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フィリピンにおける中国企業の労使関係

2024.04.18掲載

フィリピンに進出する企業において、中国資本が目立ってきた。例えば、2016~2018年を取れば、中国からの投資により設立された企業は3,635社、日本1,091社、米国1,317社を上回っている。(ASEANブリーフィング「2023フィリピンにおける外国投資機会」2023年5月16日)労使関係という側面から見れば、中国企業の振る舞いはあちこちでトラブルの火種となっている。幾つかの例を見よう。

 

D’Lux BAGS

1960年代家族ビジネスから出発し、2004年には香港株式市場に上場、そこから多国籍企業の道を歩んで行ったルエンタイ・ホールディング(Luen Thai Holdings Ltd.)は高級ブランドのバッグ、ラップトップのケースなど、様々なファッショナブルな商品を扱っている。マイケル・コースやコーチといったブランドのバッグを製造しているのもこの会社だ。ところが製造の現場は中国、カンボジア、ベトナム、フィリピンなどにあり、安く製造し、高く売る高級品ビジネスで大いに稼いでいる。フィリピンには、2012年にマニラから北にバスで3時間の位置にあるタルラックに進出した。ナショナルセンター、フィリピン労働組合会議(ALU-TUCP)は、2013年からこの会社の組織化を開始し、団交権者確認選挙に6回チャレンジし、10年を経て昨年ようやく全一般従業員の選挙で多数を取り、団交権者と認められた。ここまで来るには多くの困難があった。ルソン地域事務所の労使関係担当委員であるレイは語る。「組合結成のリーダーだった人物は、ドラッグの売買に関与したという濡れ衣を着せられ逮捕された。会社は、「工場を閉じ、別の場所に移す」と脅しをかけてきた。」団交権を勝ち取った今も様々な嫌がらせがあると言う。「9月の団交権者確認選挙での勝利以来、職場の雰囲気はむしろ悪くなった。今年1月から3月まで強制的に無給休暇を取らされた」との記事がソリダリティー・センターからのニュースにも出ていた。ALU-TUCPは今団体協約の締結に向け今準備を進めている。

 

CPMI(Coronation Premium Manufacturing Inc.)

クラーク・フリーポートゾーンは、以前米空軍の基地があったところで、今は巨大な工場団地として発展している。ここで中国系資本CPMI(コロネーション・プレミアム・マニファクチャリング社)は靴メーカーとして操業している。ここも今年2月19日ALU-TUCPが団交権者確認選挙で勝利を収めた。しかも組織化に取り掛かったのが昨年11月だから1回の団交権者確認選挙で勝利できたわけだ。組合結成前の労働条件は悪かったと言う。例えば、「勤務時間が3時半までとすると、それから3時間超過勤務をすると昼休みから休憩時間なしで6時間働かなければならなかった。」さらに組合結成が明らかになると、就業中のトイレの利用まで、警備員がついてくることがあったと言う(ベルナデット委員長談)。ここでは組合委員長は二人いる。メルヴィン(男性)とベルナデット(女性)だ。2500人の職員中女性が72%を占める中、女性が委員長でなければ組合員の意見がうまく汲み取れないのではないかという考えで、メルヴィンに相談すると彼は快諾したそうだ。4月10日組合員達がクラークのALU-TUCP研修施設に集まり、これから提出する団体協約案を討論する会議があったので、参加した。これまでの会議では、職員の家庭環境や考え方などのマッピングを行い、どうすれば一般職員の半数プラス1名という団交権者となる資格を得るかに焦点が当てられていたと言う。今回は組合としてどのような協約を結ぶのかの内容の討論であった。協約案はレイが準備し、1項ずつ討論していく。現在の労働条件は、最低賃金(1日500ペソ)に超過勤務、日勤(7時半から16時)のみ、1か月無欠勤なら800ペソ、3か月無欠勤なら1000ペソのインセンティブ、昼食補助としてコメは無料などが利点としてあげられると言うが、どこまで改善を勝ち取れるか、組合員は張り切っていた。最後に、団交には組合から交渉員として15名とプラスALU-TUCPが同席することを申し入れることを確認し、閉会した。5月の第1週には団体交渉を行うということだ。

 

PPMI(Perpetual Prime Mfg.Inc.)

バターン半島のマリベレスにPPMI(パーパチュアル・プライム・マニファクチュア社)という企業がある。バターン・フリーポート・エリアという輸出加工区の中にあるこの会社はCPMIとは親子関係にある中国企業である。ここでもALU-TUCPは団交権者確認選挙に挑戦したが、1276票の有効得票数の内、組合支持は240名、不支持は834名で負けた。しかし闘いは始まったばかりだ。今後の活躍が期待される。

 

まとめ:自由で民主的な労働運動の学習過程にある中国企業

中国企業の組織化が目立つが、これには何か理由があるのだろうか。
この質問にレイは次のように答えた。「中国資本だからと言って、何か特別な理由があるわけではない。ALU-TUCPとしては、チャンスがあれば、どこの国の資本であろうと組織し、団交権者承認選挙に持ち込む。たまたま最近勝利したのが中国系資本だっただけで、昨年2つの韓国企業で団交権者確認選挙に挑んだが、2社とも我々は負けた、」「1970年代以降多くの日本企業で団交権者承認選挙を闘った。最近になって中国企業が進出してきたので、我々の組織化ターゲットになる例が増えてきたということだ。」中国資本もフィリピンでは自由で民主的な労使関係を学習せざるを得ないということであろう。

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ASEANブリーフィング

https://www.aseanbriefing.com/news/2023-foreign-investment-opportunities-in-the-philippines/

ソリダリティー・センター

https://www.solidaritycenter.org/philippines-garment-workers-fight-union-busting/