2012年 インドネシアの労働事情

2012年6月29日 講演録

インドネシア労働組合総連合(KSPI/CITU)
テュティ スワルティニ
Ms. Tuti Suwartini

グラクソ・ウェルカム・インドネシア労働組合 議長・CITU副会長

 

1.当該国の労働情勢(全般)

 2011年8月におけるインドネシアの労働力人口は1億1740万人で、うち就業者人口は1億970万人。また、失業率は6.56%で前年同月の7.14%より低下している。
 最近6ヵ月(2011年2~8月)における就業者人口は、特に製造部門では84万人(6.13%)、建設部門で75万人(13.42%)の増加が見られた。一方で農業の310万人(7.42%)、運輸・倉庫・通信部門50万人(8.96%)、社会サービス部門37万人(2.17%)など部門では、減少が見られた。
 また同時期の労働時間調査では、7510万人(68.46%)が1週間35時間以上労働する一方で、1週間8時間以下の労働者は140万人(1.31%)であった。小学校卒またはそれ以下の学歴を持つ労働者はまだ多数派で、5420万人(49.40%)にのぼっており、短期大学卒は320万人(2.89%)、大学卒は560万人(5.15%)であった。

表1 主要な活動別にみる人口 2010~2011(万人)

主要な活動
2010 2011*)
2月 8月 2月 8月
(1) (2) (3) (4) (5)
労働人口
就業中
失業中
2.労働人口参加率(%)
3.失業率(%)
4.半労働者
半失業
パートタイム
1億1600
1億741
859
67.83
7.41
3280
1527
1753
1億1653
1億821
832
67.72
7.14
3327
1526
1801
1億1940
1億1128
812
69.96
6.80
3419
1573
1846
1億1737
1億967
770
68.34
6.56
3459
1352
2106
表2 主要な労働業種別にみる人口 2010~2011(万人)
主要な労働業種 2010 2011
2月 8月 2月 8月
(1) (2) (3) (4) (5)
農業
製造業
建設業
貿易業
運輸・倉庫・通信業
金融業
社会サービス業
その他*)
4283
1305
484
2221
582
164
1562
140
4149
1382
559
2249
562
174
1596
150
4248
1370
559
2324
558
206
1702
161
3933
1454
634
2340
508
263
1665
170
合 計 1億741 1億821 1億1128 1億967

*)主要な労働業種のその他には、鉱業・電気・ガス・水道業がある。

表3 主要な職業上地位別15歳以上の就労人口 2010~2011(万人)
主要な職業地位 2010 2011
2月 8月 2月 8月
(1) (2) (3) (4) (5)
自営
自営(アルバイト雇用あり)
自営(正社員雇用あり)
労働者・従業員
農業自由契約労働者
非農業自由契約労働者
家庭内労働・給与支払いなし
2046
2192
302
3072
632
528
1968
2103
2168
326
3252
582
513
1877
2115
2131
359
3451
558
516
1998
1941
1966
372
3777
548
564
1799
合 計 1億741 1億821 1億1128 1億967
表4 一週間当たりの労働時間別15歳以上の人口 2010~2011(万人)
一週間当たりの
労働時間
2010 2011
2月 8月 2月 8月
(1) (2) (3) (4) (5)
1~7
8~14
15~24
25~34
1~34
35以上*)
148
481
1197
1454
3280
7460
120
459
1248
1500
3327
7494
137
479
1263
1540
3419
7709
144
520
1289
1506
3459
7508
合 計 1億741 1億821 1億1128 1億967

*)一時的に就労していない者も含める。

表5 最終学歴別15歳以上の就労人口 2010~2011(万人)
最終学歴 2010 2011
2月 8月 2月 8月
(1) (2) (3) (4) (5)
小学校またはそれ以下
中学校卒
高校卒
職業専門高校卒
短期大学(1~3年)
大学
5531
2030
1563
834
289
494
5451
2063
1592
888
302
525
5512
2122
1635
973
332
554
5418
2070
1711
886
317
565
合 計 1億741 1億821 1億1128 1億967
表6 最終学歴別 失業率 2010~2011(%)

最終学歴
2010 2011
2月 8月 2月 8月
(1) (2) (3) (4) (5)
小学校またはそれ以下
中学校卒
高校卒
職業専門高校卒
短期大学(1~3年)
大学
3.71
7.55
11.90
13.81
15.71
14.24
3.81
7.45
11.90
11.87
12.78
11.92
3.37
7.83
12.17
10.00
11.59
9.95
3.56
8.37
10.66
10.43
7.16
8.02
合 計 7.41 7.14 6.80 6.56

 

2. 労働組合が現在直面している課題

 インドネシアの労働者および労働組合が現在直面している課題は非常に多く、例えば組合つぶしや雇用契約における犯罪、不当な解雇の問題などである。また、労働組合内部に対しても分裂問題で批判されることもある。インドネシア労働組合総連合(CITU)は短期的課題として以下の3つを定め、集中的、戦略的に問題解決のため努力している。

  1. 適正な賃金
  2. アウトソーシング
  3. 組合結成の自由

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか

 適正な賃金要求の上で、CITUは組合員向けのワークショップをいくつかの地域で数度開催した。政府への圧力として、2012年6月13~15日にかけて労働・移住省への包囲行動を実施した。その際にCITUがプレスリリースで伝えた内容は、[1]政府もしくは中央賃金評議会(DPN)が策定した、わずか50項目しかない適正生活水準の改定版を拒否する[2]労働移住大臣に対し、84項目に増やした適正生活水準の改定版を要求し、特に住宅に関しては28/72タイプ(頭金なしの低利の条件)の住宅ローンと同水準にすること、段階制に関する記述の削除を求める[3]2013年の州最低賃金・都市最低賃金を決定するために、適正生活水準に関する2005年労働移住大臣規定17号の改定は遅くとも2012年6月末に発効されなくてはならない[4]教員の州最低賃金・都市最低賃金は、インドネシア全土で適正に運用されなくてはならない。現在、州最低賃金・都市最低賃金の基準から極端に低い1ヵ月30万ルピアの給与しか支払われていない[5]これらの要求のうち特に2012年6月末までに適正生活水準要項目を最低でも84項目に増やさなければ、CITUはインドネシア全土の労働者を集結させ、全国規模の抗議行動を2012年7月に1週間実施する予定である。スローガンは「低賃金政策に断固抗議する」である。
 契約システムやアウトソーシングへの拒否は続け、結成の自由を求めるキャンペーンも行ない、CITUは活動を展開する地域に地域支部を開設した。首都ジャカルタにおける活動と同時にインドネシアの全州、各都市にあるCITUの地方支部においても同様の動きが可能である。

4.あなたのナショナルセンターと政府との関係について説明してください

 CITUは政府をパートナーと認識しており、労使関係に対して直接影響を及ぼすもの、もしくは労使関係に直接的な影響は及ぼさないが労働者福祉には影響するものの、どちらも含めた政府の政策に対して前向きな姿勢で関与しており、協力関係も良好に保っている。
 政府との良好な関係を保持するために、労働移住大臣との面会だけでなく、その他の大臣や労働者社会保障会社や公務員保険会社などの国有企業との会談も行なっている。
 しかし、CITUは政府の政策に対して、建設的な立場で批判的であり続けるとともに、労働者や労組の不利益になるような政策が実施される場合は抗議行動を取ることもある。

5.あなたの国の多国籍企業の進出状況について、また多国籍企業における労使紛争があればその内容についてお知らせください

 一般的に、インドネシアにおける多国籍企業は来ては去る、という状況である。その意味は、投資してインドネシアに進出する一方、同時に、長期間にわたる投資を行なったとしてもさまざまな事情から事業を断念、もしくは破産となって他国に移動するということが起こっているからである。他にも、買収や同業種企業における合併・吸収なども起こっている。
 多国籍企業の労働組合に対する態度は多種多様で、歓迎し友好関係を持つ企業もあるが、多くは敵対視している状況である。
 多国籍企業での産業関係で対立が起これば、基本的には自国の企業と同じように法律にのっとって対応するが、法的解決に時間がかかりすぎて合意が結べなかった場合、国際労働機関(ILO)へ不服を申立てしたり、国内にある大使館での NCP(ナショナル・コンタクト・ポイント)などを通じて、国際的な解決も可能である。

インドネシア福祉労働組合総連合会(KSBSI)
エマ リリーフナ
Ms.Ema Liliefna

インドネシア福祉労働組合総連合会(KSBSI) 広報担当

 

1.当該国の労働情勢(全般)

  1. 雇用の外部委託(派遣労働など)利用が、労働者を苦しめている。解雇された正規労働者が、契約労働者として再度、入社するという傾向も続いている。
  2. 労働組合結成の自由は国が保証しているが、この規定への違反も頻発している。組合員となった労働者の解雇や、現在の地位より低い地位へ異動となったケースも発生している。
  3. 賃金は重要な課題である。賃金が決められても100%支払われるとは限らない。加えて生活を圧迫する物価の上昇も大きな問題である。ガソリン・灯油価格はすでに3割も高騰しており、政府による市場価格正常化は困難を極めている。
  4. 社会保障においても、労働者の福祉状況が他国と比較して満たされているとはいえない。いまだ低賃金で、社会保障も貧弱である。実施機関は社会保障公社(BPJS)。

2.労働組合が現在直面している課題

  1. 企業側は、労働組合の存在を十分には受け入れていない。
  2. 労働組合と政府間との交渉も限定されている。多数の労働組合が誕生しているが、政策提言における団結力はいまだ脆弱なままである。
  3. 企業別労働組合においては、組合員の確認が不透明である。
  4. 人材の質もまだ低い。
  5. 法律は、労働者の立場より資本主義政策や政府側にたった内容となっている。

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか

 労働組合は、特に労働問題に関連した公的な政策について政府側との交渉をさらに充実・拡大するよう努力している。
 KSBSIは他のナショナルセンターと協力し、政府への抗議行動を行なっている。情報交換の場として共同事務局を開設し、公的な政策の提案やメーデ共同行動を実施している。

4.あなたのナショナルセンターと政府との関係について説明してください

 KSBSIは、国内の労働問題に関するさまざまな政策を整備するために協力関係を築こうとしている(全国三者協議機構)。地方における三者・二者協議機構とも協調路線を取っている。
 政府と協力して労働者の基本的な権利のために努力し、議会や政府との交渉を続けている。

5.あなたの国の多国籍企業の進出状況について、また多国籍企業における労使紛争があればその内容についてお知らせください

 わが国での多国籍企業に関する情報を、あまり持ち合わせていない。

全インドネシア労働組合総連合会(KSPSI)
フスニ ムバーラク
Mr. Housni Mubaraq

商業・銀行・保険労働組合連盟(NIBA) 議長

 

1.当該国の労働情勢(全般)

 インドネシアにおける労働組合は、最大限に力を発揮しているとはいえない。労働組合の結成と管理について定めた『2000年法律第21号』の意義(労働組合結成の自由)を、労働者と雇用主が十分には認識していないからである。労使関係は調和しておらず、雇用主は労働者が団結して労働組合を結成することにアレルギーを持っている。このような場面では、労働組合の機能と役割について政府がもっと社会的認知を拡大するよう努力すべきであるが、両者が十分学び理解するような明るい展望が見える状況までにはまだ達しておらず、いまだに労働者が労働組合を作ることは企業の不利益になると考えられている。
 労働組合は現在に至っても企業からの脅迫・干渉・差別を受けており、労働組合の発展も阻害され、労使関係も協調路線とはなっていない。本来なら、労働組合は協調した労使関係を築き、公正な活動・連携を実現させる存在であり、労働者は将来を担う人材として市民社会を支えるものである。
 企業の「組合つぶし」を無くすよう政府からも強く働きかけてほしい。また労働者が今後さらに団結して労働組合が結成され、労働組合の役割・機能が最大限に発展することを希望している。
 問題の解決策としては、『2000年法律第21号』やその他の労働法の遵守について政府の規制をより一層強化することが必要だろうし、その姿勢こそが雇用主・労働者・政府の三者の良好な関係が実現するための重要な柱となる。
 雇用主は労働法の内容を遵守し、雰囲気の良い企業風土を作りあげ、労働者を企業財産として丁寧に接し、労働者からの意見や批判、忠告などにも耳を傾けることで企業自体も活動を存続できる。労使関係が良好であると、国家経済の発展も可能になるだろう。
 労働者自身も、企業が良い方向に発展するために自分たちが重要だという点を認識
 することで、高い労働意欲を保てる。企業活動の継続を目的として、二者間のパートナーシップ形成も可能となる。

2.労働組合が現在直面している課題

 第1に、外部委託(派遣労働など)の問題があり、賃金、労働者の地位、労働時間、社会保障、退職金といった課題がある。
 第2に、有期労働契約にも問題がある。その1つが有期労働契約条件であり、経営者は依然として法違反を行なっている。労働契約に関して3ヵ月の試用期間があるが、3ヵ月経たないうちに解雇するという問題がある。
 その他、社会保障制度、労使関係紛争処理などの課題がある。

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか

 外部委託(派遣労働など)で憂慮される問題点は、現在、労働条件が不安定で平均以下の賃金水準となっている点である。労働者の地位も不安定で請負業者によって労働期間が蓄積されず社会保障もなく、すべてが労働者に不利益な状態で働いている。
 有期労働契約問題は主要課題の一つで、労働者の多数が契約内容を少しも理解していない状況にある。多くの労働者は、3年間の契約を2回更新した後の更新はなく、その後1ヵ月は自宅待機として一時的解雇状態にし、その期間終了後に再び雇用されている。これは企業側が、正規雇用を避けるために戦略的に行なっていることである。この戦略によって労働者への社会保障を提供する必要がなくなる。その一方で労働者は企業との労働契約関係が何年も事実上継続していることから、労働者保護のためにも法的な措置が必要である。
 また、無期労働契約では、3ヵ月の試用期間が経過した後に正規雇用となり、その後何年も勤務することになるが、過失を犯した場合または55歳に達した時(定年)、労働者は解雇されることになる。定年以外の解雇の工程には長時間が必要である。雇用主にも、解雇に関する『2003年法律第13号』への認識が欠けていることから解雇が難航し、最終的には二者協議・三者協議、ひいては労働裁判所にまで持ち込まれることもある。さらに私企業労働者には退職年金という社会保障が求められている。
 労使関係が対立し労働問題が労働裁判所に持ち込まれても、『2004年法律第2号』が不十分な状態にあることから、解決には長い時間が必要となる。労働環境を監視する必要な人員も不足し、制御機能もうまく働かず法律の制定も現実的なものではない。労働組合こそが問題解決の役割を担い、二者協議の労使協議だけで解決することを可能にしている。
 インドネシアの労働者は、労働者に対する社会保障・健康に関する『2011年法律第24号』が実施された時は非常に喜んだ。これによりインドネシアの全国民が、社会保障公社(BPJS)から健康サービスを受けられるようになった。これまでの社会保障会社(PT. JAMSOSTEK)には、労働災害、死亡、老齢、医療の4種類のプログラムがあったが、さらに年金の保証も含まれるようになった。
 新しい社会保障が全国民への健康サービスのために努力を続け、貧困層を減少させ、労働者が簡単に健康サービスを受けられることを 期待している。さらに重要なのは、労働者が退職後にも社会保障・年金保障を享受し、老後に福祉を受けられるようになることである。

4.あなたのナショナルセンターと政府との関係について説明してください

 ナショナルセンターと地方政府との関係は地方自治法に従っており、各州において
 その土地での労働問題を監視している。監視対象は労使関係に不調和を生むあらゆる問題である。中央と地方の調整役は相乗効果を生み出さなくてはならず、一般的にも組織的にも問題解決するために重要な位置にある。しかし現実としては、労働問題解決の際には、中央と地方の間に多くのミスコミュニケーションが存在している。

5. あなたの国の多国籍企業の進出状況について、また多国籍企業における労使紛争があればその内容についてお知らせください

 インドネシア共和国は、国の経済的発展に貢献する投資に対して非常に開かれた国である。投資を呼び込み求人が多く提供されることで、高い失業問題も解決に向かい、貧困率も低下することになるというのが、中央政府による労働対策の一つであるといえるだろう。
 失業率低下のために賃金低下の現象が起きており、労働条件も悪化することになる。これは政府の雇用政策の弱点であり、労働者への賃金保障・一定の福祉水準の保持を投資家へ遵守するよう圧力をかけさせなくてはならない。
 これらがすべての問題を引き起こしており、雇用主・投資家と労働者の間に対立や紛争を生んでいる。
 インドネシア経済発展のために投資を行なうはずの投資家が、国から逃げ出すという懸念から問題が表面化している。これは、政府のバランスが取れていないことが原因である。特に海外からの投資家に対する政府の支援は見えにくい状態だ。
 『2004年法律第2号』は、産業関係における対立や問題を解決するために施行され、これは労働者や労働組合が常に不利な状況におかれていることへの対策となっている。
 私から改善策として提案したいのは、政府が企業もしくは投資家を受け入れる際に、インドネシアの労働者を安価な賃金で雇用しない企業を選択してほしいことである。
 また、『2000年法律21号』、『2003年法律13号』、『2004年法律2号』の遵守も切に希望する。