全米自動車労組がスト権確立
8月24日付のワシントン・ポスト、25付日のニューヨーク・タイムズ、ウオールストリート・ジャーナルなどが「全米自動車労働組合(UAW)は9月14日に期限切れとなる4年労働協約の改定交渉を控えて、97%の圧倒的多数でスト権を確立した」と報じた。
UAW組合員146,000名が対象となる自動車会社はゼネラルモーターズ(GM)、フォード、ステランティス(FIATクライスラーとプジョーの合併会社)の3社だが、過去10年間に高額の利益を上げており、新執行部に選出されたフェイン会長は「今までの譲歩を取り返す時が来た。団結だ。恐れることはない」として、高額の賃上げ、物価調整手当の復活、年金・医療手当の改善を強く打ち出している。これに対し会社側が過去の協約に戻る可能性は低く、ストライキの可能性は高い。
フェイン執行部は今年初め、従来の代議員制選挙による旧執行部に代わり、組合員の直接選挙により僅差で選出されたが、全米各地で組合員集会を開いて団結を呼びかけている。
過去20年間、協約交渉時にこのように頻繁に組合員の集会が開かれることは稀であり、ステランティス工場前でピックアップトラックの荷台に立ったフェイン会長は100名の組合員を前に「我々は数百万ドルを要求しているのではない。公正な分け前を要求しているだけだ」と結束を呼びかけた。
新会長は今月、各社に書簡を送り要求項目の一覧を示したが、要求には週4日労働、40%の賃上げ、更には時給16ドルの初任給に始まり熟練賃金の32ドル到達までに数年を要する二重賃金解消の問題などがあるが、過去4年間に各社経営者が高額報酬を獲得していることも念頭にある。
最近の賃上げの動きとしては昨24日、オハイオ州のGMと韓国LGエナジーの合弁会社がUAW1,900名を対象に25%賃上げに応じた事例があるが、フェイン会長は同社の低賃金16ドルを従来から非難していた。同社の最高賃金は 20ドルであり、協定は3社とは別建てである。
3社としては、数百億ドルに上る電気自動車(EV)移行への投資を迫られる中、国内ではEV主力の電動輸送機器やクリーンエネルギー関連企業であるテスラや欧州、アジアからの非労働組合各社との競合に曝されて、労働コストは極力抑えたいところと言える。ある調査によれば、賃金や諸手当を総計した労働コストはデトロイト3社が時間当たり64ドルと言われるが、トヨタなど海外からの非組合企業は55ドル、テスラでは45~50と見られている。
他方政治面では、バイデン大統領がUAWのストライキを懸念してUAWとも相談を重ねていると言われる中、「EV移行が雇用を犠牲にしてはならない。また、代替される仕事には必ず新しい仕事が用意されねばならない。同時に新たな仕事の賃金は、前の仕事と同額以上でなければならない」と主張している。
しかし、UAWはバイデン自動車政策に労働組合支援条項が不足しているとして、次期大統領選挙へのバイデン支援を保留する中、トランプ前大統領はUAW応援の秋波を送っている。
EVへの投資を迫られる3社だが、業績は好調に推移しており、GMは今年度利益について前回発表を10億ドル上回る93億ドルに上方修正、アムステルダム本社のステランティスも今年6カ月で記録的な利益110億ユーロ(119億ドル)を計上、フォードも今年の税引前利益110~120億ドルを予測しており、利益のほぼ全てを北米で挙げている。
UAWの協約改定交渉については、伝統的に交渉相手を特定1社に絞りストライキのターゲットにもしてきた。今回の公式決定は無いものの、可能性が高い会社として、フェイン会長はステランティスを挙げている。
こうした中、同社はフェイン会長の要求に回答書を送り、医療保険の労働者負担増額、年金基金への会社負担減額、工場閉鎖の際の事前通告期間の縮小を通知した。これに怒りを見せたフェイン会長はビデオメッセージでステランティス回答書を屑籠に投げ込み、「回答は屑籠に行くのが当然」と発言した。これに対し同社のスチュワート北米COOは従業員向け書簡で「フェイン会長には心から失望した。芝居じみた個人的な中傷からの合意はない」と言明。
同社とUAWとの緊張関係は、2021年のクライスラー・プジョーとの合併時から始まり、イリノイ州のジープ工場閉鎖でさらに悪化している。