職員採用が遅れる米国地方自治体
5月12日のガバーニング(GSL)、及び8月15日のウォールストリート・ジャーナル(WSJ)などが米国地方自治体の職員採用について下記のように報じている。
パンデミック以来、米国の雇用はかつてないペースで回復を見せているが、各州など地方自治体の採用遅れが際立っている。2020年3・4月の新型コロナウイルス蔓延時に2,200万名(14%)減少した米国雇用は同年5月から回復を見せ始め、今年7月には当時を上回る水準に回復した。
他方、地方公務員については、学校や病院、図書館、警察署などの各部門で150万人(7.4%)減少し、先月には未だ60万5千人の不足(-3%)という状態にある。因みに連邦公務員は当時の国勢調査員の採用で10%増加し、現在は当時の水準に戻っている。
地方自治体の採用が進まない点について、WSJによると、テネシー大学の経済学者が「労働市場の逼迫に加えて、賃金についての議会審議や労働組合との協議など、素早い対応が出来ない」ことを挙げている。事実、民間賃金は2020年6月以降9.4%上昇したが、地方公務員の賃金は4.9%の上昇に留まっており、84万7千人の求人が埋まっていない。
しかし、GSLが紹介するPEW慈善信託の調査によれば、政府の予算不足が問題ではないとされる。2021年の各州予算残額は21年間で最高を記録したとされ「各州の税収と料金収入は健全な水準にあり、新規採用の余地に問題はない」と言われる。
こうした状況に加えて、連邦政府は各州予算の均衡化、気候問題対処、画期的なインフラ整備を目的に数千億ドルの補助金を交付しており、州政府も従来手法では事態に対応できないとの思いから、革新的手法に思いを凝らしている。
こうした中で積極的な採用活動を展開したのがフロリダ州のフォート・ローダーデール市で、公衆安全、施設の維持管理、警備などの分野で200人を必要としていた。約40人の警察官を募集するために、ニューヨークやシカゴまで広告を出した。ヤシの木が生い茂るビーチにパトカーが停車している、 まるで絵葉書のようなポスターを張るなどし、500人以上から応募があった。給与も初任給を上回る金額を提供、福利厚生も401退職年金の州立年金への切り替えも提案した。在宅勤務への柔軟な対応もその一つである。
コロラド州では、州地方自治体労組(AFSCME)の支部において、児童福祉、コミュニティー・サポート、食品スタンプ、児童養育支援などのサービスを提供する労働者が、労使協定を改訂した。今回認められた大きな要求の1つが、仕事用の携帯電話の支給であった。これまでは、個人の携帯電話を使用したり、出先から事務所に戻らなければメールが確認できなかったが、仕事用の携帯電話の支給により、業務の効率が上がり、仕事とプライベートのバランスをとることができるようになったという。
2022年7月の米国地方自治体の雇用は米国全体の8人に1人という、製造業や小売業を上回る重要な位置を占める。しかし、WSJ紹介のある調査では「退職した職員の半数が報酬の低さを理由に挙げており、特に看護師、エンジニア、警備、刑務官、熟練技術職の採用が困難」とされる。
この点で、ある司法関係の派遣会社社長は「待遇改善への対応は民間企業のほうが迅速だが、最近では技術部門や医療関係を中心に政府対応も早くなっている」と語る。