韓国、定年延長の論議で、労使や国会での対立が深まる
KOREA WAVE、聯合ニュース、中央日報(日本語版)では、高齢化がすすむ韓国で、定年延長の論議をめぐり、労使や国会での対立が深まっていると伝える。現在の法定定年年齢は60歳であるが、高齢者の就労困難と貧困拡大などが続くなかで、年金支給開始年齢を段階的に引上げ60歳超とする制度改正が動き出している。労働組合は法改正による定年年齢の引上げを求め、経済団体は他の方法が望ましいと反対している。国会では今年4月に予定される総選挙もにらみ、与野党間の政策論争の焦点となっている。
韓国では、2013年に、定年年齢を60歳とする高齢者雇用法が改正された。2016年に従業員300人以上企業で実施され、2017年からは中小企業を含めて施行された。しかし、韓国は2025年には60歳以上の人口が20%を上回る「超高齢化社会」に突入する見込みであり、現状では、高齢者は安定した雇用には就きにくい。このため、労働組合は、高齢者雇用制度を改め、法定定年年齢を65歳とするよう求めている。
経営側も高齢者問題の重要性は認識している。「韓国経済人協会」は、2023年11月、40歳以上の中高年求職者を対象とした調査を行った。それによれば、働きたい上限年齢の平均は68.9歳であるが、50歳未満で退職したものの割合は45.9%であった。退職後に再就職したものの66.8%が再就職をしていたが、定年退職は9.7%にとどまった。使用者側は、定年延長ではなく、再雇用などの拡大が望ましいとしている。
司法での動きもある。60歳定年の法制化に伴い、賃金カーブを引下げる企業がみられ「賃金ピーク制」問題といわれる。このうち、定年年齢を維持するものは「定年維持型」、延長するものは「定年延長型」といわれる。韓国の大法院(日本の最高裁に相当)は、2022年5月、「定年維持型」での賃金ピーク引き下げは無効の可能性があると判断、一方、2023年6月には「定年延長型」を採用した企業に関しては合法との判決を下した。
このような状況のなかで、政府の経済社会労働委員会(旧「労使政委員会」)では労働団体が委員を引上げる事態となっていたが、韓国労総(FKTU)が昨年11月に復帰、今年2月に論議が再開されたという。背景には、昨年11月に「国民同意請願制度(※)」に基づき、65歳定年法制化に関する請願が国会の委員会に回付されたことがある。これは、FKTUが、昨年8月から9月に行った請願が、国会回付の要件(国民5万人の同意)を満たしたことによる。一方、経営団体や与党は定年延長の法制化には強く反対しており、4月10日の総選挙を前に、労使や与野党の対立状況が続いている。
(※)韓国の国民同意請願制度:国民の請願に5万人が同意することにより、請願内容が国会の所管委員会に回付される制度。2020年から運用されている。