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(1)フランス外交官の6労働組合がストライキ、(2)米国西岸の労使交渉にロボットなどの自動化が大きな課題

(1)フランス外交官の6労働組合がストライキ

5月31日のニューヨーク・タイムズ(NYT)、6月2日のフランス24などが「フランス外務省の6労働組合、及び500名の若手外交官がマクロン大統領による外交官資格の変更、予算削減などの外務省改革に抗議して、6月2日にストライキを実行した」と報じた。東京や中東など世界各地の大使館を巻き込むもので、フランス史上2度目、20年来のことである。

変更は去る4月に再選を果たしたマクロン大統領が布告したもので、「2世紀にわたる外交官取扱資格を変更して、上級シニア外交官800名を他行政部門の上級公務員と同一区分に置き、その中から互換性をもって外国大使や各省庁の部署長などを選任する」とする。

フランスは米国、中国に続く世界第3位の1,800名外交官と13,500名の外務省職員を持つ。
しかし、新取扱いにおける外交官の姿は長年にわたりロシア語や中国語など難しい言語、および世界事情を習得する本来の外交官の姿ではない。外交官は単なる仕事ではなく、天職を選び、特定の生活を選択することだと言われている。或る外交官は「世界200か国と対話、交渉しながら平和を維持する外交は即席では出来ない。専門性を要する仕事だ」と述べる。

ロシアによるウクライナ侵攻という戦乱の中、特に外交力が必要と痛感されるこの時期に、フランス外交の中核を変更する決定には一般外交官からも強い怒りと困惑が映し出された。大統領決定に反対する500名の外交官はルモンド紙に「決定は有能な人物を活用するものでなく、思い込み指名で経歴と経験を無視することで、職業外交官消滅の危機を招く」とする寄稿を掲載した。
ストライキの労働組合も「一般職員を含めた幅広い協議を要求する。欧州に戦乱が勃発したこの時期に外交の力を削ぐような今回の決定はナンセンスだ」と抗議した。こうした抗議の背景にはまた、過去30年で外務省職員が半減した事情がある。

これに対し政府は「変更は凝り固まった伝統とそれに付着した身分制度を打破して、能力主義への道を開くものであり、フランスの現実に沿った多様な可能性を開くものだ。縁故主義にはならない。適応と開放性を拡大するものだ。外務省から農業省への異動希望者が外務省への再復帰も有り得る」と反論する。

マクロン大統領は任期2期目に当たって、従来のエリート政治の変革を掲げ、2018年の”黄色いベスト運動”の後も存続する圧倒的に白人かつ男性支配のクラブ的政治の開放を公約した。黄色いベスト運動は(炭素税引き上げに固執したマクロン大統領に抗議して大規模化した=筆者註)、エリート都市部と看過された周辺地域・農村部との経済環境の亀裂を映し出すものであった。

他方、NYTはアロー元駐米大使の言葉として「今回の決定にはマクロン政策反対者への懲罰の匂いもある。彼は古いフランスを大胆に変革する創造的破壊に取り組み、2019年にはプーチン融和政策を試みるなどして反対された。彼のスタイルはトップ・ダウンで個人色が強い。自分自身が名門学校出身にも拘わらず、エリート結社政治の打倒を言明した。フランス外交のアメリカ化も心配で、外交官が大統領の個人的好みで選ばれることになる。ロンドンやローマには大統領の友人、職業外交官はブルンジ派遣などという、大物大使ポストが高額献金者に与えられる事態もある」とする懸念を伝えた。

(2)米国西岸の労使交渉にロボットなどの自動化が大きな焦点

6月9日のウォールストリート・ジャーナル(WSJ)及び5月25日のブルームバーグ・ニュースなど米国各紙が、「5月10日から始まった米国西海岸の労働協約改定交渉で、ロボット導入など港湾業務の自動化が大きな焦点となっている」と報じている。

国際港湾倉庫労働組合(ILWU)は米国西海岸の29港湾に働く22,400名を代表する。現在、7月1日に期限切れとなる6年協約の改訂交渉に入っているが、世界的な貨物輸送増大を背景に、供給網の混乱を招いているボトルネック問題解消のためにも、効率的な輸送システムが急務な中の交渉であり、また西海岸は米国通商の玄関口という重要な意味も持つ。

港湾労組は近年の労使交渉で、自動クレーンや自動運転装置などの要求には抵抗しつつも、出来る限り受け入れてきたが、自動化が雇用を奪うという認識に変わりはない。自動化は物流倉庫や各工場、配達ドローンなど各所で進んでおり、港湾作業の雇用削減の脅威も増大している。東海岸とメキシコ湾岸地域を組織する国際港湾労働協会(ILA)も同様の懸念を抱いており、ロボット採用の限界を明確にするよう要望を出している。

他方、マースクやCOSCOなど70企業を束ねる経営側の太平洋海事協会(PMA)のマッケンナ会長は、「重要拠点であるロサンゼルス(LA)とロングビーチ(LB)の自動化は滞貨解消に必須だ。出来なければ中国や欧州に対抗できない」と主張する。またWSJによれば、業界関係者は「欧州とアジアの港湾では自動貨物取扱いが既に24時間稼働している。米国に時間の余裕はない。2028年には設備が限界に達する。それ以上は自動化しか方法がない」という。
また、先月PMAが発表した報告は「パンデミックの期間中、LAとLBの最新鋭自動化設備では、近隣の従来設備に比べて2倍のコンテナが処理できた」と述べている。

ILWUは2008年と2014年の交渉で、自動化を受け入れつつも抵抗した結果、LAとLB近隣のコンテナ・ターミナル13港湾のうち、2か所で完全ないし部分的自動化、更に2か所で自動化計画が立案された。2014年のストライキは経済に大きな傷跡を残した後、協約が締結されたのは翌年であった。2019年期限の協定はその後2022年6月まで延長されている。
なお、ILWU組合員の平均時給は46.23ドル、40時間労働で年収は96,000ドルだが、カリフォルニア州の家計の中央賃金は79,000ドルである。

他方、世界銀行およびS&Pグロ ーバルマーケットインテリジェンスは「昨年の世界港湾設備の効率について、LAとLBはルアンダやアンゴラ、南アフリカと並んで世界最低であった。最高は中近東及びアジアにある」と指摘している。

全米小売業協会(NRF)では「物流促進の技術導入には賛成だが、経済が未だ脆弱な今、労働争議で再び物不足に陥ることが心配だ」と語る。一方、PMAのマッケンナ会長は「7月1日までに合意出来るかどうかは問題でない。時間が掛かっても合意出来るかどうかが、問題だ」と述べている。