活動報告 その他

2022年度 国際シンポジウムⅠ

2022.07.14掲載
開催: 2022.07.14 2022.07.14
パネルディスカッションの様子

2022年7月14日(木)に「「建設的な労使関係を背景としたコロナ禍における労使の対応」」をテーマに、国際シンポジウムをオンライン形式にて開催し、日本の労働組合関係者、企業、学識経験者、マスコミなど計46名にご参加いただきました。
今回はカンボジア、および中国の労働組合代表、カンボジアの使用者代表、日本の有識者にご登壇いただき、それぞれからの報告やパネルディスカッションを行いました。

JILAF相原理事長の主催者挨拶の後、カンボジア、中国の労働組合代表、カンボジアの使用者代表の各国報告の後、石井知章明治大学商学部教授・明治大学国際労働研究所代表にもご参加いただき、JILAF相原理事長をコーディネーターとしてパネルディスカッションを行いました。

<各国報告・パネルディスカッション>要旨
【各国報告(カンボジア):ITUCカンボジア協議会】
カンボジアでは対話の場として政府も参加する三者協議の場としている。カンボジアには良好な労使関係を構築するための様々な法律があり、とりわけコロナ禍においては、感染防止のために全国的にさまざまな対策がとられた。感染防止対策を実行するには建設的で良好な労使関係があってはじめて成り立つものであるが、現場における健康・安全・法律遵守には依然として限界があるという課題がある。しかし、私たちはこのコロナ禍がカンボジアの法律をさらによくする好機であるととらえており、実際コロナ禍以前より活発に労使、労働諮問委員会の活動が行われている。よりよい労使関係を構築していくためには、現場の使用者、労働組合間の協力を増進させ、関係者全員が真摯な態度で取り組むことであり、あらゆる分野で多くの労働協約の交渉を推進する必要があると提言したい。

【各国報告(カンボジア):カンボジア使用者協会】
コロナ禍において、カンボジアでは様々な施策がとられたが、特にワクチン接種の推奨が進められ、カンボジアはワクチン接種率が東南アジアで最も高い結果となった。労使関係としてはコロナ対策における協力が行われた。事業を継続させるために、雇用契約を停止させるのではなく、一時的な賃金カットを行うことで労使で合意した他、リモートワークの推進などを進めた。今後のさらなるよい労使関係構築に向けては、意識を変えることが必要である。労使が産業界のパートナーとして互いに信頼しあうことが不可欠であり、信頼は効果的な対話の基礎となるものである。

【各国報告(中国):中華全国総工会】
今年に入ってからの中国のコロナの感染状況は、上海における感染拡大はあるものの、本土においてはほぼ低い水準を維持しており、これは政府のゼロコロナ政策が功を奏した。ゼロコロナ政策とは、感染が発生した場合、感染ルートを直ちに断つ管理を行うことであり、これにより、一部の人々は行動制限を受けるものの、他の多くの人々の日常生活や経済活動を維持することを可能とするものである。政府は感染防止対策と経済発展の両立を図り、経済活動の再開を実現したが、コロナ禍が中国経済や雇用に大きな打撃を与えたことは事実である。コロナ禍で大打撃を受けた製造業、建設業で労働者が減少した結果、プラットフォーム労働など様々な柔軟な雇用、新しい就業形態が台頭した。これらは全労働人口の3割弱を占める。また、コロナ禍でのロックダウンを経て生産を再開後、経営難により配置転換や賃金カットなどが起き、労働争議が頻発した。特に外食、観光・宿泊産業でコロナ禍における影響が大きく、他方ではライブ配信やオンラインでのソフト開発などの産業は大きく伸びる結果となった。政府、中華全国総工会は労働争議の解決のためにコロナ禍における雇用や賃金についての規定をまとめ、徐々に労働争議の発生件数が減っている。中華全国総工会はコロナ禍、企業コストを減らして雇用安定に向けた取り組みを行うとともに、困難な企業、労働者に対して、報酬の調整やシフト制により労働時間を短縮させ、それらに対する支援を実施するなどの対策を行っている。三者協議により労働者の賃金は削減せずに上層部の賃金を50%削減することで困難な局面を乗り切るなどの事例もあった。困難な局面においては、労使が互いの利益のために互いに譲歩し助けあうことが重要である。

パネリスト発言要旨
<石井教授>
・カンボジアについて、三者協議制度、法治主義を優れたシステムとして評価する。
・コロナ禍において労働市場が劇的に変化した。IT技術を駆使した在宅勤務の拡大もその一つである。メリット、デメリットがあるが連合の調査では日本の労働者の在宅勤務経験者の多くは継続したいと考えており、政策として導くことができるとよい。
<ITUCカンボジア協議会>
・コロナ禍以前から年に一度労働協約を締結することをゴールに実施し定着させ、特に最低賃金の引き上げに関する協議などを行ってきた。
<カンボジア使用者協会>
・カンボジア使用者協会は政府にさまざまな提言を行ってきた。ベストプラクティスをまとめて発表するなどアドボカシー活動を精力的に実施している。
・コロナ禍、デジタルプラットフォームワーカーについては、デジタルリテラシーの課題もあるものの、活用に移行するよい機会となったともいえる。
<中華全国総工会>
・本土のコロナの抑え込みは当初、コロナがどういう病原性をもつのか、致死率についても情報がない中で、大規模なロックダウンに踏み切ったが、上海については発生したポイントを抑えることで経済活動を停滞させない政策をとった。
・若年層に失業率が高いのは新たな就業形態に属する層が統計上は失業者として計上されているというデータ上の問題もあるが、安定した企業に行きたいという志向の偏りもある。
・リモートワークはよい柔軟な働き方であり、メリットもあるが、全産業に普及できるものではない。また、コロナで広まったというよりはデジタル技術の普及の結果と考える。
・プラットフォームワーカについては政策の策定が不可欠である。中華全国総工会は権利保護に関して重点的に活動を行ない、政府はプラットフォーマーに関する責任の所在を明確にし、権利保護に関する指針なども出した。
<コーディネーター 相原理事長>
・労働組合に組織化されたメンバーをインサイダー、就職活動中の学生や就業を希望しているのに就職できずに困窮者している方々をアウトサイダーとした場合、労働組合や労使の支援をがいかにしてアウトサイダーに届けることができるのかが課題である。
・日本の若年層、14歳から24歳までの失業率、一番高いところが2020年3月10%であった。全世界のワクチン接種回数は47億回を数えるが、低所得者国の回数は2,200万回、率としては0.4%に過ぎない。コロナ禍において、カンボジアは三者構成制度が功をなし、中国ではパンデミックの制圧の努力が展開され、日本においては雇用調整助成金の政策など、各国持ち得る策をフルに発揮して対策を取った一方、ワクチンが届かないという現実も頭に置く必要がある。
・コロナ禍、デジタルプラットフォームワーカーは対策となりえるか。全世界的な取り組みとして考えることが必要である。
・建設的な労使関係のエネルギーと機能をうまく活用していくことがグローバルに展開する私たちの役割と考える。