活動報告 各国の労働事情報告

2022年 モンゴルの労働事情 (パキスタン・モンゴルチーム)

2022年12月2日 報告

 国際労働財団(JILAF)では、モンゴル労働組合役員を招へいし、労働を取り巻く課題や最新情報の共有、労働法制と社会保障制度、生産性運動への取り組みなどについて学ぶためのプログラムを用意した。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響により来日交流が困難となり、「オンラインプログラム」による取り組みとなった。従来の「海外の労働事情を聴く会」も今回は開催が不可能となったため、以下はナショナルセンター・参加者から提出された資料に基づき、参加者との意見交換やJETRO、JILAFの資料を参考に概要をまとめたものである。

ナショナルセンター モンゴル労働組合連盟(CMTU)

S.C
CMTUソンギノリゾート労働組合スタッフ
T.D
モンゴル教育・科学労働者組合シニアスペシャリスト
S.E
CMTUセレンゲ県支部支部長
N.S
モンゴル公共従業員労働組合連盟加盟CMTUスタッフユニオン局員
O.S
モンゴル公共従業員労働組合連盟広報局ジャーナリスト
A.B
CMTU法律専門家兼情報石油労働者組合役員
T.G
CMTUザフハン州支部副支部長

1.基本情報

モンゴルは中国とロシアに挟まれ地政学的に重要な位置を占め、国土は約156万平方キロ(日本の約4倍)、人口は約340万人で首都はウランバートルにある。国民の95%はモンゴル人で、言語はモンゴル語(公用語)とカザフ語である。モンゴル独立の1991年以降憲法で信教の自由が保障されチベット仏教が復活した。1921年の独立後は君主制人民政府が成立され、その後人民共和国を経て社会主義体制となったが、民主化運動の流れの中で1992年に現在の体制となる。1972年日本との外交関係が樹立され、現在は様々なレベルを通じて二国間関係を強化している。
主要産業は、豊富な鉱物資源を背景とした鉱業、馬や羊を中心とする牧畜業が主な産業で、2021年の名目GDPは約152億米ドル、一人当たりの名目GDPは約4480米ドルとなっている。経済成長率は1.6%、2010年代は鉱物資源の高騰によって高い経済成長率を誇ったが、中国の景気減速に伴って資源安の影響で低迷が続いている。失業率は2021年8.1%台と厳しい状況になっている。主な貿易相手国は、中国、スイス、シンガポールで鉱物資源、牧畜産品を輸出して、中国、ロシア、日本、ドイツ、韓国から石油燃料、自動車、機械食料品を輸入している。
モンゴル労働組合連盟(CMTU)が唯一のナショナルセンターである。組織人員は237500人、36の産業別組織、2240の加盟単組を組織し国際労働組合総連合ITUCに加盟。

2.労使紛争

(1)労使紛争の原因

モンゴル労働組合連盟は、2018年9月教育・文化・科学・スポーツ大臣に対して労働社会評議会三者による国家協定についてその実施を要求、加えてモンゴル教育・科学労働組合が行っていた無期限ストライキを違法ストであると教育・文化・科学・スポーツ省が情報操作を行ったことが発端である。
政府側は、組合員に対して圧力をかけ休日に学校、幼稚園の教師会議を開催させストの中止を要請した。この事は、モンゴル労働関連法ならびにモンゴル違反関連法に違反しているばかりか、労働組合員の権利を著しく侵害しており労働組合としては政府側に対して即時中止を要求した。

(2)労使の主張

モンゴル教育・科学労働組合は、大統領に対して要望書を提出。全国的なストライキを6日間実施。国家大会議、政府、教育・文化・科学・スポーツ省に対して次の要求書を提出した。

  • ①2018年国家予算を修正して、2018年9月より教育・科学分野の職員の基本給を15%増額する事。
  • ②2018年国家予算に反映された、予算期間の職員の実質所得を増額するための566億トゥグルク、一人当たり300000トゥグルクのボーナスを10月から支給する事。
  • ③2019年1月から、教育・科学分野の職員の基本給の50%を下回らない水準で引き上げる事。
  • ④政府の労働社会評議会三者国家協定の不履行によりストライキを実施したが、その責任は政府にありストライキ参加の職員に対する給与の満額を支給する事。
(3)労働争議の結果

モンゴル教育・科学労働組合のストライキに関する管理・組織ワーキンググループは、モンゴル労働組合連合が組織した無期限ストライキに参加する事を決定。全国138の学校と幼稚園が8日間のストライキを実施した。
この闘争に対する支援要請を、国際教育機関の人事部門、国際教育機関のアジア太平洋組織、モンゴル労働組合連合国際部門、トルコ教育労働組合連合に行った。
ワーキンググループは証拠書類作成部門、調査研究部門、予測調査部門、組織部門を編成し教育・科学省モンゴル教育科学委員会で設立された二者相互協定を刷新、追加協定を作成した。その協定内容は、以下であり、モンゴル教育・科学労働組合連合委員長とモンゴル教育、文化、科学スポーツ大臣が署名した。

  • ①教育、科学、健康分野の職員給与に発生した差額を2018年10月1日以降解消し、143億トゥグルクの原資に関して提案して解決のために協働する。
  • ②教育、科学分野の職員給与額について、2019年1月1日から20%を下回らない割合で引上げる提案を国家追加協定し、これをそれぞれ政府に提出し解決のために協働する。
  • ③学校、幼稚園のクラスにおける生徒定員の基準数の超過を教員の業務負荷とみなし、追加賃金を供給するシステムを2019年1月1日から順守する。
  • ④政府および地方所有の幼稚園と一般学校の教師、他の公務員における四半世紀毎の成果報奨金を45~60%にて産出し支給することにおいて2018年12月20日までに2017年第346号政府規定の実行を確実にして、労働組合が参加した形でのモニタリングを行う。
  • ⑤科学分野における職員に対する成果報奨金産出規則を承認し、2019年1月1日から順守し始める。
  • ⑥ストライキに参加した教師、職員のストライキ期間の給与に関し、その期間は勤務したとみなし満額支給させる。

3.その他

モンゴル労働組合連盟は、団結と独立性、活動におけるいかなる者による妨げや介入に関して組合員からの苦情受け付けるための「労働組合権利委員会」を設立した。これは国家人権委員会との協力覚書を締結実施して、人権にかかわるイベント開催、研修セミナ―に実施する事を目的としている。
人権NGOフォーラムとして法的アドバイスセンターを開催、無料の電話相談を実施して裁判所への手続きや政府機関への要請、陳情、苦情についてアドバイスを行った。
また、労働関連法改正法について、一般教育学校、幼稚園、各種学校、博物館、劇場等を対象とした研修を実施。