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バイデン政権が電気自動車政策をやや緩和, UAWも賛意を表明

2024.04.15掲載

3月20日のワシントン・ポスト(WP)とニューヨーク・タイムズ(NYT)などが「大統領選挙を控えて、全米自動車労働組合(UAW)への配慮から、バイデン政権は新車乗用車と中小型トラックの電気(EV)・ハイブリッド(HV)販売比率を50%以上に引き上げる目標を2032年へ延長した」と報じたが、新規制は米国の自動車産業を変革することになる。

地球温暖化対策を最重点に掲げるバイデン大統領は「3年前、私は2030年までに新車販売の半数を排ガスゼロにする野心的目標を立てたが、今回の提案はこの目標を達成しながら、更なる前進を目指すものだ。」と言明した。NYTによると、昨年のEV販売は120万台を数えたものの総販売の7.6%に過ぎず、新目標の56%に遠く及ばない。また、HV販売目標は16%としているが、WPは「従来提案の2030年までのEV目標は67%となっていたが、2032年までの新目標は56%、また、HV目標は13%となっている。」報じている。

アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)は「これが達成されるとこれからの30年間で二酸化炭素70億トンの排出が抑制できる。これはCO2最大排出国である米国の1年間の排出量と同量であり、その社会的利益は年間1,000億ドル、空気清浄化による健康への影響は医療費換算で年間130億ドルに達する。また1台当たりの節約は燃料代、維持費を含めて6,000ドルとなる。」としているが、その過程では自動車製造方法の変更、インフラ整備、技術変化、労働者、通商、顧客習慣を含めて巨大な変化が起きるであろう。

EV問題は政治的にも大きな争点となっており、トランプ前大統領は「地球温暖化は中国が作り上げたでっち上げだ」と主張してEVの生産中止を叫び、「11月の選挙に敗北すれば自動車産業に血の雨が降る」と言及、トランプ支援の米国燃料石油化学製造者協会(AFPM)は選挙のスイング・ステート、ペンシルバニア、ミシガン、ウィスコンシン、ネバダ、アリゾナ、オハイオ、モンタナ、ワシントンDCで大規模な反バイデンキャンペーンを展開しており、各州裁判所から最高裁までの法廷闘争も予想される。

しかしEPA規制は禁止規定ではない。平均的な燃費基準を定めて、ガソリン、HV、EV、水素燃料などを組み合わせた中で各車種の生産を選択するもので、2027年の新車モデルから適用となるが、基準を守れないメーカーには罰則がある。新規制について、殆どの新車メーカーが加盟する米国自動車イノベーション協会 (AAI)からは「目標達成には努力がいるが、将来はEVであり、段階的規制を歓迎する」との声明が出ている。

今回の自動車排ガス規制はバイデン温暖化4対策の中でも主要な位置を占めるが、2022年インフレ抑制法(IRA)と同様に、2030年までの排ガス半減、2050年までの排ガス実質ゼロを目指している。なお、法案が議会過半数で廃案とならないためには、大統領任期終了60日前までに成立させる必要がある。

今回の新規制提出に当たり、バイデン政権は前回提案を若干緩めることになったが、これは自動車メーカーおよび最大の支援労働組合、UAWへの配慮がある。
前回提案に対しては、各メーカーから設定時期が速すぎるとの苦情が強く、UAWも「EV生産により雇用が大きく失われる可能性と、組合の無い南部諸州に生産が移転する可能性を懸念」して、大統領選挙でのバイデン推薦を保留してきた。
そのUAWが今回の提案について「EPAは実行可能な排ガス規制に漸く行き着いた。これによりガソリン車生産の労働者が守られ、同時に排ガス減少に向けて各メーカーが自動車技術の全面改良に取り組む道が開かれる」とする声明を発表した。

他方、環境団体からは「EPAは自動車メーカー、石油企業、自動車販売店の圧力に屈して、大型排ガス車をこれからも存続させることになった」との批判があるが、EPA担当者は「新規制には従来と同じ削減効果がある。変更は政権の変化や裁判所判断にも耐えられるためのもので、環境を犠牲にしてはいない」と答えた。

しかし課題は大きく、昨年17万機が建設されたEV充電設備も2030年までには200万機以上が必要とされ、新車EV販売も、これからの8年間に10倍に増加させなければならない状況にある。しかし、連邦減税7,500ドルの奨励策にも拘らず、該当車種は昨年の24車種から現在は18車種に減少した。昨年20万台の配車待ちといわれたフォードのF150ピック・アップEV も走行距離の短さが明らかになるにつれ、売れ行きは2万4千台に止まった。有識者は「全ては顧客の選択だ。どの車を買い、どう運転するか、顧客のペースを変えることはできない」と述べる。