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No.486(2018/1/10)
アメリカ・カナダの労働事情

【ハーバード大学、大学院生の労働組合結成選挙やり直し】
 全国労働関係委員会(NLRB)はハーバード大学における大学院生の労働組合結成について選挙のやり直しを命じた。

 同大学では2016年11月に助教授や、助手などを務める大学院生による労働組合結成選挙が行われたが、結果は反対多数とされた。しかし大学が提出した該当者名簿には300名が抜け落ちており、地域労働関係委員会はこれを違法として選挙の無効を宣言した。しかし大学はこれに抗議しており、組合結成に反対して上訴の構えである。労働組合に理解を示してよいハーバード大学の姿勢に批判も強い。

【GEが欧米地域で12,000名を削減】
 ゼネラル・エレクトリック(GE)は欧米各地の電力事業部門で12,000名を削減すると発表した。特に欧州で、化石燃料発電が風力や太陽光発電に移行する状況に対応する処置であり、競争会社のシーメンスAGも同様の理由で6,900名の削減を発表している。

 12,000名の削減は欧米の同社従業員295,000名の4%に相当するが、電力事業については18%となる。削減の多くは欧州地域が対象といわれ、2018年には$10億のコスト削減を目指す。
 特に影響を受けると見られるのがフランスのALSTOM社で、GEは2015年に$107億で同社を買収して、主力の天然ガスの発電を補完するために蒸気と核燃料の発電を増強しようとしていた。しかし欧州での現状は風力と太陽光発電の需要が強く、今回の決定となった。

 これに対してスイスやドイツのIGメタル、英国の労働組合が強く反発しているが、スイスでは4,500名従業員の3分の1、ドイツでも16%の従業員が解雇される。1,100名の削減が発表された英国とアイルランドではUNITE労働組合が如何なるレイオフにも反対するとの声明を出した。しかしフランスではALSTOM買収時の協約で解雇はないという。

【カナダ・オンタリオ州で新労働法成立】
 カナダのオンタリオ州で労働法が10数年ぶりに全面改定された。Bill148と呼ばれる法案が労働組合に好意的な与党自由党により提出され、議会を通過した。主要州であるオンタリオ州の動きは全カナダに影響する可能性がある。

 最低賃金$15の実現など60項目にわたる改定に実業界は企業競争力を失うとして不満を強くしているが、労働組合は賃金労働条件の改善と労働者への保護が長期的には消費を拡大し政府補助負担を軽減して、経済発展に資すると歓迎している。オンタリオ州ウインザー大学のケイチャン講師も「多くの労働者が貧困から救われる」と高く評価している。
 主要な改定点は次のとおりである。

  1. 最低賃金は現在の$11.60から2018年1月には$14.00、2019年1月には$15.00へと引き上げる
  2. パートや一時契約などで正規労働者と同じ仕事の場合の賃金を同等とするが、勤務年限、業績部分は除く
  3. 飲食業、18歳以下の学生、狩猟・漁猟のガイドの低賃金にあるものは一般最低賃金に引き上げる
  4. 5年以上会社に勤務する者には年間3週間の有給休暇を与える
  5. 個人的な緊急休暇は現在の50人以上の企業だけでなく、全ての労働者に与えられ、日数は年間10日、有給とする
  6. 緊急休暇取得の場合、使用者は病気の診断書を請求してはならない
  7. 家庭内暴力や性的暴力の被害者、および同様の経験、脅威を受けている者の両親は5日間の有給休暇、17週間の無給休暇を与えられ、雇用は保持される
  8. 子供が死亡した両親は104週間までの無給休暇を与えられる。この規定は今まで子供の死亡が犯罪関連に限られていたものである
  9. シフト労働の場合、48時間以内にキャンセルする時は3時間の賃金を支払う。但し天候に支配される業務は除く
  10. シフト労働で4日を欠く通知の場合、従業員は罰則なしにそれを拒絶できる
  11. 呼び出しを受けた労働者は通常賃金の3時間分を受け取る
  12. 労働法の規定を免れるため、労働者を“独立契約者”として扱う会社は罰金を受ける
  13. 雇用基準法に違反する使用者への罰金を現在の$250、$500、$1,000から$350、$700、$1,500に増額し、その名前を政府が公表する
  14. 労働組合結成の規定を緩和して、20%の従業員の賛成を証明できる労働組合は従業員名簿及びその連絡先の情報を受領できる
  15. 在宅介護および公共サービス労働者、建築部門の労働者、派遣会社経由の労働者の労働組合結成の簡易化を図る
  16. 労働関係法違反の罰金を現行の個人$2,000、組織$25,000からそれぞれ$5,000と$100,000に引き上げる
  17. オンタリオ州の職業健康安全法を改定し、使用者は労働者にハイヒールの使用を強制できないこととする。但し芸能界および広告業界で使用者がパフォーマンスを求めるときはその限りでない。

【NAFTA再交渉でカナダの重点は労働問題】
 NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉が米国・カナダ・メキシコとの間に行われており、第4ラウンドを2017年10月に終了した。
 その間、再交渉に向けたカナダ政府の方針に労働問題重視の姿勢が強く出ており、特に民間最大労働組合であるUNIFOR、ジェリー・ディアス会長の活躍が目立っている。UNIFOR は2013年にカナダ自動車労組と通信・エネルギー・紙労組の合併で誕生した310,000名組織である。

 カナダ自由党政府のジャスティン・トルードー首相は著名であったその父、ピエール・トルードーと並んで最左翼の首相と言われるが、常々、環境問題の重視、性的差別の廃止、先住民の権利を唱え、貿易協定にも先進性を求め、また労働組合を重視しつつ、選挙の際には中道的な自由党を更に左傾化させて労働運動と強く協力した。

 メキシコにおける再交渉第2ラウンドでは、労働者を前にディアス会長はカナダ政府の姿勢を強く代弁して「メキシコ労働者の賃金を高めねばならない。労働条項に大きな変更が無ければカナダは交渉を離脱する」と演説した。

 フリーランド外相への助言者としてカナダ交渉チーム加わったナショナル・センターのカナダ労働会議(CLCー330万人組織)ハッサン・ユセフ会長は「前保守党政権と比べると、昼と夜の違いだ。ジャスティンは労働者と多くの国民に正しいメッセージを送った。保守派や実業界それが理解できたのではないか」と評価する。助言機関にはその他、保守党の弁護士や伝統的に労働組合を支援してきた新民主党(NDP)幹部も加わっている。

 NAFTA再交渉でのカナダの主張は米国とメキシコの労働法の改訂であり、組合費の支払いを従業員の自由意志とする米国の“労働の権利法”の廃止を主張し、またメキシコ賃金の増額も挙げているが、共に両国からの反対が強い。

 カナダ政府の労働問題へのコミットメントは再交渉を難しくさせているが、ハッサン会長とディアス会長は口を揃えて「核となる8つの労働基準の改訂が重要だ。とりわけILO の結社の自由と自分が造っている自動車を買えるメキシコ自動車労働者の賃金を実現しなければならない」と主張する。

 9月にカナダ・オッタワで行われた第3ラウンドでは、米国がメキシコの低賃金と弛緩した労働基準を槍玉に挙げた。
 他方、AFL-CIOワシントン州評議会のドッドソン事務局長は「最近のTPP貿易協定にも児童労働や強制労働廃止の規定があるが、重要なのはその強制的な実行だ。数年前に多くのグアテマラ労働者の死亡事故を問題にして、中米自由貿易協定による調査が行われたが、今年初め、証拠はあるものの証明出来ないとされた」と指摘した。その後、労働基準の実行と実施方法改善のための“労働事務局”の設置が提案された。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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