ハーバード大学と大学院生労働組合の終わらない闘争
2026.4.19
ハーバード大学において、新たな労働協約をめぐる大学側と大学院生組合の対立が激化している。一年以上と長引く交渉は難航を極め、組合側はこの4月にはストライキの実施を宣言する事態に発展した。世界最高峰の大学とも称される同校で、なぜ学生労働者たちは声を上げ続けるのだろうか。
The Harvard Crimson(ハーバード大学の学生新聞)が4月16日に伝えている。
現在、大学側と対立しているのは「HGSU-UAW(Harvard Graduate Students Union-United Auto Workers Local 5118)」である。これは、ハーバード大学で働く約5,000人の学生労働者を代表する労働組合だ。組合員には、教育フェロー(ティーチングフェロー)やコースアシスタントとして学部生などを指導する学生、および研究助手(リサーチアシスタント)として働く大学院生が含まれる。
彼らは学位取得を目指す「学生」であると同時に、大学から報酬を得て教育・研究業務を担う「労働者」でもある。過酷な労働環境や生活費の高騰、さらにはハラスメント問題に対処するため、彼らは労働者としての権利向上を求め、2015年に組合結成に向けた運動をスタートさせた。大学側の抵抗や、全米労働関係委員会(NLRB)を巻き込んだ紆余曲折を経たものの、2018年に実施された選挙で過半数の賛成票を獲得し、正式な労働組合として承認されるに至った。その後、2020年に最初の労働協約が結ばれ、2021年には第2次の協約が締結されている。2025年6月に満了となった本協約の改定交渉が未だ合意に至っていない。
なぜ「全米自動車労組(UAW)」に加盟したのか
組合の正式名称にUAWが付いていることを不思議に思うかもしれない。実は、UAWは現在、自動車産業の労働者だけでなく、全米の高等教育機関で働く学術労働者の巨大な受け皿となっている。UAWが抱える約40万人の組合員のうち、4万5,000人が大学院生であり、3万人が学術労働者(アカデミック・ワーカー)によって構成されているのだ。
ハーバードの学生労働者たちが2015年に組織委員会を結成した際、組合選挙実施に向けた賛同署名活動の第一歩として、すでに豊富な経験と強力な組織基盤を持つUAWと協力することを決断した。巨大かつ権威ある大学組織と対等に渡り合うためには、全米規模でのネットワークと交渉ノウハウを持つUAWに加盟することが必然的な選択であったと言える。
新協約をめぐる4つの主要な争点
現在、2021年に締結された第2次協約が満了を迎えたことに伴い、新たな協約に向けた交渉が行われている。しかし、以下の4つの重要課題において両者の主張は真っ向から対立している。
1. 賃金・報酬の大幅な引き上げと体系の標準化
組合側は、深刻なインフレや生活費の高騰に見合うよう、教育フェローの給与を約74%増額し、研究助手には分野を問わず一律5万5,000ドルの基本給を支給した上で、毎年5%ずつ昇給させることを要求している。これに対し、大学側は給与制職員の給与を10%引き上げる提案にとどめており、基本給の標準化や給与体系の再構築といった組合の要求は拒否している。
2. ハラスメントや差別事件における第三者仲裁の導入
組合側は、ハラスメントや差別の処理において、不透明になりがちな大学内部の人間ではなく、独立した第三者による仲裁プロセスを確立することを強く求めている。しかし大学側は、第三者による仲裁を義務付けることは連邦法のTitle IX(教育機関における性差別を禁止する連邦法)規制や、大学全体で一貫した手続きを求める大学方針に違反する可能性があるとして、この提案に警告を発している。
3. 研究給付金(Stipend)受給者の不当な「除外」問題
過去の契約が失効した直後、大学側は研究給付金(Stipend)を受け取っている900人以上の大学院生を、「彼らは学位取得のための学術的な進歩を支援されているだけの学生であり、労働者ではない」と主張し、組合から一方的に除外した。組合側は、彼らはこれまで通り他の労働者と同じ研究業務を行っているにもかかわらず除外されたと反発し、不当な労働法違反だとして苦情申し立てを行っている。
4. 組合の安定性(エージェンシーショップ制度)
組合側は、組合の安定した運営のために、組合に未加入の院生も含めた全員に対して、団体交渉などのための組合費の支払いを義務付ける制度(エージェンシーショップ制度)の導入を求めている。しかし大学側は、雇用条件として組合費の支払いを義務付けることには断固として反対する姿勢を明言している。
迫るストライキと連帯の力
これらの問題が一向に解決しない状況を受け、HGSU-UAWは圧倒的多数の賛成をもってストライキの実施を承認し、要求が受け入れられなければ決行する構えを見せている。
ストライキが決行されれば、大学全体での教育、成績評価、研究活動に甚大な影響が出ることが予想される。過去に実施された2019年や2021年のストライキの際には、組合員だけでなく、彼らを支持する学部生らが講義室の外でピケを張り、授業のボイコットを呼びかけたり、教員に講義のキャンセルを求めたりするなど、大学コミュニティ全体を巻き込んだ「連帯」の動きが見られた。
ハーバード大学におけるこの激しい対立は、単なる一大学の労使交渉にとどまらない。アメリカの高等教育機関において「学生労働者」がどのように扱われ、どのような権利が保障されるべきかという、全国的な学術労働運動の最前線となっている。大学側がいかに歩み寄りを見せるのか、あるいは組合側がストライキという実力行使によって要求を勝ち取るのか。その帰趨は、世界中の教育関係者から注目を集めている。(Y.T)
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