活動報告 各国の労働事情報告

2023年度 メキシコの労働事情(中南米チーム)

2023年10月20日 報告
本労働事情については、ナショナルセンター・参加者から提出された資料に基づき「労働事情を聴く会」、参加者との意見交換を基にまとめたものである。

 

参加者情報

メキシコ労働組合連盟(CTM)
 ・メキシコ電機労組
 ・ハリスコ州労働者連盟

労働者全国連合(UNT)
 ・メキシコ航空パイロット組合連合ASPA

 

1.はじめに

 2019年5月、連邦労働法の労働組合に関する規定に関して大きな改正があった。第一に労働組合結成時に登録が必要となり、そのために法定の書面の提出が必要となった。第二に労働組合が使用者と締結する労働協約も、その登録が必要となった。これにより法定の書面の提出が必要となり、さらに登録された労働協約が当局に公開されることとなる。第三に使用者による労働組合に対する干渉の禁止が厳格化された。上記のうち第一と第二の点はこれまでは経過措置期間であり全面運用されていなかったが、2021年11月3日をもってメキシコ全域において全面的に運用開始されるに至った。また、従前存在していた労働協約も、2023年5月1日までに改正後の連邦労働法の定めに則って承認される必要があるとしている。
以下、本レポートは今回の参加者からの報告要旨をまとめたものである。

 2019年の労働改革で、メキシコ・カナダ・アメリカ合衆国自由貿易協定から発して、労働関係については、三者構成でなく法律で定められることとなった。労働協約については、労働者全員の投票で、契約内容に合意するかどうかを決めるプロセスを実施しなければならなくなり、その投票は企業の敷地内で行われなければならないと当局は指摘している。また、このプロセスが正しく行われていることを証明するため、労働・社会保険省の職員が立ち会わなければならない。プロセスが終了した後、議事録と結果が連邦調停労働登録センタ(CFCRL)に提出されなければならないとなった。

 

2.メキシコの労働事情

(1)社会保障制度

 ◎直近の課題

 2017年、連邦労働法第132条が改正され、子どもが生まれたとき、または児童を養子に迎えたときに、男性労働者に5日の有給育児休暇を与えることが経営者側の義務と定められた。休暇は子供の誕生日から、または児童を養子として受け入れた日から数えられる。2023年、この育児休暇を5日から20日にしようという案が提出されたが、これは連邦議会での交渉で通らなかった。しかし議会任期終了(2024年9月)までには、この日数が増やされると見られている。社会保険法も改正され、LGTBコミュニティのカップルにも医療保険が保証され、保険料を払っている労働者である両親や、子供の親権を持つ(死別または離婚した)片親に勤務時間中の保育サービスを受ける権利が与えられるようになった。

(2)直近発生した問題視されている労働争議(その1)

 2021年、コリマ州労働者連盟で、メキシコ労働組合連盟(CTM)加盟労組と労働者農民革命同盟(CROC)加盟の労組の間で問題が生じた。CROC側の労組は、スーパーマーケットチェーン会社との集団契約の名義人であることを主張した。この場合、連邦労働法では、名義人でない者が集団労働契約訴訟を開始した場合、罰金が課せられるか、労働裁判所がこの労組の登録を解除する可能性があるとされていた。労使双方の主な主張は、確実かつ安定した仕事、労働者と家族のための社会保障への権利、法定最低限度を上回る日給と休暇日数、労働者への交通費補助、法定日数以上の妊娠出産休暇、生涯教育のための訓練と支援、メガネ用補助金支給、メキシコ社会保険庁と国立労働者住宅基金庁への保険料を実質賃金ベースである。

(3)その労働争議の経過と結果(その1)

 労使紛争はおよそ8ヶ月続き、当事者の間で作業会合が持たれ、そこで労働者側は2種類の集団労働契約に記載された手当の額を比較することができた。経営者側と対話を進め、当局は2労組に証拠の提出を求めた。労働者は自由で直接の秘密投票を行うことを決め、コリマ州労働者連盟が集団労働契約の名義人であるという結果になった。

(4)直近発生した問題視されている労働争議(その2)

 カボタージュで、メキシコ政府は外国の航空会社が フェリペ・アンヘレス国際空港(AIFA)からメキシコ国内の他の目的地に運航することを望んでいる。カボタージュとは、外国の航空会社が自国ではない国の国内線を運航する、つまり、その国の航空会社のみが独占する、または独占されるべき路線を運航することを意味する。世界のほとんどの国では、カボタージュは禁止されている。カボタージュを許可する国の経済、産業、主権に損害を与えるからである。しかし、AIFAは経済的視点からは航空会社に何の魅力も提供しておらず、外国航空会社は需要の高い他の路線の運航に興味を持ち、つまり、収益性の高い空港間の運航を求めている。この争議は、メキシコの労働者と航空業界が危機にさらされているというものであった。

(5)その労働争議の経過と結果(その2)

 カボタージュに関する民間航空法改正案の承認を阻止するための パイロット組合連合(ASPA)の戦略は、議員に接触して働きかけ、この問題について説明して認識を高めるとともに、雇用が失われる深刻な問題や、労働者やその家族への経済的な悪影響、さらには、航空部門の労働者から税金が徴収できないことから政府にも経済的損失が出ることを説明した。協会、労働組合、航空学校、航空管制官と提携し、国内航空防衛戦線(FDAN)で団結したことで、この部門のより多くの人々がこの運動に参加するようになり、運動は力を強めた。さらにメディアへの協力を求め、メディアでより多く扱ってもらうことができ、カボタージュの悪影響を国民に説明することができた。メキシコ大統領は5か月間行われた作業を受けとめ、民間航空法案からカボタージュを除外することを決めた。

(6)労働法制

 2019年、連邦労働法、連邦司法権基本法、連邦公選弁護法、国立労働者住宅基金庁法、社会保障法が改正された。この改正により、労働者はより自由で民主的に労組代表者を選ぶことができるようになり、労組の透明性や報告も増えた。さらに、労働におけるあらゆる差別を予防する規則も定められた。農業労働者や家内労働者の権利も規則で定められている。2021年の法改正により、リモートワークを行う従業員の権利と義務が連邦労働法に定められた。2022年、メキシコを国際標準に近づける別の改正が行われ、入社初年度からの年次有給休暇の最低が12日とされた。勤続20年まで、年間2日ずつ増やされる。その後は5年ごとに2日ずつ増えることとなった。