活動報告 各国の労働事情報告

2022年 モロッコの労働事情 (アフリカ・中東チーム)

2022年9月9日 報告

国際労働財団(JILAF)は、2022年9月5日~9日、モロッコの労働組合活動家に日本の労働事情などについての知見を深めてもらうためのプログラムを実施した。プログラムはCOVID-19パンデミック禍にあって、オンラインにより実施されたもので、以下は、参加したUMT(モロッコ労働組合)代表による報告等を参考にまとめたものである。

モロッコ労働組合(UMT)

S.E
職業訓練者労働組合 執行委員
L.K
職業訓練者労働組合 執行委員

1.基本情報

面積は約44万6千平方キロ(日本の約1.2倍)、人口は約3,631万人(2021年、IMF推計)、政治体制は立憲君主制をとっている。
経済成長率(実質)はIMFのデータによれば2018年3.15%、2019年2.61%であったが、新型コロナウイルス感染症の影響下にあった2020年については-6.29%と大きく落ち込んだ。但し、2021年には7.19%(推計)となり、回復を見せている。
産業別GDP構成比で主要産業(2019年現在)を見ると、医療・教育・公務・その他サービス部門が40%程度を占め、続いて製造業が約17%、農業が約14%、商業・レストラン・ホテルが約12%のシェアとなっている。輸出産業では自動車産業が急速な伸びを見せており、2021年の輸出実績は80億ドル(前年同期比12.8%増)となっている。
消費者物価上昇率は2018年1.57%、2019年0.24%、2020年0.62%、2021年1.40%(IMF、2021年は推計)となっているが、COVID-19感染症は、収入減と食料品価格高騰をもたらし、人々の生活に非常に大きな影響を及ぼしている。とりわけ、食料品価格は2022年に入って急激に高騰しており、2022年8月現在、前年同月比12.4%の上昇率となっている。また、一人当たりGDP(名目)は2018年3,353米ドル、2019年3,368ドル、2020年3,191ドル、2021年3,620ドルであった(IMF、2019年以降は推計)。
最低賃金(時間当たり)は、2022年9月から民間部門(農業以外)でそれまでの17.93モロッコ・ディルハム(2022年9月19日現在で1.67米ドル相当)から18.83モロッコ・ディルハム(1.75米ドル相当)に引き上げられた。農業部門についても、同様に12.75ディルハム(1.18米ドル相当)から13.71ディルハム(1.27米ドル相当)へと引き上げられた。
労働組合の主要なナショナルセンターは3組織あり、ITUC(国際労働組合総連合)に加盟している。その最大組織は約35万人を組織するモロッコ労働組合(UMT)で、他の2組織は、モロッコ労働者連合(UGTM)と、モロッコ民主労働総連合(CDT)で、この2組織は、OATUU(アフリカ労働組合統一機構)にも加盟している。なお、労働組合は産業部門別に組織化されており、企業別組合の形はとられていない。

2.労働運動を取り巻く状況

(1)経済状況の悪化と失業者の増大

COVID-19による経済や社会への影響が甚大で、物価が高騰し購買力が低下するとともに、企業によるリストラや倒産などで失業者が増えている。失業率は、2010年代も8~10%台の高い水準で推移してきていたが、コロナ禍の下で、2020年2月14%、同年11月18%、2021年2月20%、同年4月16%、同年6月19%(出展:COVID-19の影響についてのILOの調査報告書)と、非常に高い水準に達している。とりわけ、女性の失業率の高まりは男性に比べ、より深刻である。

(2)社会対話の進展

UMTをはじめとする労働組合は、長年にわたり、政府に対して社会対話の実施を求めてきたが、実現されることはなかった。2021年10月に新政権(独立国民連合(RNI)を主軸とするアハヌッシュ連立政権)が誕生し、労働組合は社会対話の制度化と、従前の政権による政策の転換を強く求め、運動を活発化した。
新政権が国民生活の底上げや雇用創出型経済の推進に取り組む姿勢を見せるなか、2022年5月1日、社会対話に関する政労使合意への署名が行われた。これにより、明確なタイムテーブルに則って社会対話を行うメカニズムが構築され、政府と各ナショナルセンター(UMT、UGTM、CDT)(他にも全国組織はあるが組織人員が多いとは言えず、参加は不可)との間で社会対話が行われることになった。なお、民間部門のテーマが扱われる際には経営者団体も参加する。
このメカニズムのもと定期的に対話が実施されることとなり、UMTは9月中旬の政労対話において要求パッケージを提出することにしている。第一の要求事項は賃金の引き上げで、所得税減税も求める。また、従来からの懸案事項である、組合活動への制限(組合法と争議法に問題があり、スト権を行使できないことが特に問題)の解除についても、引き続き要請していくことにしている。

3.最近の労使紛争事例

(1)労働争議の概要
  • フランスに本社を置くV社は、モロッコに子会社A社を置き、主要都市タンジール、ラバト、テトゥアンで浄水業を営んでいるが、2019年10月に会社が手当のカットを実施したことがきっかけとなり、労使の対立が深まった。

  • 労働組合は、労働条件が過酷であること、労働安全衛生が確保されていないこと、賃金は低く不公正であること、労働協約が締結されていないことなどを問題にして、闘争を展開したが、会社側の姿勢は硬直的かつ不当なもので、組合役員を不当解雇するとともに、労働組合の解散を目論む行動を展開した。

  • 会社側による不当解雇や労働者への抑圧と不当な扱いに対し、労働組合はストと座り込みを実施し、2020年におけるタンジール、ラバト、テトゥアンでの座り込み延べ日数は376日に達した。コロナ禍で緊急措置が実施される中で大きな困難が伴う状況であったが、労働者の家族も参加しての抗議集会やハンガーストライキも行われ、全国的な連帯行動や国際産業別組織による連帯行動も展開された。また、UMTは労働行政を担う当局に対しての働きかけを行った。

(2)労働争議の結果
  • 2021年2月1日、UMTとA社との間で、紛争解決のための議定書が合意され、不当解雇された労働者は復職し、労働者の社会的権利についての交渉が再開された。