2016年 モロッコの労働事情

2016年11月11日講演録

モロッコ労働組合(UMT)
ムスタファ・エル・ムーメン
モロッコ貿易銀行労働組合 書記長
ワーイル・ブーヌ
モロッコ商工銀行労働組合 ナショナルコーディネーター

 

1. 当該国の労働情勢(全般)

  2014年 2015年 2016年(見通し)
実質GDP(%)
(出典元)
2.6%
(高等計画委員会)
4.5%
(高等計画委員会)
1.7%
(高等計画委員会)
物価上昇率(%)
(出典元)
0.4%
(高等計画委員会)
1.6%
(高等計画委員会)
1.5%
(高等計画委員会)
最低賃金
(出典元)
□時間(12.85)
□日額(94.23)
□月額(2454.00)
モロッコ・ディルハム
(省令)
□時間(13.11)
□日額(96.14)
□月額(2500.00)
モロッコ・ディルハム
(省令)
□時間(13.11)
□日額(96.14)
□月額(2500.00)
モロッコ・ディルハム
(省令)
労使紛争件数
(出典元)
1,751件
(労働省)
1,575件
(労働省)
不明
   (労働省)
法定労働時間
(出典元)
8時間/日
(労働法)
44時間/週
(労働法)
時間外/割増率
25%~50%
(労働法)
休日/割増率
100%
(労働法)

*物価上昇率は、政府が上昇を抑える措置を講じている。
*最低賃金は、三者構成の社会対話によって確定する。
*労使紛争件数は、集団労使紛争の数字。
 なお、以前はストライキを行っている期間の賃金は差し引かれることはなかったが、2013年以降法律の解釈が変わり、ストライキを行っている期間の賃金は差し引くことになったため、ストライキの件数が毎年減少している。

 インフォーマル労働や不安定雇用、非正規労働は脆弱な状態を固定化し、当事者は最低限の基本的な権利も奪われている。使用者側はこのような形態の労働が失業の減少を促すと考えている。しかし、UMTはこの労働形態はあらゆる国際的な基準に反するものであり、労働者の最低限の権利に打撃を与えるものだと考えている。さらにこの種の労働の脆弱性を助長する要因として、労働組合に組織することができないという点がある。
 また、世界的な経済危機がモロッコにも深刻な影響を及ぼす中で、企業がアウトソーシングを行う形態が広がっている。例えば、銀行では、機器や現金の搬送、警備など、銀行業務に直接関係のないことは外部に委託している。
 また、職務経験のない若者が初めて労働に従事しようとした場合、労働市場側は職務経験を求めるため、就職が難しくなっている。そのため、若者が就職できるよう、政府が使用者側との間で定めたシステムとして試用期間を設けて、18ヵ月間、社会保障も健康保険もない状態で働かせ、その後、正社員として採用する制度ができた。UMTとしては、この制度は小さな中小企業を助けるための制度であって、大企業には必要ないとして問題視している。

2.労働組合が現在直面している課題

 現在UMTは、政府による一連の「改革」に対する挑戦を試みている。政府の改革政策は我々の闘争と犠牲によって獲得された権利に抵触するものである。
 例えば、『定年改革法』や我々が「呪われた三位一体改革」と呼んでいる天引きの増額(給与の減額)、定年年齢の引き上げ、年金の減額などの政策があり、この改革の対象になる被雇用者は、改革の各側面において苦難に直面している。UMTは、闘争的な手段や上院(参議院)を通じての手段によって、この政策に対して挑戦を試みている。
 また、『スト組織法』(内部では『スト制限法』と呼称)の問題もある。ストライキは憲法に謳われた権利である。しかし法案には、労働者が権利を守るために唯一有する圧力の手段としてのストライキの要件をすべて喪失させるような手続きが謳われている。UMTは、ストライキの権利は憲法に謳われた取引の余地のない権利であると考えており、スト権の規制について考える前に労働法を適用するよう訴えている。

3.その課題解決に向け、労働組合としてどのように取り組もうとしているのか

 UMTは、これらの課題を克服するため政府との対話を求めているが、実現しないため、いくつかの戦線活動を展開している。 
第1の戦線: 闘争戦線。UMTは大衆による独立の組合であり、意思決定は民主的な方法で行われ、その力の源泉は様々な構成組織や組合員による闘争である。     
第2の戦線: 組合運動の直面する課題に取り組むため、UMT以外の組合と連携すること。
第3の戦線: 国家機関への関与。UMTは国家機関の役割を確信しており、労働階級の期待する成果を獲得するため、国家機関において活発に活動している。最も重要な機関は上院(参議院)であり、同院の内部における UMT出身議員の活動の効果については衆目の一致するところである。現在、労働組合から参議院に選出されている議員20名のうちUMT出身議員は7名である。また、国家経済社会評議会にもUMT出身委員が活動を展開している。     
第4の戦線: 社会対話の戦線。現在、機能していないが、UMTは、対話とその制度の役割を確信している。

4.その他

 世界全体で知られているように、労働者の権利に関しては現在、大きく後退している。その根本的な原因は、各国の経済体制や政府の自由主義的な政策に帰するものであり、強者 が弱者の権利を食いものにするという状態が、何の介入も法律による規制もないままに放置 されている。したがって、世界の労働組合運動にとっての大きな課題は、相互に連携して、広範な影響力を有する世界的な企業に立ち向かうべく集団的な行動をとることである。世界的な企業では、自らで法を超越した存在とみなし、弱い国々に対して影響力を行使し、それらの国々は企業の欲するところに甘んじて従っている。そして、国民である労働者の権利は忘れ去られている。

*1モロッコ・ディルハム=11.3599円(2017年2月1日現在)