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日本製鐵とUSスティール提携をパートナーシップと呼ぶトランプ大統領

2025.06.03掲載

5月30日のワシントン・ポストは「ピッツバーグ郊外の工場で鉄鋼労働者数百人の集会に出席したトランプ大統領は両社提携について、レイオフは無く、労働者には5,000ドルのボーナス、また産業を守るために6月4に輸入関税を25%から50%に引き上げると約束」と報じたが、同日のニューヨーク・タイムズは「日本製鐵がUSスティールへの140億ドル投資を発表してから1年半、取得交渉は最終段階に入った」と伝えた。

1週間前、トランプ大統領は従来からの発言を翻して日本製鐵とUSSとの提携に賛意を表明したが、集会に参加した労働者は ”鉄鋼の仕事=真の仕事” と書いたプラカードを掲げて提携に熱意を示した。
トランプ大統領は両社の提携協定を大ヒットと呼び、5,000ドルのボーナスに加えて、レイオフ無し、外注なしを約束。「日本製鉄はこれから10年、現存溶鉱炉の操業継続を約束した。この地域は最早ラスト・ベルトではなくゴールデン・ベルトになった」と言明。
またホワイトハウスも「提携は大統領による歴史的な取引だ。当初提携に反対した大統領だが、合意内容に関心を持ち続け、7万人の雇用と140億ドルを生む投資に賛成することになった」と声明した。

しかしながら、労組指導者と株主の間には会社所有や労働者保護などについての疑問がくすぶっており、トランプが言うパートナーシップについてナバロ通商補佐官は「日本製鐵にはある程度の関与が認められるが、会社支配権はない」と述べたが、それ以上のコメントは拒否。実際のトランプ提案の内容に疑問を残した。また巨額投資に対しても最終発言権が期待できないパートナーシップに日鉄が真に賛成したのかどうかの疑問も残る。

トランプ大統領出席前に登壇した日鉄の森副社長はトランプ大統領を讃えつつ「提携はトランプ大統領なしには成し得なかった。また交渉開始以来1年半の間に知った誇り高く柔軟性ある鉄鋼労働者を賞賛する。日鉄は世界市場でUSSを作り変える巨額投資を開始するが、ペンシルバニアのこの重要鉄鋼工場を保護、再活性化する投資もその一つだ。貴方がたは我々を信頼してくれた。信頼に応えるために全力を尽くす」と演説した。

取得に関わる国家安全保障への懸念に対する安全措置については、合併対象の米国企業の独立を維持するために、日鉄がCEO、主要管理職、取締役会の過半数を米国市民から選定することが条件という情報もあるが、米国政府による黄金の株式保有も条件と言われ、更には全米鉄鋼労組(USW)との現行労働協約遵守も求められる。しかし先週発表のトランプ・パートナーシップでは詳細が明らかでない。

USSの外国企業による買収は長年論争を呼んできた。資金繰りに苦しむ同社は大企業への株式売却で雇用を守り、世界市場での競争力を維持できると主張してきた。しかし合併から多大な影響を受ける労働者を代表するUSWはトランプ大統領が言う日鉄ーUSSのパートナーシップに疑問を表明。組合通信には「日鉄は当初からUSSの完全所有が設備投資への前提だと主張してきたが、日鉄がその立場を変えたとの報告はなにもない」と書いてある。一方、ナバロ氏が言う支配権なしの発言についてのWP質問に、日鉄の返答はない。

また、政権のレビット報道官は「トランプ大統領と石破首相との29日の会談で、鉄鋼の合併問題が取り上げられたかどうかは不明」と述べたが、トランプ自身のSNSには「日鉄は140億ドルをUSSに注入するが、大半は14ヶ月以内に実行され、ペンシルバニア連邦としては歴史上最大の投資となる」と書き込んだ。トランプ大統領には外部投資が同州経済を活性化させると主張する多くの著名なペンシルバニア政治家からの支持がある。
また、同州のシャピロ知事(民主党)も「この提携は州の鉄鋼生産を守る。私やホワイトハウスへの日鉄の約束からはペンシルバニア鉄鋼生産の成長が期待できる」と語る。ここで注目すべき同知事発言が日鉄を”USSを取得する会社”と述べている点で、ナバロ発言とは対象を見せている。
他方、USSは交渉におけるトランプの役割に対して「アメリカにとっての最善の取引を知る大胆な指導者で、ビジネスマン」との賛辞を送り、その指導力と献身に感謝を表明した。

しかし鉄鋼労働者の中には不分明な提携条件に未だ不安を漏らす人達がいる。
28日の組合通信の中では、USWのマッコール会長と交渉委員会のミルザップ会長が「トランプ提案の正確な内容と以前の買収計画との違いを調べてみたが、現時点では、SNSに記載されたパートナーシップ計画、ないし新たな報道と2023年に日本製鐵がUSSを買収、完全小会社化するとした買収計画に意味ある違いがあるかどうかは言えない」と記述し、「提携に関する密室の討議に組合代表の出席はない」と付け加えた。
そしてトランプが唱える新たな提携協定が真に新たなものかどうかに疑問を提起し、「米国通商法侵害の記録を持つ外国企業、日本製鐵に関する我々の核心的な懸念は今、かつてなく強く確かなものとなった」と書いた。

以上はワシントン・ポストの記事だが以下はニューヨーク・タイムズの記事になる。

長い間、USスティールの日本行きに反対していたトランプ大統領が先週、両社のパートナーシップを発表したが、これは日本製鉄による入札の承認と見られる。
日鉄は従来から、関心はUSS小会社化への取得にあり、USSと先進技術を分かち合いながら数十億ドルを投資する計画と発言してきたが、最近にいたりトランプ政権との間に、自社利益と大統領の言う充分なアメリカン・コントロールについての合意に達したと見える。

トランプ大統領は集会での演説で「USSは米国支配で在り続ける」と誓約したが、内容についての詳細は明らかにしなかった。現在、日鉄とUSS両社はバイデン前大統領による合併拒否の行政命令を覆すトランプ命令を待つ状態にある。

事態はトランプ就任以降変化したが、焦点の一つがいわゆる黄金株である。
黄金株は少数株主が主要な会社方針に拒否権を持つことを意味するが、工場閉鎖や大規模レイオフなど主要な会社方針を米国政府が変更できることで、会社取得への反対を軽減する考えがある。このため大統領は去る4月に両社提携の審査を担う外国投資委員会(CFIUS)に再審査を指示した。

5月22日、トランプ大統領は日本製鐵による投資の重要性を主張するペンシルバニア州のマコーミック上院議員団と会談、翌日にはSNSに「USSと日本製鉄とのパートナーシップ計画を提案する。内容は7万人の雇用と140億ドル投資だ」と書き、日本関係者を驚かせた。しかし詳細について日鉄役員は「今後協議する」と発言している。
同上院議員は「両社と大統領は政府への黄金株式を認める国家安全保障協定に署名する」と述べつつも、USS所有権への説明はなかったが、「米国の国家安全保障を守りながら、USSが次世代技術を取得できるもの」と述べた。

日本製鉄役員はトランプ大統領の最近の発言をUSS取得へのゴー・サインと捉えているが、USS役員指名には黄金株保有によりトランプ政権が影響力を持つことなる。日鉄は「CEOおよび役員の過半数は米国市民から選ぶ」と言明した。

以上