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UAW(全米自動車労組)が3社の各1工場を標的にストライキ

2023.10.06掲載

9月14日付のワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズなどが一斉に「UAWがデトロイト3社に対しストライキに入った」と報じた。

ただし、スト対象は各社1工場で、フォードはミシガン州ウエイン工場、GMはモンタナ州ウエンツビル工場、ステランティス社はオハイオ州トレド工場の総勢12,700名がストライキに参加している。

国民総生産の3%を占める自動車産業のこの事態に、バイデン大統領はジュリー・スー労働長官代行とスパーリング上級補佐官をデトロイトに派遣して、交渉促進支援の姿勢を示し「会社側にかなりの譲歩が見られるが、業績面には未だ譲歩の余地がある。利益はUAWと分かち合わねばならない。」と述べた。

UAWフェイン会長は大統領発言について「大統領は交渉中断と述べたがそうでない。労使は懸命の交渉を続けている」と述べて発言の一部を非難しつつ「労働者に恐れはない。恐れる者はだれか? それは報道各社、ホワイトハウス、企業だ」と言明した。
今年初めにUAWが大統領再選へのバイデン支援を保留したときからフェイン会長とバイデン大統領の緊張関係が続いているが、会長は「バイデンは実績で示さねばならない」と発言した。

協約交渉ではUAWが4年間で36%賃上げを要求しているが、会社側は4年半の労働協約で17.5%ー20%を回答、フォードは80年来の最高、GMは115年の史上最高の賃上げと説明した。
その他の会社回答には、現在の二重賃金における初任給から熟練賃金への昇給促進、パート・タイム労働者への待遇改善などがあるが、フォードは、パートタイム90日後のフルタイム昇進、GMとステランティスは、パート初任給の20%引上げによる20ドルを約束した。
他方UAWの要求には、二重賃金制度の廃止、週32時間制、物価調整手当の復活、現行の401(K)確定拠出に代えての確定支払年金の復活、退職医療保険の会社負担などがある。

これに対しフォードのファーレーCEOは「4年前、組合要求に応えていたら会社は150億ドルの赤字で倒産していた。労働者を支援するのに会社倒産を選べというのか。これ以上は無理だ。組合要求に全面的に応じるとすれば、EV投資は出来なくなる」と発言。自動車各社は労働コストの大幅上昇やストライキの長期化は数百億ドルを必要とする電気自動車(EV)への移行を困難にさせると主張している。

今回の3社を対象にしたストライキはUAW最初の試みだが、ステランティス社のトリード工場ではJEEPの生産に5,800名、GMウエンツビル工場ではシボレートラックやバン製造に3,600名、フォードのウエイン工場ではレインジャートラックなどの生産に3,300名が従事している。ストライキ労働者は今、会社賃金でなくUAWストライキ基金による週500ドルに頼っているが、フルタイム労働者の賃金は現在、時給18ドルから32ドルの間にある。

その他にも、ストによる生産停止で影響を受ける他工場の労働者も一時失業を余儀なくされる。大きく影響を受けるのは納入部品企業で、コロナ災禍から立ち直れない企業もある中で、政府は部品企業の救済策を検討中と言われるが、部品企業は弱い体質にある。

デトロイトに派遣されたスー労働長官代行は昨年の鉄道労使交渉や米国西海岸の港湾労使交渉に関与し、スパーリング氏もバイデン大統領の連絡役としてUAWに関与してきている。
その中で、フェイン会長は「過去4年間に各社経営者は巨額報酬を得てきた。労働者にも同様の報酬があるべきだ」と主張する。事実GMのバラCEOの報酬は34%増加の2,900万ドル、フォードCEOも21%増の2,100万ドル、ステランティスCEOの昨年年収も2,500万ドルと言われるが、UAWは「労働者の賃金はインフレに追い付かず、消費者物価は4年前から20%上昇する中、ビッグ3の初任給は10ドル低下した」と指摘する。

さらに15日のNYT は、従来の特定1社の全工場対象のスト戦術から3社各1工場を目標にした今回ストへの戦術変更について触れ、「高利益車種の生産を阻害することで会社に圧力をかけながら、多くの工場での生産を継続することで組合員の収入を維持できる。8億2,500万ドルのストライキ基金を長期間使い、有効に圧力をかけ続けることが出来る」と報じた。

他方、カリフォルニア大学の准教授は「長年低所得に置かれた労働者が経済保障と団結に向けて、方向性を見出し始めている」と述べ、デトロイト下町のUAW集会に招待されたバーニー・サンダース上院議員(独立)も「今のUAWの戦いは自動車労働者のためだけでない。企業の貪欲性に対する戦いだ」と言明した。UAWが勝利すれば、労働気運が高まる他産業をさらに刺激することになる。

また、販売在庫については、パンデミック時の半導体不足による不足が徐々に解消している現状だが、それでもステランティス社ではダッジやクライスラー・ブランドで在庫100日を抱えており、ストライキが在庫解消に役立つ側面もあるが、同時に自動車価格の上昇が消費者物価の上昇を招き、経済運営を難しくさせる怖れもある。