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英国の委託郵便局長の冤罪スキャンダル:その背景

2024.02.01掲載

 今英国で大問題となっているのが、富士通の完全子会社が開発したホライゾンという会計システムにより、多くの委託郵便局長が会計不正の嫌疑をかけられ、1999年から2015年までで実に700人以上の局長が窃盗や横領のかどで起訴され、有罪判決を受け、財産、名誉を失ったが、これが冤罪だったというスキャンダルである。この事件は2024年1月「ベイツ氏対郵便局」という4回のシリーズにドラマ化されて、テレビ放映され、相当評判となった。そして1月19日公聴会に出席した富士通欧州のトップ、パターソン氏は「ホライゾンには29のバグがあったことは、すでに1999年から分かっており、ポストオフィス(POL)にも言ってあった」と発言し、多くの無実の局長たちに「富士通としても賠償の一部を支払いたい」(ガーディアン紙2024年1月19日)と発言、ドラマが現実となった。

 

英国の委託郵便局長(サブポストマスター)の特殊性

英国郵便事業は世界で最も古い歴史を誇るが、2012年郵便や小包の配達、物流事業に従事するローヤルメール・グループと全国の窓口ネットワークを運営するポストオフィス・リミテッド(POL)に分かれた。そして2015年にはローヤルメール株式の90%を売却し、民営化されたが、POLは国営のまま残った。POLが持つ窓口ネットワークは直営店であるクラウンポストオフィスと委託局であるサブポストオフィスに分かれる。約1万1000局ある郵便局の内、クラウンオフィスは114局に留まる。委託局の局長は公募で、個人自営業者の扱いである。彼らは概して給料が安く、休暇や年金など個人自営業者が抱える問題を全て抱えている。ここに今回の問題の一つの背景がある。

委託郵便局長が入れる組織としては、英国でも強力な労働組合の一つであるCWUの委託郵便局長組織局と民間受託郵便局長全国同盟(NFSP)がある。CWUは、これまで委託郵便局長の組織化に力を入れてきたが、個人自営業者としての局長の性格から、組合には合わない部分も多く、組織化は困難を極め、彼らを代表しているとは言い難い。これに対し、NFSPはクラブのようなもので、POLとしては対応しやすいため、意思疎通は専らNFSPによって行われてきた。NFSPの活動費もPOLが払っていたという話もある。今回のスキャンダルで、NFSPは完全にその体面を失ったと言える。

41年を郵便局と共に過ごし、1988年から委託郵便局長となり、NFSPの役員、CWU委託郵便局長組織局書記として働いたマーク・ベーカー氏の話がある。「POLの打ち出す政策にチャレンジしようと提起すると、NFSPの執行部は直ぐ動揺した。私がメンバーの意見を取り入れようとすると、他の執行委員はすぐ反対した。。。。ホライゾンが導入された時もそうだった。すぐホライゾンによる会計上のミスが報告されたが、NFSPの私以外の他の役員の意見は、ホライゾンが間違えるはずがないというものだった。。。そして私はNFSPを去り、CWUに話を持って行った。当時のビリー・ヘイズCWU書記長は、私の話を聞き、委託郵便局長を組織化しようという決定を下した。」(2019年1月3日「組合員の立場から書く」)

今回の立役者:JFSA(委託郵便局長に正義を)結成と勝利

2009年11月アラン・ベイツ氏が呼びかけ、ホライゾンで問題を抱え、犠牲になった委託郵便局長を結集した組織がJFSAだ。当初は30人だった。導入してすぐホライゾンは問題があることが明らかになった。どうしても計算が合わない例が続出したのだ。これをPOLに言うと、「そんなことを言うのはあなただけだ。ホライゾンの通りに仕事をして下さい」という回答しか得られなかった。多くの委託郵便局長がPOLから、金が会わない場合、自分で払うように言われた。払えなければ、窃盗の容疑で訴えられた。その数はうなぎのぼりだった。たいていの委託郵便局長は一人で頭を抱えていた。委託郵便局長の収入は低く、不足額を支払うのは大変だったからだ。2015年ベイツ氏は法律事務所と相談、いよいよPOLを訴えることとした。2017年には550人の委託郵便局長による集団訴訟が開始された。「この事件の痛みは大きい。4人の委託郵便局長が自殺、12人が判決を得る前に亡くなった。この件がもたらしたストレスから離婚、発病に至るケースも少なくなかった。収入の減少、酷い場合は破産と言うケースもあった。」(インデペンデント紙2024年1月8日)裁判はJFSAの勝利に終わり、この結果、これまでのところ「93人が有罪判決を取り消されており、「全面的かつ最終的な」補償で和解した人は30人。その一方、そのまま有罪が維持されたり、上訴が認められなかったり、上訴を諦めたりし、汚名を晴らせぬまま死去した人も少なくない。」(JP労組ポスタルニュース2024年1月号外)

問題はどこにあったのか

1月23日付読売新聞社説は、「富士通の監督責任も問われる」と題し、「多数の郵便局長らが窃盗や横領の疑いで起訴される中、なぜシステムに欠陥があることが公表されなかったのか。POLはなぜ間違った情報を基に責任追及を続けたのか。真相を明らかにすべきだ」と書いた。そして富士通は「しっかり保障に取り組んでほしい」とした。

海外のM&Aが本当に正しかったのか、買収後の統治を現地に任せっぱなしで、上がってくる数字と事後報告だけで満足していなかったかなど、我々労働組合としても反省し、今後よくチェックする必要があろう。

又英国の郵便制度の中で、委託郵便局制度という特殊な制度のもと、安易に個人自営業者に局の運営を任せることが、逆に不信感を醸成し、POLにホライゾンを妄信させる結果になったとも言えないだろうか。

さらにこの事件は、現代において、もう後戻りは出来ないとは言え、コンピューターを妄信することの危険性を白日の下にさらしたとも言える。

英国の委託郵便局長の冤罪事件は多くの教訓を我々に与えている。