2025年 フィジーの労働事情(アジア・パシフィックユースチーム)
以下の情報は招へいプログラム「再招へいチーム」参加者から提出された資料をもとに作成したものである。
参加者情報
フィジー労働組合会議(FTUC)
基本情報(外務省データ2025年9月24日更新分より)
人口:928,784人(2024年、世界銀行)
宗教:フィジー系はほぼ100%キリスト教、インド系はヒンドゥ教、イスラム教。全人口に占める割合はキリスト教52.9%、ヒンドゥ教38.2%、イスラム教7.8%
政体:共和制
主要産業:観光、砂糖、衣料等
GDP:5.84億米ドル(2024年、世界銀行)
物価上昇率:4.2%(2024年、世界銀行)
1.労働法制をめぐる動向
現行労働法制の課題FTUCの取り組み
フィジーの労働法制をめぐっては、賃金の搾取や未払い、法執行力の弱さ、外国人労働者入国規制の無策などが課題となっている。また、「不可欠業務」の定義や結社の自由などについて、ILO基準と整合させること、更には、ジェンダー平等規定の強化、労働安全衛生法の改善、ギグエコノミーなど変化する労働市場への対応なども課題となっている。
FTUCはこうした多くの課題に対処するべく諸活動を展開している。中でも雇用関係法の改正に積極的に取り組み、中心的役割を果たしている。また、リビングウェイジを確保すべく、時給8フィジードルを掲げて取り組みを進めている。なお、全国最低賃金は2025年4月1日付けで時給4.5フィジードルから5フィジードルに引き上げられ、新政権が誕生した2022年以降、継続的に引き上げられている。FTUCは出稼ぎ労働者を支援する活動も行っている。加えて、労働者の保護と代表権の強化のために、国の様々な政策フォーラムにも積極的に関与している。
労働法制改正の動向
①雇用関係法の改正
イ)2007年雇用関係法を見直し、改正法を制定する動き
三者パートナーである雇用・生産性・職場関係省、フィジー商工雇用者連盟(FCEF)、フィジー労働組合会議(FTUC)が2010年に議論を開始し、既に15年が経過している。ILOからも条約の適用状況に関しての改善要請もあり、とりわけ、結社の自由に関するILO第87号条約との整合性を確保するための雇用関係法の見直しもテーマの1つとなってきた。
議論が転機を迎えたのは2022年に新政権が誕生したことによる。新政権の下で見直しの議論が大きく進展することとなり、遂に2025年8月、2025年雇用関係法改正法案が議会に提出された。但し、使用者側は、法案は労働組合寄りであると共に、中小零細企業に過大な負担を強いるもので、事業閉鎖や雇用喪失などの深刻な経済的影響が懸念されるとの声明を10月になって発表した。2025年10月現在、法案成立の先行きは不透明となっている。
ウ)2025年雇用関係法改正法案による主な改正点
- 解雇関連:「不当解雇」の定義が拡大された/解雇が「過酷・不当・不合理」と判断されれば違法
- 休暇制度の拡充:年次有給休暇が10日から12日に増加/家族ケア休暇(年3日)の復活/育児休暇の延長と解雇防止の強化
- 賃金保護:残業代未払いなどの「賃金窃盗(wage theft)」に対して絶対責任を導入/未払いがあれば必ず補償されることになった
- 労働組合関連:組合登録手続きが簡素化/非組合員も組合員と同等の恩恵を受けられるようになった/ただし、「交渉手数料」の支払いは必要
- 法違反使用者に対する厳しい罰則と刑事責任:労働監督官がその場で科すことができる罰金(即時執行):最大1,000フィジードル/個人としての使用者に対する罰則:罰金(最大10万フィジードル)+最長5年の懲役法人(会社そのもの)に対する罰則:最大100万フィジードルの罰金
- 労働監督官の権限拡大:職場への立ち入り、記録要求、罰金の即時執行などの権限
②ワークケア法の制定
雇用関係法改正法案に加えてFTUCが注視しているのが、2025年ワークケア法案の動向である。但し、この法案についてはまだ明確な段階には至っていない。
ワークケア法案は、2017年の事故補償法からその一部を独立させる形で制定することが企図されている法案で、「雇用に起因し、かつ雇用の過程で発生した事故、および学校敷地内または学校活動・行事中に発生した事故により生じた人身傷害または死亡について、無過失補償制度の下で補償請求の処理および支払いを行うことを規定する」ものとなっている。ワークケア基金が創設され、労働者または生徒が事故により負傷または死亡した場合に補償が行われることになる。
最近の労使紛争をめぐる取り組み
<ストライキへと発展した事例>
①経過
- 2024年初頭、ミネラルウォーターを生産している米系企業で労使交渉が行われ、労働組合は以下を要求した。
シフト手当及び生活費手当の創設、残業時の送迎(工場が人里離れた場所にあるため)、自動化と事業拡大による職務内容見直しに伴う職務評価の実施、通常職務に臨時雇いを就かせることを停止(組合員の雇用の安定を損なうことにつながり、団体協約違反にも当たるため)
- 4月8日、労使交渉決裂
- 5月7日、ストライキに突入
②結果
- 5月16日、労働組合の全ての要求が認められ、ストライキを終結
このストライキは、労働者が直面していた重要な問題が長期にわたる交渉を通じても解決されなかったためにフィジーで数十年振りに行われたもの。
この団体行動により、交渉の実質的進展を確保することができ、労働者の権利を守る組織的労働運動の重要な役割を再認識する機会となった。また、開発途上国で事業を展開する多国籍企業の行動への関心を高めることにもつながり、企業の社会的責任や労働慣行などに関する重大な懸念が惹起され、労働問題への公衆の関心を高めることにもなった。
