2025年 バングラディシュの労働事情(モンゴル・バングラディシュチーム)
以下の情報は招へいプログラム「再招へいチーム」参加者から提出された資料をもとに作成したものである。
参加者情報
- バングラデシュ・サンジュクタ組合連盟(BSSF)
- バングラデシュ民族主義労働組合連合 (BJSD)
- バングラデシュ労働連盟(BLF)
- バングラデシュ自由労働組合会議(BFTUC)
基本情報(外務省データ2025年8月7日更新分より)
人口:1億7,119万人(2022年、世界銀行)
宗教:イスラム教徒91%
その他(ヒンズー教徒、仏教徒、キリスト教徒)9%(2022年、バングラデシュ統計局)
政体:共和制
主要産業:衣料品・縫製品産業、農業
GDP:3,055億ドル(2022年、世界銀行)
消費者物価指数上昇率:9.42%(2023年12月時点、バングラデシュ中央銀行)
1.参加国におけるホットトピックスと、具体的な内容について
労働安全衛生(OSH)と安全な職場環境の確保
事故例:ラナ・プラザ崩壊事故(2013年)
- 死者1,132人、負傷者約2,500人以上を出した、縫製工場ビルの崩壊事故。
- 建物は違法増築され、縫製工場としての使用は構造的に不適切だった。
- 崩壊前日に建物に亀裂が発見されたが、労働者は出勤を強いられた。
事故の影響
- ファストファッションや多国籍企業の社会的責任(CSR)への批判が世界的に拡大。
- 欧米主導で「建物安全協定」などの対策が導入され、安全点検や労働者保護が進められた。
現状の課題
- 低賃金・過酷労働は依然として続く。
- 労働組合の結成や活動には困難が残る。
- 安全対策の継続・履行が企業任せになりつつある。
改善・対策の方向性
- 安全衛生項目を策定しこれを遵守する。
- 避難訓練など安全対策に対する労働者の意識向上。
- SNS等を活用し労働組合の正当性を社会に訴える運動を展開。
- 労働裁判制度の整備、裁判中の賃金補償制度の検討。
- 退職後の生活保障(年金・医療)の強化。
- 女性・若年労働者の参加とジェンダー平等の推進。
- 政労使による対話で安全対策の強化を継続要請。
ジェンダー平等と女性の権利
現状
- バングラデシュは南アジアの中でも女性の政治参加が比較的進んでいるが、教育、雇用、暴力の問題などでは構造的な不平等が残っている。
- 縫製産業(RMG)に従事する労働者の約8割が女性で、経済的自立を果たす女性が増加。
- 非政府組織(NGO)やマイクロファイナンスの支援で、農村女性の起業や小規模ビジネスも
拡大。
課題
- 家庭内暴力や児童婚、性的暴行が依然として深刻であり、女性に対する暴力への対応が不十分。
- 縫製工場などでは低賃金・長時間労働・労働権の軽視が深刻。
- 管理職や高賃金職は男性に偏っており、賃金の男女格差はもちろん、職場での性差別も根強い。
- クオータ制度により数値上の進展はあるものの、実際の政治的意思決定への影響力は限定的。
国際的支援・取り組み
- 国連機関や国際NGOが教育、法制度の整備、ジェンダー暴力対策などを支援。
- バングラデシュ政府も「国家女性開発政策」を策定して、政策面での改善を進めている。
今後の展望・改善策
- 法制度の強化と実効性の確保。
- 伝統的な性別役割の見直しと意識改革(女性セミナーや女性リーダー研修の実施)。
- 産前産後や育児休業など働く女性の権利保護。
若年・非正規労働者へのアプローチと組織化
背景・現状
- 人口構成:バングラデシュは若年人口比率が高く、15~24歳の労働力人口が多い。
- 産業構造:縫製業、繊維業、靴・皮革製造業などに従事する者が多く、多くが非正規雇用。
- 教育・スキル不足:初等教育までの修了で就労する者が多く、組織化や権利意識が弱い。
課題
- 労働組合への参加率の低さ
(若年層や非正規労働者は組合の存在を知らないか、加入に解雇などのリスクを感じている)
- 労働関連法の執行力の弱さ
(労働法は存在しても適用されないケースが多く、非正規労働者は対象外とされることもある)
- インフォーマルセクターの多さ
(都市部・農村部ともにインフォーマルな雇用が多く、組織化が困難になっている)
- ジェンダーの問題
(特に女性若年労働者はセクハラや差別にさらされ、声を上げにくい環境にある)
取り組み・改善策
- 教育・啓発活動(労働法、労働者の権利、組合の役割についての基礎研修・出前講座を実施)。
- 若年労働者を対象にしたユース・グループや職場単位の小規模ネットワークを育成。
- 女性リーダーの育成や、女性限定のグループ・セッション、安心して話せる環境づくり。
- SNSを活用した広報活動の強化。
2.直近に発生した(もしくは発生している)労働争議について
ケース:ガジプール
背景
- ガジプールは、首都ダッカ近郊にある縫製工場が多い工業都市。
- 多くの女性労働者が縫製工場で働いている。
発生した問題
- 問題:産休手当の未払いと復職後の業務軽視(女性労働者への負荷の高い業務への配置)。
- 対応:BFTUCが支援し、平和的デモや労働省への訴えを実施。
組合の対応
- 労働法に基づく支援。
- メディアを活用した世論喚起。
- 工場側・ブランド担当者との調停と交渉。
成果
- 産休手当の支払い。
- 元の職務への復職。
- 組合との協議によるジェンダー配慮職場ポリシーの策定。
3.労働法制について
概要
- バングラデシュ労働法(2006年)に基づき、雇用・賃金・労働条件・産業関係・安全衛生などが規定されている。
- 2013年・2018年・2023年に改正され、ILO基準に近づける形で労働者保護が強化。
主なポイント
- 労働時間:週最大48時間。
- 労働組合結成に必要な労働者の賛同率は、大企業において30%から15%に引き下げられ、組合設立の障壁が緩和された)。
- 産休給付:112日→120日に延長。
- 安全委員会、福祉施策の導入。
現行法の課題
- 中小企業では依然として高い組合結成要件。
- 非正規・インフォーマル労働者(全体の85%以上)が法的保護の対象外。
- 組合活動家への差別・脅迫・ブラックリスト化。
労働組合の取り組み
- 輸出加工区における組合の法的承認の要求。
- ILO条約87号・98号の完全実施。
- 反組合的行為への(組合活動を理由とする解雇・降格・異動などの不利益取扱いを禁じ、迅速な救済や報復防止を制度化など)。
今後の法改正の動き
- 2025年改正に向けて,労働者代表含む三者構成の委員会が検討中。
- ILOやEUなど国際パートナーから国際労働基準に沿って労働者の権利・安全・平等を法的に保障し、自由な労使関係と信頼性の高い制度設計を実現を求められている。
- 検討中の内容:「労働者」・「使用者」の定義拡張、苦情処理・紛争解決の強化、デジタル労働監督・工場データベースの導入推進。
4.社会保障制度(主な制度と特徴)
基本方針
- 国家社会保障戦略(NSSS、2015年)により、生涯型の包括的支援を目指している。
現状の制度
- 年金:公務員のみ。2023年に任意の「国民年金制度(UPS)」が開始されたが、私的労働者の強制加入制度なし。
- 医療:公的保険制度は存在せず、限定的な公的サービス。大企業では独自の医療制度あり(特に縫製産業)。
- 社会福祉:高齢者・寡婦向けの低額給付(月約5ドル)
- 子育て支援:貧困層向け母子手当制度あり。公務員は6か月の有給産休が保障されている一方、民間労働者は16週間の産休が法律上認められている。
課題
- インフォーマル労働者が保護から排除(85%以上)。
- 給付額が極めて低く、基本的ニーズに届かない。
- 複数の省庁が似た制度を別々に担当していることで、申請先が分かりづらくなり、手続きの重複や無駄が生じている。
- 雇用主の拠出義務なし(医療・年金・失業保険)。
- 特に女性や農村労働者で制度認知・アクセスが低い。
労働組合の取り組み
- 全労働者対象の拠出型社会保障制度の導入を要求(年金・医療・家族手当など)。
- 社会保障プラットフォーム(SPPB)で政策対話を実施。
- 縫製産業で試行中の「労災保険制度」の全国展開と非正規労働者の制度参加の推進。
制度改革の動向
- 非正規・私的部門を対象とした国民年金制度が導入され、将来的に義務化も視野。
- RMG(縫製)セクターでの労災保険制度の全国展開に向けた拡大。
- ジェンダー・・障害者への配慮を取り入れた制度改革の進行中。
