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困難をはねのけ前進するジョージアの労働運動

2022.10.26掲載

本原稿は、本年6月の招へいプログラム(オンライン)におけるジョージア労働組合総連合(GTUC)の参加者からの情報提供、また執筆者が10月初旬にジョージアを訪れ、労組関係者との意見交換等を通して得られた情報等をもとに作成したものである。

概況

ジョージアは、アゼルバイジャン、アルメニアと共にコーカサス山脈の南側、ザカフカースと呼ばれる地域にあり、面積は北海道より一回り小さい。今から8000年前に欧州で最初に人間が住み始めた地域と言われるだけあって、観光資源は至る所にある。以前は比較的物価も低く、安価に旅行できる居心地が良い国として有名だったが、今は円の急落により、日本と変わらない物価水準となっている。特にこの国が観光業に依存していることから、GDPの落ち込みは、マイナス6.1%となった(2021年度統計)。この国のもう一つの特徴である第1次産業の人口構成比率が高い(42.4%)ことが、コロナ禍によるサービス業全体(総人口の44%を占める)に対する打撃の中にあっても、この国を生き残らせたと言えよう。現在旅行者は回復しつつあり、首都トビリシの街は多くの旅行者で溢れかえっているが、3年前と比べるとまだまだ少ないそうだ。第2次産業は13.5%しかなく、経済基盤が弱いと言える。労働者は一般的に仕事を変えることが多いが、これは経済基盤が弱いので、一つの会社に勤めるといつつぶれるか分からない、それで常日頃から新しい就職先を探すからだと言う。一人当たりの国民総所得は約4690ドルである。
ジョージアが抱える深刻な問題は頭脳流失である。80万人から100万人のジョージア人がロシアに住み、さらにドイツ、ギリシャ、米国と言った順で続く。これらの国からの送金が年間15億ドルを超えると言う。この背景には、国内の低賃金があり、最低賃金は1日22ラリ(約1320円)という。例えば、ジオセルと言う携帯会社で今導入しようとしている賃金体系では、基本給は月400ラリ(約2万4000円)で、ボーナスでこれを補完するという(スリコ通信労組委員長談)。トビリシの2021年度上半期の平均月収は1256ラリ(当時4万4000円現在7万5360円)というから、400ラリはかなり低い。これに対し、年金の受取額は65歳で85ドル~100ドル、70歳に到達すると150ドルになると言う(地下鉄労組での聞き取り)。これではとても生活できないので、年金生活者も何らかのビジネスに従事している。それ故に、家族が中心的単位であり、持ち家があり、家族が多ければ、なんとか食べていけるそうだ。しかし失業率は高く公式統計で20.6%(2021年)である。

労働法の改悪

2003年バラ革命でシェヴァルナゼ大統領が辞任すると、サーカシヴィリ氏が大統領となる。彼は「シンガポール型発展」を標榜し、急速な自由化、民営化施策を推し進めた。今年6月のJILAF招へいプログラム(オンライン)において、ジョージアからの参加者が繰り返し語っていた「かつてない労働法の改悪」は、2006年に彼の下で進められた。当時社会的な要求は全て「ソ連邦時代の遺産」として葬り去られ、ビジネスの利益ばかりが強調された。例えば2006年の労働法では事前の通告抜きで労働者を解雇でき、労働監督官も廃止、さらに週休、超勤の上限規定、シフト勤務の間の休憩も廃止された。これらが海外投資を呼び込む理由だけで導入されたのである。当然揺り戻しが起こり、2012年野党連合「ジョージアの夢」が政権を奪取する。ようやく社会的要求にも注意が向けられるようになり、労働組合も息を吹き返した。2018年6月には、トビリシ地下鉄の労働者が賃上げでストライキを行い、裁判で4年かけて勝利を勝ち取った。さらに今年1月には社会福祉関係労働者のストライキが行われたと言う。(2022年JILAFユーラシアチーム報告)
2020年6月、新しい労働法が国会に提出された。これまでの労働法に対し、今回の労働法はILO基準にも合致した内容だと言う。運輸労連副委員長のマムカ・ニコライシビリ氏によると「2020年の新しい労働法によって、ようやく普通の労働法を我々は手に入れることが出来た。今後はこれを改革していけばよい」とのことで、いかに2006年の労働法が異常であったかが分かる。
2006年の労働法の下、ナショナルセンターGTUCは10万人の組合員を失ったとGTUC会長のイラクリ・ペトリアシビリ氏は述べる。組合員の減少は、この間大きく進んだ。例えば、通信労組では、スリコ・マシア委員長によれば、「1990年に3万5000人いた組合員が現在では1200人まで減少した」と言う。テレコム部門の技術革新と郵便部門の離反が原因だ。

郵便労働者の通信労組からの離反

ジョージアの郵便局員が通信労組から離反した経過は特に深刻だ。相次ぐ通信労組との裁判闘争で敗北を重ねた経営側は、腹を立て、労働組合の権利を侵害し、「郵便発展のための基金」という組織を立ち上げた。全職員はこの組織に加盟費を払うことを義務付けた。明らかな不当労働行為だが、これについて話し合うことすら経営側は拒否している。これに対し、組合側は裁判に訴えているが、まだ結論は出ていない。GTUCの幹部の一人、ラーシャ・ブリアーゼ氏は「新労働法により労働監督官が復活したとはいえ、その活動はまだまだお粗末である。この郵便局の事例さえ見逃しているのだから」と怒りを隠さない。(「カフカ―スキイ・ウーゼル」紙2017年5月26日号)グルジアの郵便局はサカルトゥエロ・ポストと言い、国の関与が強い株式会社である。従業員は2600人と言う。

金属労組の定期大会開催

今年10月2日、金属・鉱山・化学労組の大会が小コーカサス山脈にある避暑地バクリアニで開催された。この大会は4年に一度開催される大会で約200名の代議員をもって開催され、他労組からも多くのゲストが参加、運輸労組からもアラニア委員長が参加するなど、GTUC主要組合のオンパレードと言う状況であった。国外からはトルコ金属労連の代表が参加していた。ジョージア金属・鉱山・化学労組の委員長は、JILAFの2015年の招へいプログラムにユーラシアチームとして参加していたタマツ・ドラベリーゼ氏である。彼はこの4年間の総括をビデオで振り返ると共に今後の展望を話した。環境問題が特に強く意識され、CO2削減が待ったなしの中、いかにジョージアの鉱山で働く1000人の労働者と関連事業で働く3500人の職を確保するかが話し合われた。委員長には、ドラベリーゼ氏が再選された。(インダストリオール機関紙英文に関係記事あり)

労使の対話の重要性

本年10月3日、筆者はジョージアの運輸労連から夕食に招待された。夕食会には運輸労連の副委員長2名と経営側から2名が参加し、都バスの運行計画について意見交換が行われた。その様子に、これまでジョージアの労働運動について持っていた戦闘的なイメージが薄れると共に、具体的な問題についてはこうした労使の非公式の話し合いで意見交換をしているのだということがわかった。地下鉄と都バスの使用者は同じだが、地下鉄労組と運輸労組で組合は別々であるが、同じナショナルセンターに属している。「こうした非公式の話し合いはどのくらい行われているのか」という筆者の質問に対し、マムカ運輸労組副委員長は「あまりない」と答えた。現場での労使協議・話し合いこそが重要であり、紛争を防ぐことにもつながることは、日本の経験からも明らかだ。JILAFの招へいプログラムがジョージアでも実を結ぶことを願ってやまない。