2003年 ケニアの労働事情

2003年6月18日 講演録

ケニア労働組合中央組織(COTUK)
ターヴィル トム オココ

ケニアジャーナリスト労働組合 委員長

 

国内の状況

 ケニアはアフリカの東部地方にあります。1963年の英国から独立以来、ずっと平和な国でした。軍事政権ではなく、文民政権でした。
次に、政治的な状況、及び社会的な状況についてお話しいたします。
ケニアは、独立闘争の当時、非常に強力な労働運動があり、それから多くの利益を得たアフリカの国の1つです。労働運動は非常に強力な運動でした。というのは、時とともに国に5変化が起こり、政治家たちが労働組合運動を乗っ取ってしまいました。最初は労働組合運動は非常に強力な国の組織でしたが、政治家たちのほうが力が強くなって、労働組合運動が。わきに押しやられてしまったということです。
この状況によって、労働組合運動は大きな影響を受けました。中でも三者主義が大きな影響を受けました。その結果として、現在の政治、経済、社会状況があるわけですが、現在の社会、経済、政治状況の中で大きく起こっていることは、労働者の不穏状態、非常に劣悪な労働条件、労働者の欲求不満の高まり、労働者の搾取等が、洪水のように国を襲っているということです。政治の介入により労働法が弱体化されました。
政治の介入の例について1つお話をしたいと思います。今年の1月の初めに、労働者が輸出加工区においてストを行いました。この輸出加工区において生産していたものは、繊維製品で、これは米国への輸出用です。この輸出は、クリントン大統領がやめる前につくったAGOA(アフリカ成長発展機会法)のもとに輸出されることになったものです。このAGOAですが、これはごく最近の考えですし、また輸出加工区という考えもそんなに古いものではありません。輸出加工区が設立されたころですが、政治家が経営者のほうに妥協しました。そしてその妥協の結果、人々が得た印象は、この輸出加工区においては、(アメリカの労働法でなく)国の労働法を特に守る必要はない。つまり労働者の組織権などは認める必要はない、労働安全衛生の監査も受ける必要がない、労働者の健康チェックもする必要はないという印象を得てしまったわけです。この当時の政治家は腐敗していました。ですから、こういうことをしなくてもいい。という印象を経営者に与えてしまったのです。
今年の1月に政治上の変化が起こりました。その結果労働者は、輸出加工区においても、労働者が解放されたという印象を持ってしまいました。解放されると思った労働者は、いわば、今にも爆発しそうな爆弾のようなものであったのですが、実際に爆発してしまい、それでストが起こったということです。政府は大変困ったことになり、COTUKに頼んで、この状況を静めるために何とか助けてくださいと呼びかけてきました。なぜかというと、このような騒乱状態があると、AGOAのもとで与えられた成長・発展の機会が失われるのではないかと危惧したからです。
何年にもわたって、労働組合の指導者・支配層の中で、相互の不信がありました。その結果、多くの今まで強力だった労働法が撤廃されたり、労働運動を弱体化させるために、労働法の力を薄めるということが起こりました。政治家は、労働組合の指導者は、支配層に反対させるよう大衆を操作するものではないかという危惧を抱いて、労働運動の指導者たちに常に疑いの目を向けていたのです。なぜこういう考えを抱いたかというと、ケニアでは、労働運動の指導者というのは、独立前から非常に強力な人たちで、この人たちが政治家でもあり、そして独立をもたらした立役者でもあったからです。
政治的な介入の結果、労働法が弱体化されました。その例を1つ申し上げます。これは1994年の修正財政法です。これは、財政省がつくった法律ですが、この法律が修正された結果、経営者たちは、思いのままに労働者を雇ったり解雇したりする権利を得ました。この法律は、労働者の労働倫理、産業衛生、安全、労働者と経営者の相互の代表権等々の上に利益の価値を置く修正でした。その法律は、労使紛争の解決のための紛争処理規定がありませんでした。この法律は、労働基準や、労働環境における労働者の道徳的な行いというようなものよりも、とにかく利益を強調するような修正法でした。それとともに、もう1つの問題は、労働裁判所には1人しか判事がいないということです。そのために労使紛争が起こると、大変長期にわたって争われる、つまりなかなか解決ができない、未解決のままで終わってしまうという状況があります。
経済の停滞と失業について申し上げます。ここ12年間ケニアでは、経済成長が年率2%以下というみじめな成長が続いています。その結果、景気が落ち込み、経済生産性が低下し、労働市場も縮小されています。このような経済の停滞状況の結果、人員整理が行われ、失業率が非常に高くなっています。日本では5%で高いと言われましたが、ケニアでは約3,100万人の人口ですが、その失業率は60%になっています。
これらの問題に加えて、またもう1つの問題は意識の問題です。特に多くの経営者の意識、態度があまりよくないということです。多くの経営者たちは労働組合は非常に荒々しくて、好戦的な、上品さのない指導者によって率いられた、非常に不平不満の多い、あまりまとまりのない組織であって、その中にいる人々も規則を守らないという印象を持っています。
一方、労働者のほうも、情報不足の結果、労働者の中の特に専門職の人たちは労働組合を見下しています。このような状況があるので、多くの経営者たちは、CBA(団体交渉協約、RA(認定協定)等を無視している)という問題があります。
経営者にとって労働組合は、ただ高くつくばかりで、何にもいいところがない団体であって、その指導者たちは労働者を煽動してストをさせるだけだという印象を持っています。
そういう悪い状況ですが、ちょうど私が国を出るときに、新しい委員会が次のような発表を行いました。8月までに新しい法律の案を議会に提出する、そして、今年度末までに新しい労働法ができるであろうという発表です。この労働法の目的は、三者主義を強化する、労働者の権利を強化する、労使関係をよりよいものにする、労働裁判所の機能をもっと効果的にするというものです。ですから、こういうことを皆さんにお伝えできるのは大変うれしく思います。
経済成長率ですが、今年度末までに2%になるであろうと考えています。このような状況の中で、今、組合にとって残っている問題は、いかにして未組織の人たちを組織化するかということです。