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No.357(2015/11/17)
アルゼンチンの大統領選挙と労働組合

 アルゼンチンでは、11月22日、今年の政治の焦点である大統領選挙の決選投票が行われる。10月25日の第一回投票でトップの得票を得た与党、「正義党」系のダニエル・シオリ候補(ブエノスアイレス州知事)に対して、僅差で二位となった野党、「急進市民連合(急進党)」系のマウリシオ・マクリ候補(ブエノスアイレス市長)が挑戦する。前回は圧勝した「正義党」が追い込まれている背景には、低迷する経済や物価の上昇(2014年・23.9%)などのほか、最大の支持母体であるアルゼンチン労働総同盟(CGT)の分裂状態がある。米国のヘッジファンドに仕掛けられたという昨年の巨額の損失への対応(「テクニカルデフォルト」)も現政権に打撃を与えている。
 今回の大統領選挙は、2011年に再選された「正義党」系の現職・クリスティナ・フェルナンデス氏の任期(4年)終了によるものである。選挙戦に向けて、この7月に9組の大統領・副大統領候補が登録され、8月には予備選挙が行われて、大統領候補は、決選投票を迎える前述の二人に「正義党反政権派」系のセルビオ・マサ候補(下院議員)を加えた三人に絞られた。10月25日の第一回投票では、トップのシオリ候補が、「得票の45%以上」などの当選要件を満たさなかったため上位の二者による決選投票が行われる。
 アルゼンチンの政治は、民族主義で大衆路線の「正義党」と、中間層を基盤とする中道左派の「急進党」による二大政党制である。第二次世界大戦後は、民主政治と独裁政権が交差していたが、フォークランド(マルビナス)諸島をめぐる英国との武力衝突での敗北により、当時の軍事政権が退陣、1983年から民政に移行している。しかし、民政移管後には、経済の状況が悪化し、2001年、「急進党」政権は対外債務の支払停止(「デフォルト」)により行き詰まり、2002年から今日まで「正義党」の政権が続いている。この間、CGTは、内部抗争などを経験しながらも「正義党」を支持してきた。
 労働組合と政権との関係に転機をもたらしたものは、政府の規制改革政策である。グローバル化のなかで、物価と失業率の上昇、インフォーマル経済の拡大が続くことに対して、政府は危機感を強め、経済・社会分野の規制の改革に乗り出した。労働分野では、二大政党の政権は、いずれも正規雇用を前提に、労働者の権利を保障してきた労働法制の改正に向かうようになる。労働組合は、規制緩和が大きく動き出すことへの反発を強めた。
 アルゼンチン労働総同盟(CGT)は、そのなかで、政府との交渉を通じて政策の変更を求める政権派と、ストライキなどを通じてそれを阻止しようとする反政権派に、事実上分裂した。今日でも、両派がそれぞれリーダーを選出している。そのため、2007年、2011年の大統領選では、「正義党」系の二人の候補が立ち、異なる「選挙連合」を形成し(政権系「勝利のための戦線」、反政権系「新たな代案」)、選挙戦を戦った。今回もその構図は同様であるが、野党「急進党」が追い上げていることから、決選投票の結果は予断を許さない状況といわれる。
 労働組合は、GCTならびに左派系のナショナルセンターである「アルゼンチン労働者センター」(CTA・1992年発足)と傘下の組織が、この間、規制緩和に反対する大規模なデモやストライキを行っている。今年に入り、4月、6月と8月に続いて、10月29日にも反政権派によるゼネストが行われたが、これは、大統領選挙も意識したものといわれる。政権側は、正規雇用の促進政策のほか、国民に白物家電のクーポン券を配布するなどして対抗している。今回の選挙は、アルゼンチンの政治と経済、そしてかつて南米最強といわれた労働運動の将来に影響を与えるものといわれ、その動向が注目される。

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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