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韓国鉄鋼メーカーポスコ、協力会社の現場職7,000名を直接雇用

2026.04.09掲載

2026.4.9

韓国の鉄鋼大手ポスコが、浦項(ポハン)と光陽(クァンヤン)の両製鉄所に勤務する協力会社(下請け企業)の社員約7,000人を直接雇用するという異例の決断を下した。

中央日報(中央日報電子版)が4月8日伝えている。

2026年3月に施行された改正労働組合および労働関係調整法、いわゆる「黄色い封筒法」の施行後、大企業が協力企業の労働者をこれほどの規模で直接雇用するのは初のケースとなる。長年、製造業における元請けと下請けのいびつな構造が問題視されてきた中、この決断は韓国の労働市場に大きな波紋を広げている。

今回の直接雇用の対象となるのは、現場の操業支援業務を担当する人材である。採用希望者に限って順次転換が進められる。処遇については、基本給などの給与水準は協力会社時代の条件を維持する方針だが、福利厚生に関してはポスコの正規職社員と同等に適用する方向で検討が進められている。

この大規模な直接雇用の背景には、2011年から長きにわたって続いてきた違法派遣関連訴訟の重い負担がある。韓国大法院(最高裁)では、200人を超える労働者がポスコを相手取って直接雇用を求めた労働者地位確認訴訟の最終宣告が控えており、ポスコは鉄鋼産業が危機に直面する中で消耗的な訴訟戦を続けるよりは、労使共生モデルを構築して競争力を確保したいと説明している。

しかし、最も決定的なトリガーとなったのは間違いなく黄色い封筒法の施行である。この法改正の核心は、使用者の定義の拡大にある。これまで元請け企業は、直接の雇用契約がないことを盾に下請け労働者との交渉を拒否し続けることが可能であった。ところが改正法により、労働者の労働条件に対して実質的かつ具体的に支配・決定できる地位にある者も使用者とみなされることになった。

これにより、実質的な決定権と財布の紐を握るポスコ自身が、下請け労組の交渉要求に直接応じる法的義務を負うことになったのである。強大な団体交渉権とストライキ権を手にした下請け労組からの圧力は急激に高まり、ポスコ経営陣は、これ以上の対立を避けて彼らを直接雇用の枠組みに組み込む経営判断を下さざるを得なかったと言える。

一見すると労働者側の大勝利に見えるこの決断だが、現場には依然として火種がくすぶっている。最大の問題は、直接雇用は実現するが給与は下請け水準に据え置かれるという点である。身分保障と福利厚生の向上は前進だが、同じ製鉄所内で働く既存の正規職社員との間に明確な給与格差が残ることになる。

これにより、今度は社内で正規職と非正規出身者による労労対立が噴出する危険性がある。下請け出身者が過去の勤務期間における賃金の遡及補填を要求する可能性や、既存の正規職が採用手続きの公平性を巡って不満の声を上げる恐れも指摘されている。制度の力で元請けを引きずり出すことには成功したものの、同じ職場で働く労働者同士の分断をどう防ぎ、真の同一労働同一賃金を勝ち取るかという、より複雑で深い課題が浮き彫りになっている。

ポスコの事例は、日本の労働運動や経済界にとっても決して対岸の火事ではない。日本の2026年春闘では、大企業が5%超の賃上げに沸く一方で、労働組合のない中小零細企業やケア労働の現場では賃上げが滞り、二極化の現実が突きつけられている。日本の中小企業は元請けに対して交渉力が弱く、取引を打ち切られる恐怖から人件費の転嫁を言い出せない構造がある。事実、労務費の価格転嫁ができている中小企業はわずかである。

日本政府も改正下請法などを通じて行政指導による企業間取引の適正化を図っているが、韓国のように下請け労働者自身に強力な交渉権を与えるアプローチとは一線を画している。黄色い封筒法という法的武器が、巨大企業の重い腰を上げさせる起爆剤としてどれほどの威力を持つかがポスコの事例で証明された今、日本においても、構造的な賃金格差を是正するためには真の決定権者との交渉権をどのように担保すべきか、根本的な議論が求められている。<Y.T>

以上