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No.120(2012/4/26)
「タムリン・モシイ」前インドネシア労働組合総連合会 会長インタビュー

 インドネシアの労働運動に長年携わってきたインドネシア労働組合総連合会(CITU)の会長であったタムリン・モシイ氏が引退された。引き続き、NGOの「インドネシア社会開発センター(ICEDA)」で活躍されている同氏に、インドネシアの日系企業の労使関係や経済、社会問題について語ってもらった。

編集部  これまで長年、インドネシアの労働運動に携わってきた感想をお聞かせください。

モシイ 労働運動は、すばらしい崇高な価値を持っています。労働運動の自由、民主的、独立というアイデンティティは普遍的な性格があるということです。

編集部 これまでインドネシアの労働運動の中で、最も困難なことは何だったのでしょうか?

モシイ 改革期に労働移住省が100もの労働組合の登録を認めて以来、既存の労働組合は団結することが難しくなり、組合費の徴収さえ厳しくなってしまったことです。
 また、教育的な背景を見ても、大部分の労働組合指導者は高卒であったことから、経営側と比較して教育レベルの差を痛感しました。具体的には、[1]労働組合は社会政策の分析力が低い[2]工場における労働組合リーダーは調和的な労使関係を築く能力の欠如[3]財政面の貧弱さ――など、多くの課題を解決しなければなりませんでした。

編集部 モシイ氏がインドネシアの労働運動を牽引してきましたが、経済や社会に対してどのような影響を与えたと思いますか。

モシイ 基本的に労働組合の重要な役割は経済成長と社会発展に貢献することです。具体的には、生産性、収益性、ステークホルダーへの収益の公平な分配、企業の継続的な成長、国の経済成長です。インドネシアの労働組合は、産業レベルで大きな役割を果たしてきました。

編集部 インドネシアの労働組合とCITUの後継者にどのようなことをアドバイスしますか。

モシイ 普遍的な労働組合の目的や将来の展望を把握し、広い視野を持って活動を実行することです。特に自由、民主的、独立、代表制、責任感を意識すること。ディーセントワークを求め、貧困を無くすことも重要です。労使の協力を通じて調和のとれた公平な労使関係を構築し、ストライキやロックアウトを避けることです。特に重要な点は、[1]職場で搾取が行なわれてないか検証する[2]職場で中核的労働基準と基本的権利が守られているか把握する[3]労使紛争が起きた時には過激な行動は取らず、まず社会対話とお互いが有益となる解決策を見出す――ことです。すべての労働組合活動家は、この行動基準を守ってもらいたいと思います。

編集部 これまで多くの労働争議を解決されてきましたが、労使関係の安定に向けてアドバイスがありますか。

モシイ 労働争議の解決には公平で調和ある労使関係構築への努力が必要です。重要な点は相互の信頼に基づく社会対話であり、それでも解決できない場合は『労働法』に沿って解決することです。

編集部 インドネシアでは多くの日系企業が操業しており、モシイ氏もパナソニックの従業員でした。日系企業の労務政策は他の企業と比べてどのような特徴がありますか。

モシイ インドネシアの中小企業は労務政策の重要性を認識していないことが問題です。日系企業をはじめとする多国籍企業は労務政策の重要性を認識し、企業文化の一つとしています。その違いは企業文化を体現する各社の労務政策の特徴として見られます。

編集部 これからのインドネシアは経済大国へと発展し、日本からも新規に投資する企業が多くあると思いますが。

モシイ 新規投資会社とその労働組合は、企業の労務政策は企業文化の一環として重視すること、労務政策は企業文化であると同時に関係するステークホルダーに対する企業の行動規範であり、単なるスローガンではないこと、労務政策は企業文化の中核をなし、労使関係の行動規範として作用することを理解してほしい。
 また多国籍企業では、現地と自国の文化が混じり合い、労使関係の行動規範がより良い方向へ統合されることが望ましいでしょう。労使関係が成功するキーポイントは両者が学び合い、最良の文化を築くことだと思います。

編集部 最後に日本の労働組合関係者にコメントをお願いします。

モシイ 私の視点では、日本の労働組合指導者は、現地労働組合リーダーと信頼関係を構築するために、もっと積極的に話し合いの場をつくるべきです。例えば、現地労働組合への支援プログラムに日本からの指導者が参加することも重要です。労使紛争解決問題を扱うことも良好な関係の一助となるでしょう。
 最後にCITUの活動を支えてくれた日本の労働組合の同志に感謝の気持ちを送りたいと思います。

 ◆タムリン・モシイ プロフィール
 1971年にPT Panasonic Manufacturing Indonesiaに入社し、社内に労働組合を組織する。75年にインドネシア電機労働組合の地域書記に就任し、78年にはパナソニック工場労働組合の委員長に就任。その後、インドネシア電機労働組合の財政担当を経てインドネシア電機労働組合ジャカルタ地域副委員長を務める。99年、インドネシア金属労連の設立と同時に会長に就任。2007年まで同職を務める。2007~2012年1月30日までCITU会長を務め、現在は社会開発関係のNGOであるICEDAで理事長を務める。

ネパール連邦民主共和国の民主化への変遷(5)
現在、ネパールでは10年以上にわたる内戦状態が終わり、ネパール王国からネパール連邦民主共和国へと生まれ変わったが、政治や経済、教育のいずれを見ても不安定な状況が続いている。
 このような状況の中で国際労働財団(JILAF)では、独立ネパール労働組合会議(NTUC-I)と協同で、(1)職場の環境改善セミナー(2)労使関係セミナー(3)児童労働撲滅のための学校プロジェクト(4)インフォーマル労働者への草の根支援事業(SGRA)――などを展開。ネパールの地域や社会に貢献するプロジェクトを行なってきた。
 今号では現地に駐在しているJILAF・和田正夫フィールドマネージャーが、ネパール情勢について報告する。
和田フィールドマネージャーからの報告

  ネパールの制憲議会
 ネパールで課題となっている制憲議会の任期が、来月5月28日に迫り、成立するか否か国内外から大きな注目を集めている。その指導力を問われている現政府は、マオ党(ネパール共産党・毛沢東主義派)を中心とする連立政府のままである。コングレス党(ネパール会議派)と共産党UML(ネパール共産党統一マルクス・レーニン主義派)は、連立政府には参加せず、野党としての立場で制憲議会に参加している。
 その肝心な制憲作業が円滑に進まない大きな理由は、[1]王政の廃止とともに連邦国家となったが、各連邦地域の境界線をどのように定めるのか、政府や地域、民族間で決定できていない[2]平和協定締結にかかるマオイストの人民解放軍(PLA)の約6500人を国軍への編入する問題もあり、マオ党主導の連立政府と野党との政治対立が継続していることが要因である。
 
連邦制における地域の境界線
 マオ党は、国の主要部族の居住地域を基準にした約16の連邦地域を発表した。しかしコングレス党や共産党UMLの野党からは、「この分割方法は過去にない部族紛争を誘発する可能性が高く、国が割れる事態となるだろう。この提案は到底受け入れられるものではない」と強調した。連邦制では各地域の政治、行政、経済、社会、地形など、その特徴を加味し、各地域経済の独立した発展を促すものでなければならず、野党はマオ党政権の説得に当たっている。
 
PLAの国軍への参加
 マオ党は、PLAの国軍への参加人数は約6500人で、この中でPLA幹部を国軍の政策決定権を持つ、上級幹部への登用を確約することを求めている。しかし、コングレス党は、平和停戦合意の7項目に違反し、遅延している制憲議会の任期をさらに遅らせる行為であるため、到底受け入れられるものではないと主張している。マオ党は、国軍の改革案として、国軍内に別組織を設立し、PLAの集団的な参加をほのめかしている。これは個別政党に所属していた武装集団を国家の軍隊に強制的に編入させることになる。マオ党は停戦時に政党政治への参加に合意したにも関わらず、4年間が経過した今なお、武力的な政治手法から解放されていないと多くの批判を浴びている。
 
内閣の汚職事件と制憲の行方
 バブラム・バタライ首相が選出されてから半年が経過したが、閣僚が10人以上も贈収賄など、さまざまな容疑で逮捕されたり辞職に追い込まれており、刑務所に服役中の元大臣が3人もいる状況だ。首相就任前の公約事項であったコングレス党や野党勢力の連立政権の参加については、その気配すら見られない。首相就任時に期待した政治手腕は国民の期待外れとなり、制憲期限切れを目前に首相の辞任要求は高まる一方である。
 先日、政府閣僚と最高裁関係者との会合が行なわれ、4年間の制憲議会の再延長は、法的には不可能であり、政府は5月28日までの残された時間で、未合意な部分の政治決着を早急に図り、ネパール国民の望む制憲発表を実施することが重要だとの認識を示した。
 
ネパールの国内情勢
 この国の治安状況は、治安を乱していた中心とされるマオ党を中心とする連立政府の樹立後は、多少落ち着きを見せ始めている。しかし、国の開発の原動力となる電力エネルギーの供給は数年前から必要量の三分の一程度しか確保できていないのが現状だ。飲料水も渇水の一途であり、石油もインドからの供給だけでは必要量を満たすことができず、食料や生活物資高騰も社会問題となっている。このような危機的状況から、母国を見放し、国外へ出稼ぎに出る労働者は増加の一途をたどり、一日あたり約1500人もの若者が出国していると報告されている。

国際労働財団(JILAF)
  ネパール・フィールドマネージャー 和田正夫

発行:公益財団法人 国際労働財団  http://www.jilaf.or.jp/
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