活動報告 各国の労働事情報告

2022年 ベトナムの労働事情 (ラオス・ベトナムチーム)

2022年12月9日 報告

 国際労働財団(JILAF)は、2022年11月21日~25日、ベトナム・ラオスの労働組合活動家に日本の労働事情などについての知見を深めてもらうためのプログラムを実施した。プログラムはCOVID-19パンデミック禍にあって、オンラインにより実施されたもので、以下は、参加者による報告等を参考にまとめたものである。

ベトナム労働総同盟(VGCL)

  • ベトナム労働総同盟(VGCL) 情報通信局職員
  • 労働組合大学 労使関係部長
  • 雑誌「労働と労働組合」記者部次長
  • 労働組合労働者研究所 研究員
  • ベトナム労働総同盟(VGCL) 労使関係部職員
  • ベトナム労働総同盟(VGCL) 管理部職員
  • ベトナム労働総同盟(VGCL) 政策法務部職員

ベトナムの労働事情

1.2022年上半期(1~6月)の労働・就業状況
(1)労働者数

15歳以上の労働者は5,140 万人に達し、前年同期比で40万人増加している。うち、都市部の労働者は1,910万人で、労働者全体の37.2%を占めている。女性の労働者は 2,400 万人に達し、労働者全体の 46.8% を占めている。なお、職業教育の「初級」レベル以上の教育を受けた労働者は1,340万人と推計される。

(2)賃金労働者
  1. 15 歳以上の賃金労働者数は 5,030万人で、前年同期比で41万7,000人増加している。うち、男性は2,670万人で、全賃金労働者数の53.1%を占めている。
  2. 農業・林業及び水産業の賃金労働者は1,390 万人(全体の27.7%)で、前年同期比では2万7,100 人減少している。一方、工業及び建設業は1,680万人、前年同期比で43万5,700人増加している。また、サービス業は1,960万人で、前年同期比で8,500人増加している。
  3. 非正規雇用労働者の割合は55.9%である。
(3)不完全就業者

不完全就業者は110万人を超えているが、前年同期比では3万200人減少している。

(4)労働者の賃金実態

労働者全体の平均月収は650万ドン〔2022年12月12日時点の為替レート(1ドン=0.0058円)で円換算すると約37,700円相当となる〕で、前年同期比で5.3% 、2020年同期比では11%それぞれ増加している。男性労働者の平均月収は女性労働者の平均月収の 1.35 倍である。また、都市部の労働者の平均月収は農村部の労働者の 1.43 倍となっている。なお、一部の産業分野では顕著な伸びがみられる。ちなみに、加工・製造業で働く労働者の平均月収は730万ドンで、前年同期比6.9%増 、電力・ガスの生産・供給業労働者の平均月収は960万ドンで、同7.8%増、運輸・倉庫業の平均月収は870万ドンで、同5.0%増となっている。

(5)ベトナムの最低賃金

ベトナムの最低賃金は全国を4つの地域区分に分けて設定している。2022年の最低賃金は2020年1月以来2年半ぶりに改定された。「地域1」は468万ドン、「地域2」は416万ドン、「地域3」は364万ドン、「地域4」は325万ドンとなった。

(6)失業者数

就業可能年齢(15歳以上)の失業者数は約110 万人で、前年同期比で4万7,600人減少した。2022 年上半期の就業可能年齢の失業率は2.39% で、前年同期比で0.13 ポイント減少している。うち若者(15~24歳)の失業者数は約41万300人で、失業者数全体の36.8%を占める。都市部の若者の失業率は9.21%で、前年同期比で0.76ポイント減少している。ベトナムにおいて若年層の失業率が高い背景の一つには進展する工業化、技術革新に対応する職業訓練が追いついていないことによる労働力の需給ギャップが考えられる。

2.労働争議の状況
(1)労働争議件数

最近の労働争議(ストライキ)の発生件数をみると、2017年=329件、2018年=214件、2020年=125件、2021年=107件、2022年(1~9月)=138件となっている。直近の2022年(1~9月)のストライキは、主に海外直接投資(FDI)地区の企業で発生している。ちなみに、工業団地・輸出加工区・経済特区で全体の138件中90件を占めている。また、ストライキは規模500人未満の企業を中心に発生し、全体の138件中79件を占めている。業種別では繊維、皮革・履物、電子部品の企業に集中している。

(2)労働争議の要因

労働争議の主な要因としては、COVID-19パンデミックによる予防・自粛措置が2年以上続く中で、労働者が非常に困難な状況に置かれ、貯蓄と収入が減少したことなどが背景として指摘される。なお、2020年、2021年の2年間は最低賃金の改定が見送られた。こうした中で、労働者は政府の政令に基づいて最低賃金を支給するよう要求したが、多くの企業は賃金を引き上げないばかりか、各種手当や福利費を削減することさえ行った。労働争議の要因(理由)についてみてみると、「賃金」が全138件中131件(95%)と最も多いが、これ以外にも「労働者の権利に関する事項」、「処遇に関する事項」、「ボーナスに関する事項」、「社会保険に関する事項」、「安全衛生に関する事項」など様々な要因が挙げられる。
但し、いずれのストライキも自発的に発生しており、労働組合によって組織されたものではない。

(3)労働争議中の労働組合と使用者の主張点

 労働組合と使用者の主な主張点は次のとおりである。

〔労働組合の要望(主張)〕

  1. 労働者の権利を保証すること。使用者は労働者の就業の打ち切りや労働契約の解約をしないこと。
  2. 労働者及び労働者代表組織が、法律に基づいた権利を行使できるようにし、そのための条件を整えること。

〔使用者の要望(主張)〕

  1. 労働争議中にあっても、割り当てた仕事を通常通り行い、労働規律を維持すること。
  2. 調停委員会、所轄労働管理機関による結論を遵守すること。
(4)労働争議の結果(解決のプロセス)

ストライキなどの労働争議は、主に労働傷病兵社会省・公安・工業団地管理局の所轄関連機関と連携して、省・市のベトナム労働総同盟(VGCL)、県の労働組合、工業団地・輸出加工区の労働組合によって解決に向けた直接指導、支援が行われる。一般的には、所轄機関の支援・指導を得て、使用者と労働者団体が対話・交渉しながら解決にあたることになる。

3.COVID-19パンデミック対策と取り組み

(1)ベトナム労働総同盟(VGCL)は国の方針に基づき、次の取り組みを行った。

  1. 新型コロナウイルス感染症予防措置の強化。
  2. 新型コロナウイルス感染症予防措置に関する情報発信。
  3. 新型コロナウイルス感染症の影響を受けた組合員・労働者への助成金支給の検討。
  4. ワクチン接種の実施。
  5. 自発的な献血の推進。

(2)感染が拡大する中で、安全確保と社会・経済発展の促進という二重の目標を実現するため、ベトナム労働総同盟(VGCL)および保健省は、「働く人たちへのワクチン」プログラムを開始するために連携し、組合員・労働者が繰り返しワクチン接種を受けられるように対策を強化した。また、そのための広報活動を展開した。

(3)こうした取り組みの中で、2022年度の社会・経済活動は、急速な回復を続けている。労働市場は回復し、失業率と不完全就業率も減少に転じている。

(4)2022年初頭から労働組合を含む関係機関は、企業における就業および生産・経営状況の把握を強化した。このように、新型コロナウイルス感染症の予防措置をとりながら、生産・経営活動を迅速に回復・発展させることによって、労働者の労働環境や賃金等就業条件の改善に貢献するよう取り組んでいる。