2015年 エジプトの労働事情

2015年12月4日講演録

独立エジプト労働組合総連盟(EFITU)
バセム・アーメド・モハメド・アーメド(Mr.Bassem Ahmed Mohamed Ahmed)

エジプト観光産業労働組合委員長兼EFITU事務局長

へバタラ・マムド・マムド・シェタ(Ms.Hebatalla Mahmoud Mahmoud Sheta)
エジプト観光産業労働組合広報・情報局兼女性委員会委員

 

1.エジプトにおけるナショナルセンター結成の背景と組織実態について

(1)独立エジプト労働組合総連盟(EFITU)の結成に至る背景
 エジプトはアラブ世界最大の国であり、人口は9000万人(注1)を超え、労働者数も2700万人(注2)を超えている。しかし残念なことに、このうち労働組合に加盟しているのは500万人に過ぎないのが実態である。この組合員を束ねる独立エジプト労働組合総連盟(EFITU)がどのようにして今日の存在に至ったか、その背景に触れておく。
 エジプトでは、政権に忠実な労働組合によって、過去40年間にわたり労働者の労働組合への強制的加入が行われてきた。エジプト政府はILO第87号条約(結社の自由及び団結権保護)、第98号条約(団結権及び団体交渉権)を批准しているにもかかわらず、こうした国際条約に違反する実態を黙認してきた。これに対する多くの労働者の怒りは、全国規模のデモなどを巻き起こし、この行動が2011年のエジプト革命(アラブの春)につながっていく。この革命の成就を通じ、エジプト政府は87号条約、98号条約を認めるところとなった。
 これを契機に87の独立した労働組合が結成され、それが独立エジプト労働組合総連盟(EFITU)という組織を形づくることになった。2011年10月の結成当時、加盟組織数は321組合、組合員数は120万人に上った。
(注1、2):統計上は注1が8000万人余り、注2が2400万人余りだが発言者の数字を掲載した。

(2)EFITU結成以降の組織実態
 一方政府は、こうした独立系労働組合の活動を組織立てる法律を制定せず、そのためEFITUは労働組合費の徴収を図ることができなくなり、組織の力が弱まるという結果を招いた。例えば本部建物の賃借料、専従書記を雇う人件費、地方への移動費用など、あらゆる費用を事欠くこととなり、組織からの脱退者も増え、120万人の組合員数が80万人にまで減るという深刻な事態となった。また、脱退した人々がそれぞれ4つの組織を形成していくという動きにもなっていった。
 そこで、EFITUはその存在を国際的に公に認めてもらうよう、ITUCへの加盟(財政難の折80万人の組合員数を30万人という登録数)を図った。こうして対立の構図が解けぬまま、政府は、その後の独立労働組合が打つストライキなどから、騒乱を引き起こす悪い組織という見方をしている。一方、ILOはエジプト政府に対し、独立労働組合を社会対話に参加させるよう圧力をかけている。

(3)EFITUの取り組み成果
 そうした状況にはあるものの、EFITUは幾つかの成果をもたらしている。1つは、国民社会対話評議会への参加、そして最低賃金法にかかわる協議に参加したことである。2つ目には、新しい労働法や労働関係調整法の制定という成果である。3つ目には、最低賃金を従来の600エジプトポンド(約8592円)から1200エジプトポンド(約1万7184円)の引き上げに成功したことである。そして4つ目には、エジプト政府がこの最低賃金を公務員にも適用するとしたことである。

2.EFITUが現在直面している課題について

 現在EFITUは幾つかの重要な課題に直面している。その1つは、有期雇用の正規雇用への転換という課題であり、2つ目には、労働組合活動、独立労働組合に参加したことを理由に解雇された労働者の復職という課題であり、3つ目には、代議員、国民議会における新しい労働法の成立、可決という課題であり、4つ目には、労働組合活動の自由に関する法律づくりの課題であり、5つ目には、最低賃金を公共部門であれ民間部門であれ、さらに引き上げていくという課題であり、そして最後6つ目には、労働者に対する民間企業の利益配当を1年間10%の義務づけを図る課題である。以上6つの課題の解決に努めなければならない。

3.その課題に向けてどのように取り組もうとしているのか

 EFITUは、課題解決に向けたさまざまなワークショップや研修プログラムを開催し、労働者に対して労働組合運動のあり方、労働組合の結成の仕方などにかかわる訓練を施し、交渉力をもって使用者との団体交渉に臨ませ、解決へ導く取り組みを行っている。また、新しい労働法の制定や、民営部門の労働者の最低賃金設定に向けて、労働省及び実業家との社会的対話に参加している。さらに、ILO第87号条約(結社の自由及び団結権保護)、第98号条約(団結権及び団体交渉権)に基づく、新しい労働組合組織法の制定に向け、政府及び使用者団体との社会的対話にも参加している。
 かつてエジプトの人民議会には、労働者及び農民の代表が50%の議席を保有していたが、現状はそうした存在はない。EFITUは政策実現を目指し、選挙に18人の候補者を送り出したが、残念ながら財政的な能力その他の限界によって、1人も当選させることができなかった。現在、当選議員たちを通じ労働委員会などでEFITUの要望が実現できるよう働きかけをしている。これも課題解決のための一つの取り組みとなっている。

*1エジプトポンド=14.32円(2016年2月24日現在)