようにするという不正も起きている。
 最後に労働組合の対策について、派遣労働者の問題を解決するためには、まず法律の整備が重要である。そして『労働契約法』、『派遣労働規定』などの法律ルールの実施を徹底しなければならない。例えば政府との連絡会議、また、政労使の三者協議制度、そして、団体交渉制度、労働者代表大会など、さまざまなルートを通じてこの問題に取り組むことである。2番目には、何としても派遣労働者の組織化である。できるだけ多くの派遣労働者を労働組合に取り込むことで、労働組合の枠組みの中で彼らの利益、権利を守り、サービスを提供していくことである。3番目は政労使三者で、派遣労働契約のモデルケースをつくることである。根本は派遣労働者も同一労働同一賃金であることを明確にしなければならない。4番目は、国営大手企業の労働雇用制度の改革である。
最後に、労働組合の強みを生かして、派遣労働者に関連する法律法規の啓蒙、啓発活動を展開していくことである。派遣労働者の権利意識、法律意識を強くして、自分の権利を守ろうとする意識を高めていくことが重要である。

*1人民元=20.11円(2015年8月6日現在)