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No.377(2016/2/17)
イランの労働情勢と労働組合の状況

 日本政府は、1月22日、2007年から続いていた日本の対イラン制裁を解除することを決定した。同国の核開発問題をめぐる主要国の合意を踏まえ、国際的な制裁の解除が確認されたことによるものである。日本とイランの間では投資協定への署名、ODAの再開などが予定されている。これに伴い、8千万人に近い人口を持つ市場に向けて、日本企業の事業の活発化が見込まれ、自動車関連などの製造業、石油、天然ガスなどの資源産業等の進出が想定されている。日本のJETRO(日本貿易振興機構)は、昨年11月、これを見越したセミナーをテヘランで開催した。1970年代のように、多くの企業が展開し、多数の労働者を雇用する状況が再現するかはともかく、今後現地に進出する企業はイランの今日の政治情勢や労働問題に向き合うこととなる。
 イランの今日の体制は、1979年のイスラム革命によるもので、最高指導者(現在はアリ・ハメネイ師)のもとに大統領と議会がある「イスラム共和国」である。2005年からのアハマディネジャド前大統領時代は欧米と厳しく対立したが、2013年に就任した現在のロハニ大統領は穏健路線といわれる。2014年の一人当たり国民所得は約4800米ドル(約円)とアジアではタイに近い。しかし、この間の経済制裁により、消費者物価は毎年10~30%程度(2013年は35%)上昇するなど、国民の生活は苦しい状況が続いてきた。労働力人口は約2700万人であり、就業者の約半数が第三次産業で働き、第一次産業は二割弱、第二次産業が三割強である。
 イラン政府が公認する唯一の全国労働団体は、「労働者の家」(英名Workers’ House)である。この組織は、産業や企業ごとに管理職を含む従業員で組織される「イスラム労働評議会」を傘下に持つ。また、ナショナルセンターとして、今日では旧ソ連系等の労働組合の世界センターである「世界労連(WFTU)」と友好関係を持ち、2011年、アテネでの同労連世界大会では副会長の一人に選任されている。イランは、1920年代から労働組合の歴史を持つ国であるが、1979年のイスラム革命では反政府運動への懸念から従来の労働組合は解散を命じられ、その後、「イスラム労働評議会」ならびに全国団体としての「労働者の家」が組織されたという経緯がある。
 一方、イランでは、厳しい情勢のなかで、独立系の労働組合も存続し、活動を続けている。代表的な闘いの例として、テヘラン近郊のバス会社や地方の製糖工場の労働組合などによるものがあり、国際運輸労連(ITF)、国際食品労連(IUF)の支援も得て活動を続けている。活動家に対する嫌がらせ、出頭命令、逮捕などが繰り返され、2005年からのアハマディネジャド大統領時代にはそれが強まったといわれる。これには世界の労働組合からの批判が強まり、2009年には、日本でも、連合、ITF、IUF、EI(教育インターナショナル)の共催による「イランの労働者の正義を実現するグローバル連帯集会」が開かれている。
 イランの労働組合は、今日でも引き続き厳しい状況のもとにある。2015年4月には約2000人の教員の抗議行動が抑圧され逮捕者を出した。同年9月には、11年の刑で服役中のテヘラン塗料組合の指導者が獄死し、また、クルディスタン州の製パン労働組合の代表が逮捕され、9年の刑を言い渡されている。一方、5月には、収監中の二人の労働組合指導者が釈放され注目された。また、「官製」といわれる労働者組織も、ロハニ政権下では、激しいインフレを踏まえ、政府による最低賃金引きあげに不満を表明する姿も見られた。国際的な制裁の解除に伴う今日の新しい状況のなかで、今後イランの労働情勢がどのような動きを見せていくかが注目される。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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