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日産スマーナ工場にIAM労働組合誕生の方向/米国政府の苦情によりメキシコ労働組合の改善進む

2023.02.27掲載

日産スマーナ工場にIAM労働組合誕生の方向

2月3日のブルームバーグ、6日のウォールストリート・ジャーナル(WSJ)社説などが「日産スマーナ工場で87名の技術労働組合の投票を全国労働関係委員会(NLRB)が承認」として下記のように報じている。

北米日産テネシー工場における87名の技術労働者による労組結成投票承認の理由は「該当する工具・金型技術者は高度熟練労働者であり、独立した指揮下、そして他の労働者とは明確に異なる機能を持つため」として3対2で承認した。これに対し会社は、労働組合結成には多数の労働者が含まれねばならないと主張している。なお、テネシー工場の労働者数は約4,300名であり、上記87名は全体の2%程度である。

他方、この投票を2年前に申請した国際機械工・航空宇宙労働組合(IAM)は承認を歓迎しながらも「長期に亘るNLRB手続きの間、またもや会社からの圧力で職場の声の実現が遅延されたが、独立した技術部門に進むべき強力な先例を示してくれた。これからどう進めるかは労働者たちと協議していきたい」との声明を発表した。

労働組合に批判的なWSJ社説によると「労使交渉では労使平等が必要だと労働組合は訴えるが、現実は政府審判の力を借りている。一例がNLRBの判断基準変更による少数労働組合の承認であり、多数従業員の意向が無視されている。従来、少数グループ労働組合が認められたのは、他の全体労働者とは明確に利害が異なる労働者に限られており、このことは2017年および2021年にも明確にされてきた。しかしバイデン政権下で多数を占めた民主党委員のもとで判断基準は変更された。少数グループが全体基準を左右し、会社全体の雇用方針も変更される事になる」と述べている。(以上WSJ)

南部諸州での自動車工場では幾度かの組織化の動きがあったが、1989年、2001年にはスマーナ工場でのUAW否決、2017年には日産キャントン工場でのUAW否決、2014年と2019にはフォルクスワーゲン・チャタヌガ工場でのUAW否決と続いた。日産スマーナ工場で労組承認となれば、全国的にも影響は大きい。

米国政府の苦情によりメキシコ労働組合の改善進む

2月12日のワシントン・ポストおよびABCニュースが、最近のメキシコ労働事情として、旧来労働組合と対決する新労働組合の動きを伝えた。

米国政府は米国・メキシコ・カナダ自由貿易協定(USMCA)に盛り込まれた労働権侵害の早期解決条項に基づき、メキシコに対し2年前から6件の苦情を申し立てた。』
その苦情の中には反民主的な旧労働組合が数十年間、低賃金を押し付けたとの指摘があり、2021年5月に出された最初の苦情も、グアナファト州のGM工場組合選挙におけるメキシコ労働総同盟(CTM)による不当介入に関するものであった。

旧来政府の支配下で、会社と癒着したCTMは労働者には相談無しに労働協約を結び、協約に疑問を示す労働者には暴力団を対応させ、会社に解雇を強制したとされ、新労働組合の結成が困難だったと言われる。

その労働事情がUSMCAにより変化したわけだが、報道によると、ある労働者は「以前は多くの報復で首が飛んだが、今は法律が我々を守ってくれる」と語る。
しかし事態が解決されたわけではない。GM工場で新労組合として結成されたSINTTIAも組合費以上の賃上げが実現できていない。メキシコ自動車労働者は月収300ドル、日給12ドルと言われる中で新労組は日給14ドルを獲得したが、米国の時間給にも満たない。米国政府は米国並みの賃上げで製造業の海外流出が食い止められると希望しているが、そうなるのはかなり先の話だろう。

SINTTIA代表のアロンソ氏は「米国政府の圧力で事態は大きく変わったが、各地での抵抗も大きい」と述べる。新たなメキシコの法律では無記名投票や労働協約の閲覧、役員の定期改選の権利が定められたが、未だに労働委員会や検査官制度はなく、実効性は担保できていない。

それでも米国による苦情の影響は大きく、その一例が米国との国境近くコアウイラ州にあるVU自動車部品製造工場だが、ここには異例の2度の苦情申し立てが起こされ、労組結成の自由が問題視されている。従業員の多くは女性で12時間のシフト制で働いており、サンバイザーやアームレスト、ダッシュボードなどの部品製造で日給15ドルで働いている。
従来からCTMの組織下にあり、労働協約も結んでいなかった工場だが、米国の苦情申し立てを受けて役員選挙を実施する過程で、会社は新組合のメキシコ労働組合リーグ(MWUL)を支持する労働者への脅迫をCTMに依頼したと言われる。それでも新組合は2対1で承認されたが、組合潰しがその後も続き、労使交渉は拒否されている。

米国のキャサリン・タイ通商代表は「一度は是正された問題が再燃した」と語り、メキシコ労働省は「会社は新労組と誠実に交渉しなければならない」と述べている。