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フランス政府が退職年齢64歳への引き上げを提案

2023.02.14掲載

1月10日と31日のニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなどが「フランス政府が退職年齢の64歳への引き上げを提案」と報じたが、労働組合からは一斉に反対の声が上がっている。

フランス政府は現行の退職年齢62歳を64歳へ引き上げ、同時に年金制度の長期的な収支バランスを狙った提案を発表した。
政府は2019年にも42の諸制度を1制度に纏める退職金制度改定を提案したが、年金減額との懸念を招き、大規模な抗議活動と史上最長の交通スト、それにコロナ蔓延があって提案は撤回された
しかし今回、マクロン大統領は世論の不人気や労働組合の強い反対を押し切って強行の構えだが、エネルギー価格や諸物価の高騰、各種社会不安の中で、反対運動が増幅される恐れが強い。

これに対し各労働組合は共同声明を発表し「現行の年金制度には何の問題もなく、大幅改革を正当化する理由はない」と述べ、労働者の力(CGT-FO)は「マクロンが年金改革を改革の柱にするなら、我々は改革反対を闘争の柱にする」として、来週のストライキを予告した。これに対しマクロン大統領は「複雑で多額の政府補助を必要とする年金制度をこのまま放置すれば、制度継続が困難になる」と主張した。

ボルヌ首相はこの点について「フランスの社会モデルを維持するためには現実を直視しなければならない。制度改革について政府は多年の検討を重ねてきた。退職年齢を今年秋から2030年までに64歳に引き上げ、支払期間の延長で収支を安定させたい。議会審議は2月から開始して夏には成案を得たい」と答えた。
現在下院議会のマクロン与党連合は僅差で過半数を占めているが、左翼政党と極右政党は提案に反対、改定案攻勢を積み重ねて提案を廃案に持ってゆこうとしている。

他方、穏健労組には現行制度の微調整を容認する空気があるが、それでも「議論の開始が法的年齢の引き上げであってはならない。特にブルーカラー労働者の労働は厳しく、早期就労の上に生存年齢もホワイトカラーより短い」と不公平を指摘する。民主労働総同盟(CFDT)では「年齢引き上げは年金改革の中で最も不公平な方法だ」と指摘する。

フランスでは政府保証年金が国民の間で好評で、欧州の中でも年金生活者の貧困レベルは最低に位置するが、高齢労働者の失業率は高く、年齢引き上げには反対が強く、緊急性への認識は薄い。

そのためボルヌ首相は年金月額の1,200ユーロ(1,300ドル)への増額、早期就労労働者には早期退職、高齢労働者への雇用継続などの施策を打ち出し、「全ての労働者が同一年齢で仕事を始めるわけではなく、誰もが同じ方法で働くよう求めることもない。新提案では10人のうち4人は64歳以前に退職可能だ」と説明する。

政府試算では、平均生存年齢の上昇で、2000年には退職者1人に対し支払いする年金加入者は2.1人であったものが、2020年には1.7人、2070年には1.2人に落ちると計算されている。また2021年の平均退職年齢は63歳程度とみられる。
また、1900年代と2000年代に年金改革が議論されたときには、年金額の大幅増加が見られたが、今日ではその懸念は縮小しており、2021年の収支は9億ユーロの余剰、2022年は32億ユーロの余剰と計算されているが、ボルヌ首相は「2023年から赤字が拡大すると思われるが、金額には各種の異論がある」と答えている。専門家の間でも長所・短所汲むべき点があるとされるが、マクロン大統領の説明の力に掛かっていると言える。

こうした状況の中、1月31日には年金改革反対デモが各地に広がり、政府発表で120万人、労働組合発表では250万人がデモに参加した。パリでは鉄道や電気、教員、放送事業でもストライキがあり、各所で混乱が見られた。