バックナンバー

No.386(2016/3/22)
イラクで新しい労働法が施行

 イラクでは2月7日に新しい労働法(Iraq Labor Law:「新労働法」)が施行された。これは、旧サダム・フセイン政権下の1987年に制定された旧労働法を全面的に改定したもので、三者構成での論議を経て、昨年末の国会で改正法が成立し、今回の施行に至ったものである。内容は労働契約と労働基準を中心とするもので、国際労働基準の反映に努めるとともに、女性の地位向上を意識したものとなっている。

 旧労働法の改正は、イラク戦争後、2006年の国民投票に基づいて発足した新しい政権の主要な課題の一つであった。イラク政府はILOの協力も受け、改正法案の検討を始めたが、内戦の深刻化やIS(イスラミック・ステート)の攻勢などによる治安の悪化、そして労働側の分立などが進捗を妨げていた。その後、2014年の国民議会選挙(総選挙)を経て成立した現アバーディ政権のもとで、改正法案の策定が進められ、国民議会での成立にこぎ着けたものである。

 新労働法では、1987年の旧労働法で禁止されたストライキ権が復活し、児童労働の排除、移民労働の保護、職場での差別禁止が盛り込まれるとともに、セクハラの禁止も規定された。法案の審議段階での主要な論点の一つは、解雇についての規定であり、大きな論議を経て、法に明記されたやむを得ない理由と手続きのもとで容認されることが規定された。公務労働を対象に含むかどうかも主要な論点であり、原案ではすべての公務関係が対象外であったが、労働側の強い主張を受け、適用除外は「公務員法」(Civil Service Law)の対象者に限定されることとなった。

 今回の新労働法が国際水準の新しい権利の多くを規定できたことの背景には、労働側のこれまでにない結束、ならびに女性の権利拡大を求めるNGOなどとの連携がある。イラクでは、新体制への移行後、いくつもの労働団体が分立したが、2012年、労働法制の改正に向け、主要6団体が連携を確認した。また、ITUC(国際労働組合総連合)をはじめ、インダストリオールなどの国際産別、米国等の支援組織の協力を得て取り組みを強めてきたものである。

 ところで、今回の新労働法は、上述のとおり、労働契約と労働条件を中心とするものであり、労働法制の本格改正の第一歩といえる。今後の焦点は、労働組合法の制定であり、現在、労働社会省において法案の準備が進められている。また、失業保険制度に関する法案も最終段階を迎えており、今年の国会に提出される見込みである。

 なお、新労働法成立の内政面での要因としては、この間の経済成長と統治状況の一定の改善をあげることができる。原油価格の低下以前の2013年までの4年間、イラク経済は平均8.6%の成長を見せた。治安の面では、北部の主要都市モスルではISの占領が続き、中北部ではテロが続発しているものの、北東部や中南部は以前に比べると安定している。昨年12月に行われたバクダッドでの国際見本市は、建設機械、自動車関係をはじめ22社が出展した日本を含め、20カ国・約600社が参加し盛況であった。

 しかし、イラクでは、GDPの約65%を占める原油収入の大幅な下落にともない経済が動揺しており、300万人を超えるといわれる国内難民も抱えている。そのなかで、若年者を中心に失業者が大きく増加しており、新労働法の着実な施行とともに雇用対策の拡充が求められている。日本のODAによる支援も、従来の治安・インフラ以外に拡大し、昨年末にはバクダッド大学で初めての日本語講座が開設されているが、今後は労働、社会分野の支援も期待されている。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
Copyright(C) JILAF All Rights Reserved.