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米国下院議会が下院職員労組の結成と団体交渉権を承認

2022.05.27掲載

5月10日のニューヨーク・タイムズ(NYT)、ワシントン・ポスト(WP)および11日のウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が「下院議会が下院職員労組の結成と団体交渉権を承認した」と報じた。

下院議会の決議は賛成217票・反対202票で可決されたが、上院議会や大統領の承認は必要ない。決議起案は民主党のレビン議員(ミシガン州)による。
労組承認投票はペロシ下院議長により予定されたが、同議長は同時に最低給与を現行の23,000ドルから45,000ドルへ引上げ、給与最高額を203,700ドルに引き上げることを提案した。同議長は昨年、従来の給与最高額174,000ドルを199,300ドルへ引き上げている。議会所在のワシントンDCでは家賃の上昇もあり、25,000ドルでは生活できないと言われる。

これに対し共和党は反対の議論は控えたものの、労働組合は現在の議員事務所の機能を阻害し、予測しえない状況を作り出すとして反対である。下院では現在435の議員事務所が議員各人の裁量で活動している。ある共和党議員は「労働組合が中間所得層の育成に大事なことは分かるが、下院議会では機能しない。議員事務所や委員会に労働組合を持つことは機能不全をもたらす。低給与が問題視されるが、団体交渉による賃上げは連邦法上出来ない。逆に職員は高い組合費を天引きされることになる」と述べた。

数千名に及ぶ議会職員の間では若年層を中心に低給与、長時間労働、困難な労働環境への不満が高まっており、フルタイムの正規職員が高給与を目指して民間企業などへ転職する動きが強い。
スタッフの間では各種不満がインスタグラムを通じて広まり、議員事務所での不当な扱いなどが表面化したが、それでも報復を恐れて匿名を希望する者が多い。NYTの記事のなかで、ある職員は「労働組合は労働条件の改善と経験労働者の確保に繋がり、議会機能が改善する。過去30年間のなかで最良の出来事だ。共和党は反政府感情に乗じて、長年にわたり給与を低額に抑え、経験豊富な職員を民間企業へ追いやってきた」と語る。

今年始めに結成された下院議会労働組合(CWU)は「この歴史的瞬間は組織委員会の不断の努力なしには実現できなかった。職員も勇気を出して恥ずべき労働環境を指摘し、生活賃金と尊厳ある労働条件及び平等のために声を挙げた」とする声明を出した。

WSJによると、決議により各議員事務所や各委員会が交渉単位となって、給与や昇進、各種休暇などが交渉される。一方、全体の労使関係を司るのは下院議会労働権利局で労組選挙の管理、団体交渉単位の決定、不当労働行為の審査などに当たる。

共和党が労働組合を不必要だとするのは、各議員事務所が労使交渉を行う混乱、また共和党が下院多数を占めた場合の労組取り消しの予測である。健康保険や退職年金、そして問題視される低給与も連邦法が定めており、議員事務所の交渉範囲は狭い。
なお議員事務所の定員は最高でフルタイム18名、パートタイム4名であり、労組承認には最低30%の賛成の後の全員投票で、過半数の賛成が必要となる。

1995年の議会運営法(Congressional Accountability Act)では上院、下院職員の労働組合結成が認められ、現在は警察労組、造営労組、ガイド・サービス労組が活動しているが、議員事務所や各種委員会での労組結成には各議会の決議承認が必要とされている。
WPによれば、今年2月に決議案が発表された時、民主党では165名が賛成したが、今年11月選挙で困難が予想される57名は署名に応じず、予想以上の日時を要したため、CWUは民主党指導部に対し直接、決議上程を要求する事態も起きた。

各議員事務所は年間の議員手当(MRA)を支給されて、スタッフ給与、議員旅費、事務所経費などを支出する。下院では昨年、職員確保のために21%のMRA増額があったが、それでも新規採用職員の給与は多くが30,000ドル以下に止まる。そのため民主党はMRAについて年間4.6%の自動物価調整を要求しつつ、職員への児童手当の補助増額などを働きかけている。WPによれば、民主党のキムラー議員(ワシントン州)は「米国議会が国内外の複雑な情勢に対応し、問題を解決するには有能な人物の採用と育成が重要だ」と語る。

一方で、様々な実際の展開として個々の議員事務所ごとにどのような労使協定が結ばれるのだろうか。想定されるのは、規範的な労使協定が作成され、個別には多少の変更がありながらも、それが各議員事務所で横断的に採用される可能性である。しかし、実際に運用されるとなると様々な懸念がある。

  • 党派を超えた協定になるのか、民主党・共和党で分かれた協定になるのか
  • 予測される共和党議員からの反対に労組不成立事務所がでるのか
  • 共和党が下院多数を占めて今回決議を否決した場合に、どう対抗できるのか
  • 各種委員会の改廃による所属職員の雇用関係はどう扱われるのか など

日本の公設秘書3名とは異なる20名以上の職員を持つ米国議員事務所の労使関係だが、実施に無理があるとする指摘もある中、様々な変遷が予測される。