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No.280(2014/11/27)
米国中間選挙の政策課題、最低賃金

 米国の中間選挙で、野党共和党が上下両院で過半数を確保した。与党民主党が惨敗したことで、オバマ大統領の求心力が一層弱まることは避けられず、2年後に大統領選挙を控えた米政治は混迷を深めることになりかねない。
 民主党候補はファストフード労働者などの生活を守るため、最低賃金7.25ドル(約856円)の引き上げを政策に掲げたが、同時に候補者自身を守る宣伝の匂いが強い。
 民主党は若年層やマイノリティーを選挙に動員するため、5つの州で投票用紙に最低賃金引上げへの賛否を問う質問状を添付することにして、民主党が中間所得層の守り手であり、共和党は雇用削減の怖れがあることを理由に反対する姿を浮き彫りにしようとした。ただし質問状は単なる意見調査であり、強制力はない。
 こうした州のひとつ、イリノイ州の知事選では、現職である民主党のクイン知事が労働組合の支援を受け、質問状による投票者の動員に期待しながら、最低賃金の削減ないし廃止を唱えた共和党候補者を、入会金が10万ドル(約1180万円)以上するワインクラブに所属する“手の届かない富豪”と呼んで攻撃した。しかしこの候補は「知事が本気なら民主党政権の時に最賃引き上げが実現できたはず」と応酬しながら、廃止発言は誤りだったと認め、結果的に5ポイント差で民主党候補が敗れた。
 熾烈な上院議員選挙がおこなわれているアラスカ州では、61%の有権者が最低賃金引き上げを支持しているため、共和党候補が予備選では連邦最賃には反対しながら、民主党と対決する下院選挙では、州最賃引き上げに賛成する広告を打った。アーカンソー州でも同様に最賃が一つの焦点であり、ネブラスカ下院選、サウスダコタ州上院選でも最賃問題を住民投票に委ねるかどうかが議論になっていた。
 最低賃金問題は、ここ数年論議されてきたが、下院予算局の報告では連邦最低賃金10.1ドル(約1193円)への引き上げが雇用を50万人喪失させるとしたのに対し、労働省の州別調査では、2014年初めに最低賃金を引き上げた13州の雇用の伸びが、7月現在で引き上げなかった州より大きいという結果が出た。

*1ドル=118.07円(2014年11月25日現在)

米国労働組合とホワイトハウスの関係に改善の兆し

 米国の労働組合は民主党の大きな支援団体ではあるが、オバマ政権とは必ずしも良好な関係にはない。
 米国財政危機の際の金融業界改革への不満、オバマケアと言われる医療保険実施の際の労働組合優遇措置の拒絶、自由貿易協定への怒り、労働組合が要求する石油パイプライン建設の決断遅れなど、労働組合のフラストレーションは大きい。
 その中で、公民権専門の弁護士で、メリーランド州政府で労働長官を務めた経歴も持つペレス労働長官の発言が注目をひいている。長官は「労働者の声にはいろいろな形があるが、中でも重要なのが労働組合だ。その声が団体交渉権の擁護と言うことであれば、政府はそれを守る必要がある。しかし現状はその権利が破滅的な攻撃に曝されている」と述べながら、過去数十年にわたる労働組合組織率の低下と賃金低迷の関係に触れ、組織率の低下が中産階級の減少と拡大する経済格差の原因であると指摘し、組合員は非組合員より週給200ドル(約2万3614円)も多く稼いでいる労働省統計も紹介した。
 また「私の出身地ニューヨークには健康な中産階級と健全な労働運動との直接的な関係がみられる。働くとすれば私は賃金が低く保障も少ないミシシッピーの日系企業より、賃金の高いルイービルのフォードを選ぶ」と語り、組織率が米国に倍増するカナダで、中位数賃金の伸びが初めて米国を上回ったことも紹介した。
 さらにペレス長官は、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)社を訪問して労働者評議会について学びたいと語り、労働者委員会が労働時間や職業訓練、企業規模縮小などの決定に参加する制度を評価しつつ「全米自動車労働組合(UAW)がチャタヌガでこの制度を実現しようとしている。労働組合が一段とドイツの企業文化、政治文化に組み込まれつつあるが、この建設的な関係かつ素晴らしい制度を米国にも根付かせるべきだ。労使協力は企業にとっても利点になる」と述べた。
 また、サウスウエスト航空やファストフード、小売業界で労働条件改善の運動が展開されている動きについて、組合員は多くの人の助けになっていると評価した。
 労働組合を評価する点では、オバマ大統領も労働記念日に「家族のためによりよい仕事を探すとすれば、まず労働組合に加入する」と演説したが、中産階級の成長に労働組合の役割が必要であると認識された印象が強い。
 現在、議会における審議停滞のために、ホワイトハウスは一方的な大統領令で政府契約業者に最低賃金10.1ドル(約1193円)の実施を発令したが、労働組合は、さらに契約業者に団体交渉権をも承認させる大統領令を求めている。
 一方、ペレス長官は、冒頭の労働者の声について、解職された前社長を復職させるために団結した中間管理職のある会社の事例を紹介して、労働者を代表する声が必ずしも労働組合だけではないことも示唆した。

*1ドル=118.07円(2014年11月25日現在)

全米自動車労働組合(UAW)新会長のこれからの取り組み

 全米自動車労働組合(UAW)は、今年6月の定期大会で、デニス・ウイリアムス新会長(61歳)をはじめとする、新役員体制を確立した。
 UAWの組合員数は2013年に約39万1000人と、前年よりも若干増加させたが、過去最高だった1979年の150万人には遠く及んでいない。組合員の内訳も、自動車産業で働く組合員は約半数にすぎず、残りの半数は自動車産業以外の官民の労働者で構成されている。
 ウイリアムス新会長は、UAW財務局長時代に財政健全化のため、5年間で支出を23%削減し、資産2億4500万ドル(約289億2715万円)を売却した実績がある。しかし通常の運営費を賄うために、ストライキ基金(ストライキが起きた場合に労働者に支払う資金)の一部を使用したため、ストライキ基金の残高は2006年には9億ドル(約1050億円)超から、2013年には6億2700万ドル(約740億2989万円)と大幅に落ち込んだ。今年の定期大会では、ストライキ基金を立て直すため、1967年以来となる組合費を25%引き上げる案を提案し、可決されている。
 UAWは、来年の協約交渉について、ビッグスリー(クライスラー、フォード・モーター、ゼネラルモーターズ=GM)が、2013年に144億ドル(約1兆7002億円)の利益を上げた中で、2007年から昇給なしでいる旧来組合員、“2ティア”と呼ばれる二重階層賃金制度という問題の解消に取り組んでいる。さらに組織率の高いミシガン州で“労働の権利法”成立し、組合費納入と組合加入が組合員の自由意志とされたため、この地域での組織の維持・発展が課題となっている。
 ビッグスリーは、給与労働者と同様の年金削減を考えており、既にGM とフォードは給与労働者に対し、年金積み立ての一時払い精算と確定拠出年金へ変更案を提示している。さらにGMは年金基金をプルーデンシャル保険に売却し、クライスラーも昨年、給与労働者の年金制度を8000人に限定した。
 こうした経営陣の動きに対して、UAWは組織拡大の取り組みとして、チャタヌガのフォルクスワーゲン(VW)工場、アラバマのダイムラー工場の組織化を進めてきたが、共和党議員を中心とする反対派とのせめぎ合いが続いている。
 ウイリアムス新会長は、「企業利益の急上昇により記録的なボーナスもあった。新人組合員の賃金も2011年の15.50ドル(約1830円)が、来年には最低でも19.28ドル(約2276円)に上がる」と語り、労働の権利法問題については、「UAWとミシガン州労働組合にとっての新たな課題だが、あまり心配はしていない。同様な状況にある他の州でも、多くの組合員がUAWに賛同してくれている。組合員のために働いていれば支持は得られる」と強気の発言を行なっている。

*1ドル=118.07円(2014年11月25日現在)

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