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No.339(2015/9/8)
最低賃金引き上げやむなし、企業側に受け入れ機運広がる

 日本では2015年の最低賃金が全国平均18円引き上げとなったが、最高額の東京においても907円と1000円を下回っている。アメリカでは昨年から今年にかけて、多くの自治体で最低賃金(時給)を15ドル(約1827円)に引き上げる条例が可決されている。当初、企業の多くが反発していたが、アメリカの労働組合と活動家が最低賃金引き上げ運動を始めて3年半が経過した今、企業側に引き上げ止むなしと機運が広がってきている。
 運動の中心になってきたのはサービス労働組合(SEIU)だが、数千万ドルを投じて「15ドル(約1810円)キャンペーン」を展開した。特にSEIUは、シアトルやロサンゼルス、サンフランシスコといった自由主義的な雰囲気の都市に狙いを定めて、経済的不平等を訴えて賛同を集め、それも最初はホテル労働者を対象にして最低賃金15ドル(約1810円)を実現させた。さらにSEIUは最賃引き上げで恩恵を被った企業や経済が活性化した、シアトルなどの事例をいち早く宣伝して、人員整理と解雇を示唆する企業側を封じた。その間、企業利益が記録を更新する中で賃金は停滞を続けており、景気回復のためには購買力増強を必要と感じる米国民の間に、連邦最低賃金10.10(約1219円)への引き上げに71%が同意する状況ができた。
 他方、企業側についてはハイテク産業とファストフード産業で対応が分かれ、大企業は地方段階での反対活動に積極性を欠き、中小企業でも世論を気にする企業は抵抗を弱めている。
 労働組合と活動家は、こうした亀裂を巧みに活用して、ロサンゼルスではホテルを、ニューヨークではファストフードを最初のターゲットとして、最低賃金15ドル(約1810円)を実現させ、それを起点に全米の最賃引き上げを広げようとしている。
 こうした中で、マクドナルドなどのフランチャイズ店が所属する国際フランチャイズ協会(IFA)は、従来の連邦段階の活動を地方段階に移しながら、ロビー活動や宣伝活動を行っており、「SEIUに組織化されて、ストライキの脅威にさらされる」と訴えている。しかし低賃金問題で矢面に立たされているファストフードでは、経営者の給与が非常に高く、多額の利益を出している一方で、従業員の給与を低く抑え、税金で従業員の生活費を賄わせていると批判されている。ニューヨークでは、公聴会などで経営者の主張がブーイングを浴びるような状況になっており、多くの店が賃上げやむなしの態度に傾きだした。

*1ドル=120.68円(2015年9月3日現在)

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米国フォルクスワーゲン(VW)労働者協議会の実現可能性

 米実業界は、VW経営者がドイツVW労働組合と連携して、ヨーロッパで普及している労働者協議会=ワークカウンシル(WC)設置を計画し、労働組合を排撃するどころか、好意的な発言を行っている点に不満を募らせているが、フォルクスワーゲン労働者協議会(WC)のベルンド・オステルロー議長は、「WCの無い米国工場や米国南部に、VWが投資を続けることはあり得ない」と言明した。
 この点について、アメリカン大学のドイツ労使関係の研究者、ステファン・シルビア教授が米国におけるWCの設置について以下の見解を示した。

【VWのWCはどういうものでどんな権限や影響を持つか】
 WCは一般労働者が職場から選出した代表による機関で、大量レイオフや新工場などの主要な決定について従業員に一定の発言権を与える場だ。1カ所以上の事業所を持つドイツの会社は、それぞれのWCからの代表で構成される総合WCを持つ。VWのようなドイツの多国籍企業は通常3層ないし4層のWCを持つ。EU段階では、EU内の1カ国以上で操業する会社は”情報と協議”の従業員WCの設置が義務付けられており、ヨーロピアン労働者協議会とも呼ばれる。
 VWのようにEU以外でも操業する会社は自主的に世界労働者協議会を設置している。オステルロー氏はVW世界WCおよびドイツWCの議長であり、VW監査役会の一員である。VW・WCは投資の決定に発言権があり、投資を遅延させたりはできるが中止までの権限はない。ただ、VW監査役会の半数は従業員代表が占めており、そこで投資計画も承認されるが、彼ら全員の反対を受けるような事態は会社としてなんとしてでも避けたいところだ。

【米国での労働組合結成について、ドイツのVW労働者とIGメタル労働組合の関与は】
 金属労働組合のIGメタルは、チャタヌガ工場組織化に高い関心を持っている。最近退任したヒューバー前会長とUAWのキング前会長とに強い親交があるからだ。ただ、多くのドイツ労働者は米国労働者に親近感は持ってはいるが、米国での出来事は他人事であり、EUとの自由貿易協定交渉により比較的賃金の低い米国と競合することに危惧を抱くものもいる。

【IGメタルとドイツWCが米国工場への圧力を強めたらどのような論議が起きるか】
 米国の裁判所判例は会社支配の労働組合を排除する労働法に基づいて、労働組合なしには会社は労働者協議会を設置できないとしている。また全国労働関係法では労組承認選挙の再選挙には最低12カ月を必要としている。従ってVWも1年はWCを持つことができない。チャタヌガ工場でWC設置のために単一労働組合を結成することが何度も討議されたが、過半数の賛成が得られるかどうかはわからない状況だ。また仮に労働組合ができたとしても、他のWCメンバーがチャタヌガ代表を受け入れるかどうか分からない。その他に、オステルロー氏も言う州政府による報復の問題が存在する。報復は経営上も良いことではない。現在のチャタヌガ工場の生産は生産能力以下であり、第2の車種の投入が必要だ。同氏も役員会に席を置く以上、会社に責任を持たねばなるまい。

【チャタヌガのケースがドイツ企業や米国海外企業などに連鎖反応を起こすか】
 あるとすれば、チャタヌガでの反対が米国の他のドイツ自動車メーカーにネガティブな先例を残し、協議会を急ぐことはないとさせている事だ。うまくいっている工場になぜ労働組合を急いで作るのか? IGメタルが圧力をかけるかもしれないが、チャタヌガでの失敗がドイツ本国のBMWやダイムラー・ベンツの労働組合そしてWCによる会社説得を難しくさせた。

【UAWが労組結成に成功した場合、米国にドイツ型労使関係が導入できるか】
 米国でドイツ型労使関係を実践することは大変難しい。ドイツでは労働組合がそれぞれの産業で経営者団体と労使交渉を行い、労働者協議会は職場レベルの事柄を取り扱う。ところが、米国では労働組合が個々の企業と労使交渉を行い、産業別に交渉するところは非常に少ない。従って、米国労働組合ないし協議会は、職場レベルと企業レベルで重複してしまい、協議会がうまく機能しない。1990年代にクリントン政権が米国への労働者協議会導入を支援したことがあったが、労使双方からの反対にあった。
 現在のチャタヌガについても、VWはUAWと交わした中立協定の中で、チャタヌガ協議会が正確にドイツ型であるよう求めているが、協議会の権利や規約を定めているのはドイツの法律であり、米国で実践することは至難だ。
 あとは推測になるが、UAWとチャタヌガ協議会が実践の中から、労働組合としてどの程度苦情処理や団体交渉機能を縮小させつつ、協議会と機能分担させてゆくのか。分からない。

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